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あれから2週間、クラウス邸の警備をしながら、騎士たちの訓練にも参加させてもらっていた
「ハルト様、旦那様がお呼びです」
「了解した。ヘリオス殿行ってきます」
「うむ」
騎士団長に断りをいれてからクラウス様の元に向かう
「やあ、来たね」
「お呼びと聞きましたが」
「少し頼みがあってね」
「頼みですか」
「サラなんだけどね。あの子が王都に向かうのは婚約者に会うためなんだよ」
「婚約者ですか」
「うん、実はその婚約者なんだけど、王女様にご執心でね。だけど1度婚約したからには簡単には破談に出来ない」
「まさか…」
「恐らくサラの命までは狙っていないとは思うんだけど、誘拐しようとしたんじゃないかな」
「誘拐されれば貞操に疑いがあると言うわけですか」
「貴族は外聞を気にするからね。事実では無くても疑いがあるだけでね。まあ、サラは美人だから貴族は無理でもそれでもいいと言う人はいるだろうね」
「……」
「今回は陛下とも会うから正式に婚礼まで進むだろうね、陛下が認めてしまえば覆せない」
「どんな手を使ってくるかわからないということですか」
「うん、騎士は20人が限界なんだ。傭兵も頼みたいけど、いつも頼んでる者達はこの街に居なくてね。兵士だと移動速度が落ちるしね」
「人形なら疲れないから駆け足でも大丈夫ですからね」
「ハルト君が居て良かったよ」
「…俺をそこまで信用して大丈夫なんですか?」
「はっはっは!もちろん最初は警戒したよ。あまりにタイミングが良すぎたからね」
「確かに怪しいですね」
「だよね。悪いけど監視はさせてもらっていたよ。警備を任せたのも監視の為だったからね。だけど期待もしていたんだよ。サラの護衛には悩んでいたからね。ハルト君は人形を扱えるから信用に足りる人物なら私としてはこれ以上の人物は居ない。人形があればいくらでも戦力が増やせるんだからね」
ここでクラウス様は真剣な表情になる
「ハルト君。サラを無事王都に届けて欲しい。現在全力で王宮に根回しをして婚約解消に向けて動いている。だが、サラがこの街を立つまでには間に合わないだろう。王都に着くまでにはなんとかしたいが途中で襲われるのは確実だ」
未だ国内では派閥に別れて貴族同士の争いはおこなわれているが、王家を蔑ろに出来ない程には影響力を保っている
今回の婚約は王族派同士の婚約となり、派閥として連携を深める意味があるため簡単には婚約破棄とはならなかったが、セラの襲撃には国王も驚き密かに情報を集めさせている
今回セラが王都に移動する話は犯人のあぶり出しも兼ねており、クラウスも当然承知している
「わかりました。全力を尽くします」
「よろしく頼む。王都には私の息子が居るから着いたらもてなすように手紙を送ってある。無事に着いたら王都を観光するといい」
クラウス様との話し合いから4日、王都へ立つ日が来た
「皆頼んだよ」
「セラをお願いします」
「「はっ!」」
「お父様、お母様、行ってまいります」
セラ様が馬車に乗り込むと騎士とハルトは騎乗して馬車を護るように囲む。人形達は鉄製5体、木製10体でクラウス様が用意した鎧を身に付けている
「出発!」
王都へと向かう事4日、最初の街に到着する
「セラ様、到着しました」
「わかりました」
セラ様はこの街の領主の館に泊まるため、護衛の女騎士以外は街の宿に泊まる事になる
「ハルト殿」
「どうしましたヘリオス殿?」
「この街を出れば後は王都まで10日ほどです。途中村で宿泊はしますが、基本は野営になります。襲撃があるとすればこの先でしょう」
「ふむ、野営は人形達に警戒させれば通常よりは安全でしょうが…」
「前回はオークに襲われました。おそらく魔物を扱える者がいるのでしょう。夜行性のモンスターを使役されたら危険です」
「夜襲は無いと思いたいですね。セラ様の命までは取らないだろうとクラウス様は判断していましたから」
すでに婚約者が王女様にご執心なのは国王含め貴族の間では公然の秘密なので、セラ様が万が一にでも亡くなるような事になれば真っ先に疑われる事になる
「やはり誘拐が目的ですか」
「おそらくは」
「ですが警戒は必要です」
「ヘリオス団長」
「どうした」
「キルギス傭兵団のアルビン団長が来ています」
「アルビン殿が?」
「はい、下の食堂でお待ちです」
「わかった。ハルト殿も来ますか?」
「ご一緒します」
食堂へと降りると20人ほどのそれとわかる傭兵が食事をしていた
「アルビン殿」
「おお、ヘリオス殿。お久しぶりです。おや?そちらは?」
「こちらはハルト殿です」
「ハルトです、傭兵をしています。アルビン殿の事はクラウス様から聞いています」
「そうですか。よろしく頼むハルト殿」
「こちらこそよろしくお願いしますアルビン殿」
傭兵と聞くと乱暴者で礼儀知らずと思われるかもしれないが、護衛依頼や警備などを主とする傭兵は貴族や商人などと関わる事が比較的多い。礼儀知らずな傭兵は仕事が受けられないとは言わないが、先輩や傭兵団の仲間から教えられるため最低限の礼儀を弁えている者がほとんどである
「それで、アルビン殿はどうしてこちらに?依頼で離れていたと聞いていますが」
「うむ、クラウス様へ帰還の挨拶に行ったのだが、セラ様が1日前に王都に向かわれたと言うではないか。しかも、命を狙われているかもしれないと」
「はい、まだ襲撃はありませんが王都に着くまでにはあると考えています」
「許せぬ!我らがセラ様を襲撃しようなどとわ!」
「そうだ!」
「許せるか!」
「我らキルギス傭兵団はセラ様の護衛をさせて頂く!」
「「おう!」」
こうしてキルギス傭兵団が護衛に加わった
キルギス傭兵団
別名セラ様親衛隊
団長のアルビンは冤罪で奴隷に落ちていたが、クラウスにより冤罪と証明されたため解放された。生涯の忠誠を誓っているが、元奴隷では騎士には成れないとクラウスからの誘い断って傭兵としてクラウスを支えている
団員は孤児院出身者で占められており、幼い頃からテレサに連れられて訪れていたセラとは顔なじみであり、密かに憧れを抱いていた者達ばかりだ
セラの危機と聞き長期日程の護衛依頼から戻って僅か2時間後には出発している
通常は数日間の休みをとり物資の補給などを入れたら5日以上は活動をしないのが普通だ
「ヘリオス殿、ハルト殿、共にセラ様をお守り致しましょう」
「ええ」
「は、はい」
狂気じみたキルギス傭兵団のやる気にハルトは密かに戦慄していた