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7.第十三聖騎士団




「なんでこんな魔物が聖騎士団に入れるんだよ!!」


 アレクが叫んだ。

 何度同じこと言ってるんだこいつ。


「国王陛下が言ったこと聞いてなかったの?あたしに聖騎士団に入れって言ってたでしょ!」


「聞いてたけどよ!!なんで第十三聖騎士団に入るんだよ!?」


「ここに入れって言われたんだもん!文句があるならアンタが出て行きなさいよ!!」


「俺は副団長なんだよ!!」


「あたしが代わりに副団長やってあげるわよ!」


「ふざけんなぁぁっ!!」


「うるさいぞアレク」


 ティルトがアレクの背中を蹴り飛ばした。


「ローゼンはリーヘルト家の一員として面倒をみろという命令だ。俺の従姉妹にあたるのだから、俺の下に付けて見張る。文句があるならクソ親父に言え」


「ぐぬぅ……」


 ティルトに言われると、アレクは悔しそうに唸った。やっぱり下っ端だ。

 ティルトはそれ以上アレクに構わず、整然と立ち並ぶ団員達に向き直った。


「という訳で、今日から我が第十三聖騎士団の一員となる。ローゼン・ローレライ・リーヘルトだ」


 あたしはティルトの横に立ち背筋を正した。


「知っている者もいるだろうが、このローゼンは先代精霊王であったローレライ・アンルー・リーヘルトが魔王ハーゼンファイデとの間に成した子どもだ」


 聖騎士達は声には出さないが、顔面がいろいろと物語っている。魔王の子どもなんか仲間に出来るか、と思っていることがはっきり伝わってくる。遠くに、斜め後ろに立つ天使の下っ端からひしひしと伝わってくるんだけど。


 あたしは負けないようにむん、と胸を張った。あたしは精霊王になって、師匠と再会して森の家に帰るんだ!そのためには、ここで頑張らないと!


「まあ、仲間だと思えとか信頼しろなんて口が裂けても言えない。俺も一切信用していないからな。ただ、迫害はするな。妙な行動をした場合にのみ、俺に報告しろ。わかったなクソ野郎ども!!」


「「「ヤー!!」」」


 淡々とした語り口から一転、語尾を力強く発生したティルトに、聖騎士達が野太い声で呼応する。


 あ、この聖騎士団、たぶん天使の親衛隊だ。

 なんか一瞬で理解した。


「通常、聖騎士団は一つの団につき50名から100名の聖騎士で構成されるが、我が第十三聖騎士団は俺とアレクを含めて26名だ。これは、我が第十三聖騎士団が他の聖騎士団とは異なるためだ」


 ティルトはあたしの方へ少しだけ顔を向けて、聖騎士団の説明をしてくれた。


「聖騎士が精霊の力を使って魔物と戦うことは知っているな」


 あたしは頷いた。


「精霊の力は四種類、水・火・風・土だ。多くの聖騎士は、この中の一つ、ないしは二つの力を使って戦う。そして、四つすべての力を使える者の中から精霊王が選ばれる」


 ティルトはあたしを見てきつく目を細めた。


「先代精霊王だったローレライが逃げて以降、我が国に精霊王は誕生していない」


 ということは、あたしが精霊王になるためには、四つの精霊の力すべてを使えるようにならなくちゃいけないのか。精霊の力ってどうやって使うんだろう。


「我が第十三聖騎士団に所属する聖騎士は、全員が三つの精霊の力を使うことが出来る。意味がわかるか?」


「……ここにいる全員が、候補者ってことね」


 現在は精霊王がいないということは、四つの精霊の力を使える者がいないということか。ということは、三つの精霊の力を使える彼らの中から、四つ目の力を修得するものが現れることを期待されているのだろう。


