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作為のミュートロギア  作者: 楳々うら
14/26

ルーブの胸内

「おーい!セーンカー!」


ユサユサと揺さぶられ二度寝していたセンカが不愉快そうに目を覚ます。


「んだよシャムール…ガキは朝から元気でいいなクソ」


「機嫌と口の悪さが比例してる!ハハ!ウケる〜!」


ケタケタとセンカの上にバフっと乗るシャムールにウッと苦しそうにするセンカをみてシンスは髪を結びながら、


「ルーブ殿と朝食をいただく約束をしてしまっている。カレン…あいや、センカ体調はどうだ?」


「…別に何ともねーよ。ただねみぃだけ。」


センカがゆっくり体を起こし、目にかかる朝日を恨めしそうにしているとシャムールの顔にセンカの髪が掛かる。


「センカ癖っ毛だよねぇ。めっちゃクルクルしてるよー可愛いけど」


シャムールがセンカの下ろした髪に触れる。


「わ!めっちゃふわふわ〜!」


センカの髪に頬をつけて気持ち良さそうにするシャムールを引き剥がし、ベッドから降りる。


「クソ女のせいでこんな髪になっちまったんだよ。色も変わっちまったし。」


広がる髪を鬱陶しく思いながら、洗面台にあったリボンを口に咥えていつも通り後ろで一つ三つ編みにして纏めている。


「クソ女ってカレンデュラのこと?元はどんなんだったの?」


「そーだよ。元の髪は藍色でストレートだったんだ。あいつがまだ体が元気だった頃はこんな風にクルクル頭でよー毎日俺に髪の手入れさせてやがって。そのくせいつも俺にあーだこーだ言って…それに」


「それに?」


「…いやなんでもねぇ」


シャムールはふふっと笑う。


「センカとカレンデュラは仲が良いんだね」


シャムールがそう言うとセンカの言葉が止まり、表情も曇る。


「仲良くねーよ。大嫌いだぜ。お互いにな。」


「え…」


センカはクローゼットに向かい服を黙々と着替え始める。

昨日まで着ていた女性らしい服ではなく、男性のシンプルな服装だ。

見た目が綺麗で女装が似合いすぎていたせいか、違和感すら覚えるが。


「あ、そうだシャムールお前の服も買っといたぞ」


センカが何やら荷物をゴソゴソと探り、ポンとシャムールに投げ付けた。

真っ白ななんの変哲もない服だ。


「何これ?」


「アラビアーテ人の男性服。」


「え!?なんで!?」


「あの服は目立つだろうが!スケスケのヒラヒラでおかしいだろ!」


「似合っていたがな」


まさかのシンスが参戦。

シャムールはキラキラとした目でシンスを見て、キッとセンカを睨む


「俺は可愛いからいいんだよ!」


「可愛い可愛くねぇ関係無いんだよ馬鹿目立つからだっつーの。シンスも、あれじゃ目立って一緒にいる俺らまで注目浴びるぜ」


「それは確かに困る。シャムール悪いが替えてくれ。」


「んひぃ〜!シンスぅ〜!!」


渋々あのスケスケフリフリの服ではなくまさしくシンプルな真っ白な服に泣きながら着替える。


「俺の…!アイデンティティが…!」


「意味不明なこと言ってねーでさっさと着替えろよな。あーホラ髪も纏めろ。邪魔になってる。」


センカはシャムールの後ろに回って長い黒い髪を梳かしながらポニーテールにしてやる。


「…センカって面倒見いいね、お兄ちゃんって感じ」


「ばか何言ってんだよ」


「どちらかと言うとお母さんだな」


「はぁ!?シンス…ばか!!」


センカは照れているのか本気で怒っているのか顔を真っ赤にしている。

それを笑うシャムール。

そんな最中コンコンとノックが聞こえて来る。


「失礼します。お迎えにあがりました。」


現れたのはペソ。


「あぁ、ありがとう。」


シンスが答えるとペソはいえ、と一言言うだけで顔を逸らす。

シンスが別の方を見るとジロリと睨みつけているのを見てしまったシャムール。

これは修羅場の予感?と一人でドキドキしている。

3人が支度を整え、ペソの後について行く。

廊下に飾られている男女の肖像画をチラリと見るペソに釣られ、シャムールも見ると気付かなかったがそこに描かれた女性は銀髪に青い目。キリッとした目がなんとなく雰囲気がシンスに似ているような気がする。


