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13. 六家






「よりにもよってジェイベルシュタインかよ!めんどくせぇ!」


「痛い痛いいたい」


 あたしのこめかみをぐりぐりと痛めつけながら吠えるアレクに、あたしはばたばたと暴れた。


「なんかまずいの?ただお祈りするだけで許してもらえるんだからいいじゃん!」


「お前が言うな!」


 あたしとアレクのやりとりを聞いて、ティルトが溜め息を漏らした。


 ここは宿舎内のティルトの私室らしい。さすがに団長の部屋だけあって調度が立派だ。壁に掛けられたタペストリーは隊旗と同じデザインで、マントルピースの上には四つの女神のような像が飾られている。四精霊の像だと教えてくれたが、いやいや、似てないよ。アクアはもっと可愛いよ。


「ジェイベルシュタイン卿には騎士団に所属する息子がいる。ジェイベルシュタインの嫡男、オルブライト・オルレノ・ジェイベルシュタイン。若干二十歳で第六騎士団の団長を務める傑物だ」


「謹厳実直、どんな時でも表情を崩さない鋼鉄の男。噂では、生まれたから一度も笑ったことがないらしい。石の騎士と呼ばれてる」


 ティルトとアレクがそんな説明を始める。


「団員からの信頼も厚い。第十三聖騎士団がティルトの崇拝者で構成されているように、第六騎士団はオルブライトの崇拝者の集まりだ」


 アレクがそう言って前髪をかき上げる。


「俺達、聖騎士は精霊を操って魔物と戦う。騎士は、城の警護、王族貴族の護衛、国境防衛が任務だ。騎士団に入る者は大きく分けて二種類。騎士になりたい者。或いは、精霊使いの資格がなくて聖騎士になれなかった者」


 ティルトが聖騎士と騎士の違いを述べる。


「前者ならいいが、後者の中には聖騎士に対して劣等感や妬みを抱いている者もいる」


「オルブライトは、試しで文字が読めなかった」


 ティルトの説明をアレクが補足する。あたしはふんふん頷きながら聞いた。


「それで当主のオルレノはリーヘルトを目の敵にしてるんだよ。ティルトが天才と呼ばれる聖騎士だから余計にな」


「なるほど……」


「それでなくとも、元々ジェイベルシュタインとリーヘルトは仲が悪い。十六年前のローレライの件でも、最後までリーヘルト家を攻撃していたのもジェイベルシュタインだ。リーヘルトが六家でなければ、間違いなく潰されていただろうな」


 ティルトが首の後ろをさすりながら眉をしかめた。


「六家?」


 あたしが首を傾げると、アレクがあたしの頭に軽く手刀を振り下ろした。暴力的な割に、一応は加減するあたり紳士的なのかもしれない。


「家名を領地に名付けることを許された家が、この国には6つあるんだ」


 あたしが首を傾げると、ティルトが顎に手を当てて思案しながら説明してくれる。


「例えば、うちのアルガンは伯爵家の三男坊だ」


「え?そうなんだ」


 アルガン君、地味な見た目だったけど貴族だったんだな。


「父の名はアーデン伯ルドルフ・グヴィード・フッツボロー。アーデン地方を治める領主だから、アーデン伯爵だ」


「ふんふん」


「うちはリーヘルト地方を治めている。地名が家名として与えられたのではなく、領有する地を家名と同じくしていいと王家から許されたということだ」


「ん?」


 あたしは首を傾げた。つまり、リーヘルト家がそこに住んだからその地がリーヘルトになったということか。


「普通はそんなこと許されない。地名に家名を付けられるのは王家のみだ」


 アレクがあたしの髪をひっぱりながら言う。禿げるからやめてくんない?


「その特別を許されたのが、リーヘルト、ジェイベルシュタイン、クローラリア、ダヴィッドリー、デューンボルド、ウィルターハンターの六家だ」


 ティルトが指を折って見せながら言う。


「この六家は、創国の際に王家を助けたとかなんとかで、「決して名を絶やしてはいけない」と伝えられている」


 要するに、ご先祖様の功績で子孫は特別扱いされているということか。国王がやたらと寛大なのも、そういう理由があるからなのかもしれない。


「そんなわけで、六家は何かと比べられるんだよ」


 ティルトが面倒くさいという態度を隠さずに溜め息を吐いた。


「よりにもよって、そんな家の令嬢の胸を揉んでしまったのか、あたしは……一時の欲望(それ)に身を任せてしまった……」


「反省しろよ」


 アレクがあたしの頭を小突いた。


「でも、お祈りすれば許してくれるんでしょ?」


 あたしは小突かれた頭を押さえて言った。


 大聖堂で大司教の前に跪いて神に祈ればいいいだけだなんて、やっぱり国王陛下は寛大だなぁ。助かる。


 あたしは楽観的に言ったのだが、そんなあたしにティルトとアレクは声を合わせた。


「「あまい」」


 二人があまりに深刻そうな顔をしているので、あたしは思わず黙り込んだ。

 なんだろう。何か難しいこととか、お祈りするのに特別な資格でも必要なんだろうか。

 不安になったあたしがすり寄ると、ティルトが苦々しい声を漏らした。


「大司教は、六家の一つであるクローラリアの当主、ヴァランタイン・シュテファン・クローラリア。ジェイベルシュタイン卿とクローラリア卿は昔から仲のいい友人なんだ」


 あのおっさんの友達かぁ……そりゃ、きっとあたしのことを魔物と呼んで見下すんだろうなぁ。


「大聖堂の祭壇には常に四大精霊の一部ーーーつまり水・火・風・土が鎮座している。水の入った杯、燃える蝋燭、風を閉じ込めた硝子玉、土を盛った皿だ」


「悪意ある者、邪な心を持った者が祈りを捧げると、これらのものが騒ぐと言われている」


 アレクはちらりとあたしを見た。

 なんだ。あたしは邪な存在だとでも言いたいのか。


 むっとするあたしに、ティルトが溜め息と共に告げる。


「お前に邪な心があろうがなかろうが、水が騒ぐかもしれないってことだ」


「え?」


「クローラリア卿はもと聖騎士だ。水の精霊を操っていた」


「はあ……?」


「つまり、わざと水を動かすかもしれないってことだ。正式な祈りの儀式には一定数以上の貴族の立ち会いが必要という掟のもとに、「祈りを捧げているのが邪な存在だ」と皆に印象を植え付けるように企むかもしれない」


 あたしはぽかんと口を開けた。


 ティルトとアレクはやれやれと言いたげに肩をすくめて立ち上がった。


「俺達で水を抑えるしかないな」


「たく、面倒くせぇ」


 クローラリア卿が水を動かそうとしても、ティルトとアレクが妨害してくれるという。


「助けてくれるの?」


「リーヘルト家の名誉のためだ」


 あたしが尋ねると、ティルトは嫌そうにそう答えた。




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