最後の食事はおにぎり
本営のある後方から駆けてきた伝令が小隊を指揮している少尉殿に何事か告げた後、隣の部隊がいる方へ駆け去っていった。
少尉殿が小隊の生き残りを集め、残っていた地雷や爆薬を敵兵が進んで来ると思われる場所に敷設させると本営に向けて出発する。
野戦病院の近くを通ったとき横たわっている将兵達の中から、弱々しい「連れてってくれー」「見捨てないでくれー」という叫び声が聞こえ、「大日本帝国万歳」の叫びと共に手榴弾の炸裂する音が連続して響いて来た。
本営には前線に散らばり敵兵と睨みあっていた将兵が三々五々集まって来ている。
僕が所属している歩兵師団の将兵だけで無く乗艦する船が無い海軍の水兵や乗機する飛行機の無くなった陸海軍の飛行兵や整備兵、軍属の民間人や最前線の兵士は金払いが良いからとこの島に稼ぎに来た春を売る女性達もいた。
あ! 僕の初めてを貰ってくれたお姉さんもいる。
家族の為にこの仕事をしているって言ってたけど稼いだお金、家族に送金できたのかな?
僕に気がついたお姉さんが胸の前で小さく手を振ってくれた。
僕は直立不動の姿勢をとりお姉さんに向けて頭を下げる。
本営に集まった将兵に銃弾と手榴弾、あるところにはあるんだな、それにおにぎり2個と薄く切った沢庵5枚に飯盒の蓋一杯の具の無い味噌汁が支給された、僕は最後の食事を味わいながら食す。
民間人や銃を所持していない将兵にはおにぎり等と共に竹槍が渡されている。
太陽が沈み頭上一面に星空が広がった。
小隊を指揮していた少尉殿など若手の将校や古参の下士官が最初に出撃し先頭を進む、その後を僕を含む大勢の将兵と民間人が足音を忍ばせて続く。
本営を出発して2時間程過ぎた頃、突然敵陣がある方角から照明弾が撃ち上げられ機関銃のドドドドドドドド!という発射音が聞こえて来た。
見つかったんだ。
僕は周りにいる将兵と同じように「バンザーイ」と大声で叫び、手に持つ99式歩兵銃を握りしめ敵陣がある方角に向けて駆け出した。