「そうだ。第十三聖騎士団は、精霊王に最も近い者達が集められた隊なのだ」


 つまり、聖騎士団の中でも最も優秀な連中が集められているという訳か。


 え?あたしがそこに入っていいの?だって、あたし、現時点で一つも精霊の力なんて使えないけど。


 あたしがきょときょとしていると、ティルトが団員達に目で何かを合図した。

 ほどなくして、団員達が四つの箱を運んできて足下に並べた。

 水が湛えられた箱、枯れた木の枝が入れられた箱、葉っぱが一葉だけ入っている箱、土が詰められた箱。


「まずはお前の力を見せてみろ」


 ティルトはあたしにそう命じた。

 いや、命じられても困る。この箱をどうすればいいのよ。

 あたしは箱とティルトの顔を交互に眺めた。力を見せろ、と言われても、そもそも力なんて持っていない。


「どうした?昨日見せたようにやって見せろ」


 昨日?


「街で火を水で消しただろう。あの時と同じようにやってみせろ」


 街でって……あの時、火を消したのはあたしじゃない。あの青い髪の女の子だ。


「昨日、火を消したのはあたしじゃなくて、あの女の子でしょ。あの子は聖騎士団の子なの?ここじゃなくて別の隊?」


 あたしがそう尋ねると、ティルトは怪訝な表情を浮かべた。


「何を言っている?」


「だから、水をこう、蜘蛛の糸みたいにばーっと広げて火を消したあの女の子だよ!二人とも見たでしょ?あれ、すごかったよね。精霊使いってあんなにすごいんだね」


 あたしがそう言うと、ティルトとアレクは眉をひそめて顔を見合わせた。


「あの水は、お前が操ったんだろうが」


「とぼけるな」


「は?何言ってんの?あの女の子が手を広げたら何もない空間に水が……」


「そんな女、俺は見ていない」


「俺が見たのは、お前が歌って、水を操って火を消したところだ」


 ティルトとアレクはそう言って胡乱なものを見る目であたしを見る。


 疑って、探っている目だ。

 二人とも、嘘を吐いているようには見えなくて、あたしは動揺した。

 二人には、あの女の子が見えていなかったってこと?


「おかしなこと言って誤魔化そうとしたって無駄だぞ!勿体付けないで力を見せろ、この魔物め!」


 アレクが苛立って声を荒らげる。

 それにむかっとしながらも、あたしは言われた通りに水を湛えた箱の前に立った。


 立ったけど、何をすればいいかわからない。

 あたしがまごまごしていると、ティルトが小さく溜め息を吐いて手前の聖騎士に命じた。


「アルガン、お前が見本を見せろ」


「はっ」


 アルガンと呼ばれた二十代後半くらいの聖騎士が、あたしを押しのけて水の箱の前に立った。そして、歌に似た何かの言葉を呟いた。

 すると、箱の中の水の表面がざわざわと波立ち、次いで、膝の高さくらいの水柱が立った。おお、と感嘆の声が上がる。


「ご苦労。下がれ」


「はっ」


 アルガンは誇らしげな顔つきで隊列に戻った。


「わかったか?」


「わからない」


 尋ねられたので、正直に答えた。

 ティルトは呆れたように片眉を跳ね上げ、壁に掛けられた隊旗を指さした。


「あれの四隅に縫い取られている言葉が精霊を使役する呪文だ。左の言葉を読め」


 ティルトに言われて、あしは目を凝らして金糸で縫い取られた文字を見つめた。見たことのない文字だ。


「読めない」


「はあ?」


「読めないよ。こんな文字知らない」


 あたしは泣きそうになった。


「嘘吐くな!」


 アレクがあたしの肩を掴んで迫ってくるが、読めないものは読めないのだ。


「読めないってば!こんな文字習ってないもん!」


 あたしがそう訴えると、ティルトは一瞬目を見開いた後で、静かにこう言った。


「……精霊使いの才がある者ならば、誰に習わずとも読める。この国のすべての子どもは十五になった年にこの文字を読めるか否か試しを受ける。読めた者は聖騎士候補として登録され、十六になれば聖騎士団に入るか意思を問われる」


 ティルトが目を細めた。


「読めぬ者は、精霊の加護がない。聖騎士となる資格がないということだ」


 団員達の冷たい視線が肌に突き刺さるのを、あたしははっきりと感じた。






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