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魔法の国の呪文

さら〜っと読んで、くすっと笑って頂けますように。




「コルデリア・ド・ラ・モランシー。貴女との婚約を解消する」

学園の卒業パーティーに、ジュリアン第一王子の声が響いた。

「親から押し付けられた婚約なんて、ナンセンスだ。僕は、愛に生きることにした。僕は、エリザベーヌと結婚する」


彼の胸には、男爵令嬢のエリザベーヌが、うっとりとした顔をして、縋り付いている。



「どうぞどうぞ」

むしろほっとしてわたしは答えた。これで、王妃という厄介な地位をおしつけられることはなくなったわけね。

「でも、モランシー公国との防衛協定は守って下さいね」


それだけが、わが父、モランシー公爵が、わたしに託した望みだった。辺境の領邦、モランシー公国は、大国ロタリンギアの保護がなければ、周辺諸国に分割され、跡形もなく消えてしまうだろう。



ジュリアン王子が鼻を鳴らした。知能の低い生き物を見る目で、わたしを見つめている。

「今、言ったろ。僕は、愛に生きるんだ。婚約絡みの防衛協定は、白紙に戻す。協定を継続したいのなら、純粋に外交ルートを使うことだな」


そんなことを言ったって、普通のルートで、モランシーのような領邦を、ロタリンギアのような大国が相手にしてくれるわけがない。


「それは困りましたわ」

わたしは途方に暮れた。



 ……「絶対、王太子ジュリアン殿下を手放すな」

これが、父からの厳命だった。


一方で、父は、娘の外見に関する、領邦の公民達の評価を理解していた。……仕方がないのよ。女性の美しさにだって、その時々の流行ってものがあるから。わたしだって、もう千年ほど早く生まれていれば、天下の美姫と評判になっていたはず。


その上わたしは、オツムの出来も大したことないし、性格も……いえ、それほど悪いわけじゃ、ございませんのよ?

つまり、何が言いたいかと言うと、ロタリンギア王国の王太子を繋ぎとめておくには、わたしでは荷が重すぎたということ。



 ……「もし、ジュリアン皇太子が、他の令嬢に目移りしたら、」


そういうわけで、父は、ある呪文をわたしに授けた。モランシー公爵家には、代々、伝わる魔術がある。もっとも、財宝や秘伝の技と同じく、次第に、伝えられる魔術の数と、質も、目減りしているけど。モランシーの末裔であるわたし自身、自分のことを考えると、まあそうだろうな、と思う。



忘れっぽいわたしの為に、父は、何度も何度も、その呪文を練習させた。学園に入学してからも、時折、母国モランシーから、オウムが飛んできて、大切な呪文を、わたしが忘れていないか抜き打ちテストをする。もちろん、落第ばかりで、テストの後、わたしは何度も、オウムの後について、呪文を練習させられた。


 結構難しい呪文なのよ、これが。



「別に、殿下に未練があるわけじゃございませんことよ。ただ、貴方が約束を破ったから。国と国との約束を。そこのところ、誤解なきよう」



オウム先生の抜き打ちテストには落第ばかりだったけど、この大切な晴れ舞台(?)では、奇跡的に、噛まずに、唱えることができた。わたしは、実践には強いのだ。


ごめんなさい。一ヶ所だけ、言い間違えたわ。「ei」の発音を、正しくは「アイ」なのだけれど、「イーッ」って、言っちゃったの。ちょうど子どもが悪態をつくような感じで、歯茎を剥きだして、「イーッ」って感じ?


だって、そう読めるんだから、仕方がないわ。練習の時も、よくここを間違えて、オウムに、頭をつつかれたものよ。

でも、大丈夫。ここにうるさいオウムはいない。誰にもわかりゃしないわ。



呪文を唱え終わった途端、嵐のような波動が、わたしの全身から放たれた。周囲が歪み、ごうごうと熱い風が吹き抜ける。不気味な熱波は、龍の形となって、鎌首を擡げた。



「あら? あらあらあら?」

ちょっと、お父様。これ、何? 何の呪文かしら。

そういえば、呪文を覚えるのに精いっぱいで、肝心のそこのところを聞いていなかったっけ。



 熱波で形作られた竜が、かっと口を開いた。


「うわあーーーーーっ!」

ジュリアンの悲鳴が、ダンスホールに響き渡った。










私には、異世界へ行こうとして、うっかりハプスブルク家へ行ってしまった過去があります。お作法に外れる描写があったらお許し下さい。


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