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23. 脅迫





「言っておきますけれど!私はティルト様を捜すだけですからね!」


 アデライト嬢ーーーアデライトがぷりぷり怒りながら宮殿へ向かうのについていく。

 大司教に話を聞きたいから協力してほしいとお願いして大聖堂に戻ろうとしたのだが、アデライトの話だと大司教は国王陛下に呼ばれていていないということだ。

 ならば、宮殿に向かおうと説得すると、渋々ながら一緒に来てくれた。


「私を脅すだなんて……やはり魔王の娘は野蛮ですわ!言っておきますけど、私に何かしたらお兄様に倒されますわよ!貴方なんかひとたまりもないわ!」


「お兄さん?」


「ええ!今は辺境警備に出ていますけれど、もうじき帰ってきますの。第六騎士団の団長なのですわ!」


 結んでいた髪を解いたアデライトは髪をふわさっと掻き上げて得意げに微笑んだ。


「強く、勇敢で、どんな危機にも動じない、「石の騎士」と呼ばれているのですわ!」


 えっへん!という声が聞こえてきそうだ。よっぽど兄が誇りなのだろう。


 兄か。そういえば、ティルト達からちらっと聞いた気がする。おのれ侯爵の息子の話……おのれ侯爵の息子か。


「あの顔で石の騎士……」


「お兄様はお母様似ですわ!!」


 あたしがぼそりと呟いたのを耳ざとく聞きつけて、アデライトが食ってかかってきた。

 それは良かった。アデライトの顔を見るに、きっと美形の騎士様なんだろう。おめでとう。


「性格もおのれ侯爵に似ていないといいな」


「おの……お父様のことですの!?ジェイベルシュタイン侯爵と呼んでちょうだい!!」


「しっ!!」


 前方を走っていく人影を見つけて、あたしは咄嗟にアデライトの口を塞いで物陰に隠れた。「むがむが!」と暴れるアデライトを抑えつけて、前方の様子を窺う。


 走ってきた人影ーーーアルガン君に呼び止められて、回廊を歩いていた金色の髪の持ち主が振り向いた。

 ぐう、早くもティルトが見つかってしまった。ここにいるってばれませんように。

 アルガン君は何事か報告してティルトが頷いている。ティルトが何か思案するように顎を押さえて、眉を曇らせた。

 天使の眉を曇らせるだなんて、親衛隊失格だぞアルガン君め。


 短い報告を終えて、ティルトは城の中に向かいアルガン君はこちらへ向かって歩いてくる。


「アルガン君、ちょっと待った!」


「うおわっ!?」


 物陰から呼び止めると、アルガン君は飛び上がって驚いた。


「なっ……何やってんだお前!?」


 あたしと、あたしに捕らえられているアデライトを見て、アルガン君は驚愕の表情を浮かべた。それを無視して、あたしは尋ねる。


「今、ティルトとどんな話してたの?」


「は?そんなのおまえに関係な……」


「正直に答えな!この侯爵令嬢がどうなってもいいのかい?」


「なっ……」


「むがむが!」


 アデライトがあたしの手を振り解こうとして暴れるのを無理矢理抑えつけて、あたしは意地悪そうに見える笑みを浮かべた。


「美しい侯爵令嬢が魔王の娘の毒牙に……くくく、なんてこった。これは魔王の娘を庇護する伯爵家もただではすまないねぇ……」


「きっ、貴様!団長に……ティルト様にこれ以上ご迷惑をかけるつもりか!!」


「それが嫌ならとっとと教えな!ティルトに何を言ったんだい?」


 気分は物語の中の悪い魔女である。


「くっ……このっ、悪魔めっ!!」


 アルガン君は悔しそうに呻いた。あまりに深刻そうな顔つきなのでつい笑ってしまいそうになる。いや、彼からしたら大層深刻な事態なんだろうけど。


「街での付け火は精霊を使ったものだったからな、聖騎士が関わっている可能性が高い。団長は犯人が見つかった場合の対応を他の団と協議しておられる。俺はその補助で伝言を伝えただけだ」


