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第008話 『巨大遺跡の開かずの扉』③

 もともとが人工物であり、長い時の浸食を受けても完全には崩壊していない建造物に、自然の水と緑が融合している様は確かに人だけでも、自然だけでも創り出すことのできない不思議な美を持つに至っている。


 シロウも初めてこの場に足を踏み入れた時には、開いた口がふさがらず、しばらく言葉を発することもできなかったものだ。

 最初に踏み入ったのは、シロウ一人だけだったのだが。


 とはいえこの数年、この場所の攻略を繰り返しているのでさすがに見飽きてしまってはいる。

 どれだけ美しい光景であっても、慣れとは恐ろしいものだなあと、ほぼ全員がそのようなことを感じている。

 約二名の男どもは、異性の美しさにもそんな風に慣れることができればいいのに、とも。


 高所恐怖症のケがあるシェリルとフィアにとっては、美しい景色に慣れることはできても、落ちたら終わりの高所で戦闘を行うことには、正直いまだに慣れることができていない。

 

 そんな心配をする必要がないほどに広大な空中回廊ともいうべき通路ではあるのだが、その端には落下防止用の柵などは一切存在しない。

 過去にはあったのかもしれないが、少なくとも今は切り落とされたように何もない。


 魔物(モンスター)が端付近に湧出(ポップ)していた時などは、地味に嫌な汗をかいたりしている二人である。

 なんとなく恥ずかしいという感覚があるので、男連中には言ってはいないのだが。


 女子組二人での会話では、わりと真剣に「地下なのに高所恐怖症って、なんか納得いかない!」などと自分たちでも意味の分からぬ憤りを語り合ったりしている。

 男どもはわりと端から下をのぞき込んだりするのが好きだったりするので質が悪い。


 まあそれとてももう今はみな飽きていて、素直に空中回廊のほぼ真ん中をいつもの終点まで皆で歩いている状況だ。


「さて、希少種(レア)の魔石も手に入ったし……今日こそは()()()()?」


 いつもどおり、慣れた道行を先頭で進みながらシロウが期待を隠し切れない声で問う。

 問いのカタチこそはしているが、これは自分と同じように今日こそ『開く』ことへの期待を、仲間たちと共有したいが故の発言だ。


「どうでしょうね。扉に刻まれている魔法陣? らしきモノへの魔力の充填は前回でほぼいっぱいになったように見えたのですけれど」


 それと知りつつ、無責任なことは口にしない冷静な副長殿(カイン)である。

 前回のシロウの落胆ぶりを知るが故に、その声にはどこかからかいの色も含まれている。


「がっかりしたよ、ね……」


 その時のシロウの期待と落胆を、まるで自分のことのように共有していたシェリルがしょぼんとした声を出す。

 今のシェリルにとってシロウの一喜一憂は、自分の心に直接影響を与えるほど大切なものなのだ。


 まるで自分の心が、自分のモノではないかのように。

 もっと幼い頃の、ある日を境にしてもうずっと長い間。


「シロウなんて『うがあ!』とか意味不明の叫び声上げていたわよね?」


 本来の気弱で優しげに見える(かんばせ)とは裏腹に、悪い表情を浮かべたフィアがくすくすと思い出し笑いをしている。

 村では正体を完璧に隠しているフィアのこんな表情を見れば、村の大人たちは相当に驚くだろう。

 小動物系気弱美少女の悪い表情というものは、それはそれで魅力的なものではあるのだが。


 美的感覚云々は置いて、ヴァンにしてみればフィアが村とは違う、本音の表情を見せてくれる瞬間をとても大切なものだと思っている。

 言葉にはしないし、できないが。

 

「いやでもあれは叫ぶだろ。開いてくれると確信していたからなあ……」


 ただ揶揄される当のシロウにしてみれば、ブスくれた表情にならざるを得ない。

 自分自身にも少々みっともなかったという自覚があればなおさらである。


「まあ気持ちはわかりますよ」


 苦笑しつつのカインの発言は、別にフォローというわけでもない。


 シロウほどわかりやすく態度に出してはいなかっただけで、カインとて前回開かなかったことにはそれなりに落胆していたのだ。


 尤もそれはカインに限らず、『野晒案山子(スケアクロウ)』の党員(メンバー)全員の偽らざる本音でもある。


 『開かずの扉(ノーリーテ・ポルタ)


 それこそがこの特殊な場所を攻略し始めてから、より深い階層へ『野晒案山子(スケアクロウ)』が進むことを阻み続けた存在である。

 これを突破できないが故にここ数年、来る日も来る日もルーチンワークと化すほどおなじ区域(エリア)の攻略を繰り返すしかなかったのだ。

 人の魂を直接震わせ得るような、偉大な景色も見慣れてしまうほどに。


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