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第021話 『力と金』①

「まあどちらにせよ、今日のところは一旦引き上げるしかないですね」


 とりあえずはカインの言うとおりだ。


 確かにここでこうしていても、今日中に魔物(モンスター)再湧出(リポップ)することがないのは経験則からして間違いない。


 『開かずの扉』が起動してからそれなりに時間が経過しているが、あれ以降何か変わったことが起こるわけでもない。


 万一の変化に備えてここに張り付くことも一つの選択肢ではあるが、今日はそんな準備をしてきているはずもない。


 ないない尽くしである。

 よって引き上げるしかない。


 いかに村長の息子――というよりも実質的な村の支配者と行動を共にしているとはいえ、ノーグ村で暮らしている家族やそれに準じる人たちに要らぬ心配をかけることは、シロウたちも本意ではないのだ。


「そうだね。とりあえず一回戻ろうか」


 シロウもカインの提案を首肯する。

 そして党首(シロウ)が決めたことに否やを唱える党員(メンバー)などいないことは、いつものとおりである。


 だが簡単に引き上げるといっても、この場所はノーグ村から百数十㎞も離れている上に、入り口などどこにも確認できない地下である。


 ちなみに『水の都トゥー・リア』の攻略開始地点となる最上部は、空中回廊の先端だ。


 螺旋を巻くようにして遥かな深層部へと続く、どうやって崩れずに維持されているのかすら分からない巨大回廊と、その途中を奈落の底から天井まで貫く壁――『開かずの扉』などという景色は、現在ヒトが暮らす地上のどこを探しても似た場所さえあるはずもない。


 高所恐怖症のケがあるシェリルとフィアは正直苦手だが、非日常の冒険、その開始地点としてはこれ以上ないくらい()()()場所でもある。


 そんな場所(行き止まり)がどうして迷宮攻略(ダンジョン・アタック)の開始地点となれるのか、その理由。


 それは『転移魔法陣(テレポーター)』の存在だ。


 大魔導期(エラ・グランマギカ)には基本的な社会基盤インフラストラクチャーの一つとしてラ・ナ大陸のみならず世界中に張り巡らされていた、もっとも一般的な長距離移動手段である。


 そこれがここと、ノーグ村近辺にも現存している。

シロウたちが今のところ把握している二つの『転移魔法陣(テレポーター)』は、両方とも一方通行。


 一つはノーグ村付近の朽ちた建築物の地下室から、ここ『水の都トゥー・リア』のおそらくは入り口にあたる空中回廊の最上部へ。

 もう一つは今シロウたちがいる『開かずの扉』の前から、ノーグ村付近の朽ちた建築物の中庭だったらしき場所へ。


 『転移魔法陣(テレポーター)』には直径10m程度の寸分違わぬ魔法陣が(しる)されており、最弱級である魔物(モンスター)の魔石一つ分の魔力を使用すれば起動する。


 いまのところ五人を最多数としてしか使用してはいないが、おそらくは直径10mの円内に入っていれば制限なく転移できるとシロウたちは推測している。

 これがノーグ村から百数十㎞も離れ、その上地面の下にある地下都市(ジオ・フロント)『水の都トゥー・リア』の攻略を、『野晒案山子(スケアクロウ)』が日課(ルーチンワーク)にできる理由である。


 ちなみに『転移魔法陣』は他にもいくつか発見されてはいるが、公的に起動し運用されているものは現在存在しない。

 その多くは国に管理されており、表向きにはどうすれば起動するのかすら謎という(てい)になっている。


 実際はよほどの緊急事態用――王族級の貴顕たちが命の危機に際しての脱出手段など――という例外として極々一部に知られている以外は、大多数の人々に対してその機能はおろか所在すら秘匿されているものがほとんどである。

 中には隠しようもない場所に存在するが故に、『貴重な古代遺物』として観光名所などになっているものもあるのだが。


 起動しており魔力さえあれば誰でも転移できるモノと、登録された情報と一致した者しか転移しないモノが存在するが、『水の都トゥー・リア』とノーグ村近辺を繋ぐ二つのそれは前者だ。

 魔石を使用しなければならないとはいえ、逆に言えばそれだけでこの場所へ来ることが可能になるということでもある。

 ゆえにシロウたちは『水の都トゥー・リア(ここ)』行きの転移魔法陣がある廃屋の地下室については、結構念入りに隠蔽工作を施している。


 とにかくノーグ村へ帰ると決めたのであれば、今シロウたちがいる場所から十数メートルを移動して『転移魔法陣』を起動すれば、その行程の99%以上は瞬時に完了するというわけだ。

 シロウたちの迷宮攻略(ダンジョン・アタック)に要する移動を除いた移動距離は、実質ノーグ村の脇、朽ちた建築物のある小高い丘の昇り降りだけなのである。


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