「ねーセンカ、この女の人シンスに似てない?」


「あー?まぁ言われてみれば似てる気もするな。」


「私は男だ…似てないだろう…」


シンスは困った顔をする。

3人はスタスタと歩いて行くペソに置いていかれそうになり、急足で追いかける。

すると昨日とは違う、中庭を抜けた先にある温室に案内される。

ガラス張りの建物で中は少し暖かくこの時期にはない鮮やかな色の花がそこら中に咲いている。

つい3人はその美しさに目を奪われる。

その真ん中に白い石でできたテーブルの席について手を振っているのはルーブだった。


「やぁ、ここは僕のお気に入りでね。御三方も気に入って下さったかな?」


「凄く綺麗だ。良き場所に連れてきてくれて感謝する。」


シンスが3人を代表し礼を言い、センカとシャムールも後に続いて頭を下げる。


「…早くお席について下さいませ。」


ペソがそう言うと、


「こらペソ、そんな風に言うのは誤解を招くよ。食事はまだ運ばれてきていないから、良かったら中を見物しましょう。」


ルーブが立ち上がり、シンスに腕を差し出すが、シンスは少し困った表情をする。

その意味が分からなかったからだ。

それに助け舟をセンカとシャムールが


「ほらガキ逸れんなよ」


センカがルーブと同じように腕を差し出す。


「はーいセンカお兄ちゃん♪」


シャムールがセンカの腕を取り、エスコートを受ける。

それでようやくシンスが気付き、手を出そうとするとペソが口を開いた。


「ルーブ様、シンス王子は男性です。その様なことは逆に失礼に当たるかと。」


事実エスコートのお誘いは男性から女性にするものである。


「あ、そうか…申し訳ない…ついね」


そう言い腕を下ろすルーブの表情は寂しそうだった。


「…いや、明日の予行練習として、ルーブ殿、私をエスコートして下さるか。」


シンスが微笑んで手を出すとルーブはシンスの目を見つめる。

瞳の先にある、奥の方を見つめてコクリと頷き二人は腕を組んだ。

それをなんとも言えない表情で見るセンカと、羨ましそうにするシャムール、そして誰よりも険しい表情のペソ。

シンスはルーブの誘いに乗り、奥のバラ園に行ってしまった。

二人が去るとセンカはシャムールから離れる。


「え!なんで!俺をエスコートしてくれないの!?」


「馬鹿かお前なんで俺がガキなんかエスコートすんだよ!」


「冷たい〜でも俺たちも折角だしバラ園見せてもらう?」


「おー」


「お待ちを。」


二人が奥へ向かおうとするのに立ちはだかったのはペソ。

不思議そうにする二人にペソは頭を下げる。


「どうか、ルーブ様に一時の夢を。」


「もしかしてルーブさん本気でシンスを…?」


青ざめるセンカにペソは頭をフルフルと横に振った。


「シンス王子は、ルーブ様の亡き婚約者の面影をお持ちなのです。」


「えぇ!?」


「あのおっさん婚約者とかいたのかよ!」


「…はい、お泊まりになった部屋の廊下にお二人の肖像画がございましたでしょう」


センカとシャムールは思い出す。

そういえばシンスみたいに綺麗な人だね〜とシャムールが喜んでいたあの絵、その横に立っていたイケメン…ん?あれが、ルーブ?