「なるほど。使い走りね」


「人を侮辱するのもいい加減にしろ!この魔物め!団長が甘いからってつけあがるなよっ!!」


 使い走りは侮辱で、魔物は侮辱じゃないらしい。


「ジェイベルシュタイン侯爵令嬢を放せ!」


 あたしは溜め息を吐いてアデライトから手を離した。


「ジェイベルシュタイン侯爵令嬢、ご無事ですか?この魔物が大変な真似を……さぞかし恐ろしかったでしょう」


 アルガン君がいたわしげにアデライトへ手を伸ばす。さすがは伯爵子息。令嬢をいたわる姿が様になっている。


「この魔物は二度と貴女に近づけませんので、どうぞお許しを……」


「は……いいえ」


 アデライトはアルガン君の手に縋らずに立ち上がり、スカートについた草をほろった。


「ありがとうございます、フッツボロー様」


 アルガン君へ礼を述べると、アデライトはしゃがんだままのあたしの腕をぐっと掴んた。


「ですが、私への無礼は許せませんわ。この無礼な魔王の娘は私が大聖堂へ連れて行きます」


 掴んだ腕を引っ張られてあたしが立ち上がると、アデライトがぐいぐい腕を引いて大聖堂の方へ歩き出す。


「ジェイベルシュタイン侯爵令嬢?」


「この者は大聖堂が苦手なようですので、日が暮れるまでは閉じ込めて反省させますわ。団の皆様にもそうお伝えください」


 呆気にとられるアルガン君を残して、アデライトはあたしを引っ張って歩く。

 アルガン君の姿が見えなくなったところで、ぱっと手を放されて怒鳴られた。


「まったく!貴方ときたら呆れた愚か者ですわ!」


 突然の罵倒にあたしは目を白黒させた。


「あんな真似をしたら、余計に立場が悪くなるでしょう!貴方を庇護してくださっているリーヘルト卿の立場になって考えなさい!」


 そりゃ、ダンディやティルトにはいろいろ迷惑をかけていて悪いとは思うけれど、あたしはリーヘルト家とは関係なく育ってきたんだし、いざとなったらあたしを切り捨てればいい話だろう。あの国王陛下なら、あたしが起こした騒ぎをリーヘルト家の責任にして処罰するようなこともないと思う。


 あたしがそんな風に考えていると、アデライトがあたしを睨みつけて溜め息をはいた。


「貴方、貴族としての自覚がこれっぽっちもないのね」


 アデライトの言葉に、あたしはぽりぽり頭を掻いた。そりゃ、自覚なんてある訳ない。あたしは貴族じゃないんだから。


「自分でどう思っているか知らないけれど、貴方はリーヘルト伯爵家の身内だと陛下がお認めになっているのよ。少しは貴族としての振る舞いを身につけて受け入れられるように努力なさい」


 あたしは少しむかっとした。あたしが貴族の振る舞いとやらを身につけたところで、魔王の娘という事実は変わらないのだから、周りの態度だって変わらないだろう。

 何もしなくてもどうせ「魔物」と呼ばれるのだから、やりたいようにやった方がマシだ。


 あたしが口を尖らせて黙っていると、アデライトは目を伏せてもう一度溜め息を漏らした。


「精霊王となった者には爵位が与えられるのがこの国の伝統なの。ローレライにも爵位が与えられるはずだったわ。その前にいなくなってしまったけれど。だから、貴方も精霊王になるというのなら、今からでも貴族としての常識を身につけておきなさい。精霊王という称号だけ頂いて爵位と義務は拒むだなんて許されないのだから」


 そう言って、アデライトは再び歩き出した。


「……まあいいわ。行きますわよ」


 前を行くアデライトの背中を睨んで、あたしは心の中で師匠に語りかけた。


 あたしは、貴族になりたいんじゃなくて、精霊王になりたいんです。

 師匠が、精霊王になれって望んだから。


 ねぇ、師匠。あたし頑張るから、どうか早く迎えに来てください。

 あたしの家族は、師匠しかいないんだから。





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