プロローグ
『ごめん、別れてください』
彼女からは告げられなかった。
その一言から始まった手紙を数分前に彼女の友達から渡された。
『松川くんとは一緒にいてもあんまり楽しくない気がしたの、自分勝手でごめん』
彼女がいつも書く丸っこい字で綴られた文章が段々読みづらくなってくる。
『あと、私が振られたってことでいいから、それじゃあ』
手紙の文章はここで終わった。
たった三行だったが、俺の心に深く染み込んだ三行だった。
気づいたら覚えていないほど、何回も何回も繰り返し読んでいた。
なにが駄目だったのか、どうして楽しくなかったのか。
今思えば、俺は自分の話しかしなかった。
彼女にもっと自分のことを知ってほしい。
自分のことしか見ずに、彼女の事を知ろうとしなかった。
彼女という人を知るという事を放棄したんだ。
そう思うと、申し訳なくなった。
恋愛なんて、彼女作るのがゴールじゃなかったんだ。
作ってからがスタート、それまでは準備運動に過ぎないんだ。
練習しないで試合に臨む、それは相手を知らないまま付き合うということなんだ。
そりゃ、ゴールなんて出来る筈ないさ。
こうして俺はこの出来事から今に至るまで彼女が出来ていない。
逆を言えば、好きになった人を知ろうとした事により月日がどんどんどんどんが過ぎていき、気がつけばその子に彼氏が出来ていたなんてケースが殆ど。
前は、練習しないで出走するタイプ。
今は、練習に時間を掛けて出走しないタイプ。
どちらもゴールするわけがない。
ましてや、出会った矢先に運命なんて馬鹿馬鹿しい。
相手がどういう人なのかも知らずに一方的に「運命的!」なんて練習も何もしてない人にいきなり「走れ!」なんて言ってるのと変わりない。
何を言ってるんだろうと俺でも分かっている。
ただ、これだけは言わせてほしい。
運命の赤い糸なんて無いんだ。