「え?あれ?美化しすぎで分かんなかった」


センカが言うとペソは首に下げた懐中時計を開けて二人に見せると、小さな白黒写真。

そこに写っているのはあの肖像画と同じ。


「あれは正真正銘のルーブ様です。」


「ええ!?!」


「はぁ!?!」


二人は仰天し顔を見合わせる。

あの美男子がルーブ?今の小太りのおっさんが…?


「婚約者が亡くなってからルーブ様に近寄る女は多数おりました。それから…ルーブ様は」


「わざと太ったってか!?」


「…恐らく」


いや単にショックで太っただけでは…と思う二人だったがあえて口に出さなかった。


バラ園の真ん中で、その噂のルーブとシンスが話をしていた。


「シンス王子」


「王子など付けないで構いませんよルーブ殿」


「では、シンス、さん」


「はい。」


「…シンスさんは私の婚約者に雰囲気が似ていましてね、それでつい色々とお誘いしてしまったわけですが…」


ルーブは緊張しているようでゴクリと唾を飲み込む。


「明日はその僕の…」


「ルーブ殿の奥方として参加させていただくつもりだ。」


シンスは笑っている。

その笑顔は安心しろ、とでも言うかのようだ。

ルーブは胸が熱くなる。あぁ、もう何年も前にこの世からいなくなってしまった、もう会う事も叶わないあの美しいフランが笑っている。

いや、フランではなく、彼は全くの別人であるのはわかっている。

初めて出会ったあの日を思い出してしまう。

真っ白な素肌が透ける銀髪に力強い藍色の瞳。敵国の令嬢だった彼女とは大恋愛をし、彼女と結ばれる為だけにこの国を動かして、漸く愛が結ばれようとしていたのに…

盗まれたかのように、彼女の国と首は神国に奪われてしまった。

ルーブは悔しさでガリっと音が鳴るほどに歯を食いしばる。

正直彼女を手に入れるために悪い事もした、酷い事もした。

それが自分への罰なのか…その後神国と全面戦争になってから5年経った今も心を抉られる様な痛みが消えない。癒えない。休まらない…。


「ルーブ殿」


シンスの声にハッとする。

やはり彼女と同じ声とまではいかない。

シンスはあくまでも男で、声だって女性らしいわけではない。

しかし話し方も少し似ている。

彼女も僕をルーブ殿と呼んでいた。


「はは、すまない。シンスさんに面影を感じてつい、思い出してしまっただけです。」


「…逆に私といては辛くはないのでしょうか」


「辛そうに見えますか?」


シンスは正直にコクリと頷く。

ルーブは悲しそうに笑った。


「むしろ貴方をずっと…」


「ルーブさーん!!!ねぇルーブさーん!!!」


後ろからシャムールが走ってこちらに向かっている。その後ろにセンカが歩いて溜息をついている。

僕は何を言おうとしたのか…皆まで言わず良かったと心から安堵する。

駆け寄ってきたシャムールに腰をかがめる。


「シャムールちゃん、どうしたんだい?」


「ルーブさんって昔イケメンだったの!?」


「え?」


「す、すみませんペソさんから話を聞いてあの廊下の肖像画がルーブさんって…」


追いついたセンカが申し訳なさそうに頭を下げて上目遣いで話す。


「あぁ…痩せていた頃のかな?」


「やっぱりあれルーブさんなのかよー!!!!」


シャムールはのけぞって倒れる。


「イケメンの時期に出会いたかった…」


小さな声で言っているが全員に聞こえてセンカは特に気まずそうにしている。

シンスがシャムールに手を差し伸べて起き上がらせる。


「シャムール、ルーブ殿は今もいけめんだ。ずっと一人を想い続ける素敵な人だ。」


「…婚約者の…?」


「あはは、いやいやお恥ずかしいですな…」


4人が歓談しているとペソが後ろから姿を表した。


「お食事の用意ができました。皆様お席にお戻りくださいませ。」

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