雪に埋もれる
マッチョ長男に案内され4人はすぐ近くの立ち飲み屋に来た。
店はまだ早い時間にも関わらず既に3組程の客がいた。客の視線が集まる。
ユーリも背は高い方だがこのマッチョ三兄弟はそれより遥かにデカく、4人が入り口に立つととてつも無く威圧感があるため、一部は少し怯えている。
騒がしかったのが急に静かになったので変に思ったちょび髭にベストでピシッと決めた店主が出てきた。
「店主!今日は我らが若き星!ユーリさんを連れてきたぞ!あるだけの酒を出してくれ!」
マッチョ長男が大きな声でそう言うと店主は大きくため息をつく。
「出たなマッチョ三兄弟〜お前らはデカいんだからちょっとは自重してくれよ!ユーリ様を連れてきたなんて嘘もつきやがって」
一応マッチョ三兄弟も相当偉い立場にいるのだが店主と相当仲が良いのか本当に迷惑そうにしている。
「嘘ではなーい!!!」
マッチョ次男がまたまたデカい声で返事をする。
ユーリの心情は既に帰りたいの言葉で埋め尽くされていた。
店主は不機嫌そうにツカツカと4人の元に歩み寄りモフモフにコートを着たユーリをジッと見る。
するとみるみる内に顔を青くし、その場で土下座する。
「ま!まさかご本人とは!無礼をお許しくださいー!!!」
主人がそう言うと他の客もザワザワと騒ぎ始めた。
「いえ、私もあまりこういう場には来ないので…顔をあげてください」
ユーリも膝をつき店主の肩を持つ。
「おお、噂通りの聖人だ…」
マッチョ三兄弟が得意そうに笑っている。
「ささ!こちらにどうぞ。」
店主が4人を案内したのは奥の部屋、つまりVIPルームだ。
ユーリは特に有名で目立つので気を利かせてくれたのだった。
「店主、すみません気を使わせてしまって」
ユーリがペコリと頭を下げると店主は手と顔をブンブンと振ってとんでもない!と言う。
「店主、ここで一番いい酒を、我が上司に。」
突然マッチョ三男がキリッと顔を決めて言い出す。
「調子乗りやがって、言われずともだ!ユーリ様、飲み方はどうしますか?」
店主がユーリに聞くと、ユーリは少し顔を赤らめて顔をコートに埋める。
「実はあまり酒は得意でなくて…甘いのを頼めますか?」
「ぐ……っ!!!!」
あの剣の申し子のような戦場を駆け抜ける星が酒が苦手で甘い酒を要求するとはマッチョ三兄弟と店主はそのギャップにやられる。
「もちろんでございます!ではおすすめのカクテルをお持ちします。あーマッチョ共はストレートでいいでしょ」
そう言うと店主はどこから出したか分からない酒樽をドンドンドンと3つ机に置き、部屋を後にする。
「おお!酒だー!」
3人はガバッと蓋を開けると、ユーリの方を見て待っている。
「…あぁ、俺のことは気にしないで飲んでください!」
ユーリがどうぞどうぞと手を差し伸べると、
「いえ!ユーリさんと乾杯するのが夢なので!」
マッチョ長男が言い、次男三男もうんうんと頷く。
その様子を見てつい、笑ってしまう。
「あはは!夢だなんて大袈裟ですよ、いつだって誘ってください」
ユーリが声を上げて笑うと3人は驚く。
もう1年以上ユーリの下で働くがいつも冷静沈着で厳かな雰囲気を纏い、戦場では軍神とも思える程、血に塗れた姿も美しいそんな人が、年相応に笑うなどと思わなかったのだ。
「ユーリさんってそうやって笑うんですね…」
つい三男がそう溢すとユーリはハッとなりコホン!と咳払いをしてまた真面目な表情に戻る。
「あ!お前余計なこと言うな!」
「そうだぞ!ばか!もっと見たいぞ!」
「ご、ごめん〜」
マッチョ三男は長男次男に怒られる。
それを見てまたユーリはクスクス笑う。わざと笑うのをやめて三男をいじめてみたのだ。
「…ふふ、冗談です。仕事中には笑う機会なんてありませんでしたから。でもここでは無礼講という事で楽しませてもらいますね。」
「ユーリさぁん…」
マッチョ三男は少し困ったような、しかし嬉しそうな顔をしていた。