第014話 『状況分析』①
「でも今更の話なのよね、少なくとも二人にとっては? そういうことも想定した上で、今までやってきたってことでしょう?」
確認するようにフィアが問う。
その問いに対する回答は言葉ではなく、苦笑いのようなシロウとカインの表情だ。
つまりはフィアの問いかけを肯定している。
先刻のシロウとカイン二人会話からすれば、最悪に近いとはいえ扉のこの反応も彼らの想定の範囲内であることはまず間違いなさそうだ。
そして最も悪い事態を最初に提示しているだけであり、どうやら二人はその可能性は低いと見積もっているらしいことも、その雰囲気からなんとなく伝わってくる。
正直それにほっとしている自分に、忸怩たるものを感じなくもないフィアである。
「で、さっきの光はどこへ向かったと想定しているの? 我らが党首殿と副官殿は」
半ば以上、わざとあきれた口調を作ってフィアが重ねて問いかける。
そんな危険を承知でこの場の攻略を続けていたことに対して異議を唱えることなど、『野晒案山子』の党員である以上するはずもない。
最初に党員にしてもらう時点で、この場所の攻略を進めることが命の危険が伴うことをしっかりと明言されている。
それでもかまわないからと半ば強引に参加したのがフィア、シェリル、ヴァンの三人なのだから。
シロウとカイン、特にカインは当初、二人でこの場の攻略を続けるつもりだったのはまず間違いない。
そしてそれは別に不可能というわけでもない。
カインがシェリルの『盾』とヴァンの『戦闘服』も装備して前衛、シロウがフィアの『白の魔導書』と『位相空間制御の冠』を装備して後衛を担えば、下手をすれば今よりも効率的に攻略を進めることが可能まであり得る。
いや少なくともフィアは確実にそうだろうと判断している。
それでも渋るカインを説得し、「皆で強くなる方が楽しい」といってくれたのはシロウである。
そもそも貸し与えられている魔導武装がもともとはカインの所有物である以上、感謝をしこそすれ文句を言う筋合いなどどこにもないのだ。
だからフィアは今更、危険な状況になっている可能性の責任を問うているのではない。
指導者たちの考えと判断、今後の行動予定を聞いておくことは必要だから問うているのだ。
万が一の場合に、足手まといにだけは決してならないためにも。
フィアだけではなくシェリルもヴァンも、必要になれば自分たちが今使用している魔導武装を、シロウとカインに今すぐに返すことになんの躊躇も感じない。
もしもそれが自分の死に直結するとしても、そもそもその命はあの日二人に救ってもらったものなのだから。
「いくつかの候補でよければ」
フィアの質問にカインが即応する。
「この状況で完璧な答えを要求するほど馬鹿じゃないつもりよ?」
フィアとてもそんなことくらいは理解できている。
逆にこの状況でたった一つの場合しか想定していないというのであれば、それはよほどの愚か者か、あるいははじめから正しい答えを知っているかしかありえない。
シロウとカインは愚か者でもなければ、その答えを知っていて仲間に対してもったいぶるような性格でもない。
とはいえカインは地味にシロウ以外には厳しめで、フィアは正直怒られたり呆れられたりするのがちょっと怖いと思っていたりする。
暴言を吐かれたり、あからさまに見下されたりするわけではない。
客観的に見てカインのお小言は、優しく丁寧に「足りない部分」を指摘してくれていると言っていいだろう。
それを怖く感じるというのは本人も正確には自覚できていないとはいえ、カインに失望される自分を嫌だと想っているからだ。
恋心と似ているが明確に異なるモノ。
恩に報いきれていない自分に感じる忸怩たる感情が、そう思わせる。
「そうだね。もしもそうだとしたら、それなりに可能性が高いのは……聖シーズ教」
「…………神聖騎士団の方々はそんなに強くなかったよね?」
カインからちょっと意外な言葉が出てきたことにフィアは素で驚く。
複数あるらしい候補の中で最初に上げているということは、その可能性は低いと判断してはいるのだろう。
だがわりと早期に、自分たちにとって『当面の害はない』と判断した対象の名が挙がったことには以外の念を禁じ得ない。
確かに聖シーズ教は『迷宮保有国家群』と深く繋がっており、自身が保有する武力である『神聖騎士団』を迷宮、遺跡、魔物領域へ派遣することで『成長』させ、小国どころか大国とすら伍するだけの力を有している。
それは政治力や経済力だけではなく、軍事力――暴力の分野においてもということだ。