ロンダの感謝
キマイラは獅子の身体に蝙蝠の羽、毒蛇の尾を持つAランクの魔物だ。
まさか自分がそんな化け物と戦う事になるとは夢にも思わなかった。
しかし、これは現実だ。
キマイラを討伐しなければ俺達はダンジョンから生きては出られない。
作戦は単純だ。
1番防御力が高い盾使いが前衛でキマイラの攻撃を受け止める。
その隙にカムイ、ロニタス、スレイン、アデルが斬りかかる。
俺とアマンダは遊撃だ。
「盾使いにかなりの負担が掛かる作戦だが大丈夫か?」
カムイの問いかけに対し盾使いはインクを操り答える。
『防御に徹すれば問題無い』
「良し、みんな、生き残ろうぜ」
その言葉に俺達はみんな力強く頷いた。
こうしてダンジョンの奥で俺達の死闘が始まった。
戦いが始まってどれくらいの時間が経っただろうか?
俺達は奇跡的に誰も欠けることなく戦い続けている。
「グルルルゥ!」
キマイラの突進を盾使いの大楯が受け止める。
その衝撃は大楯を構えた盾使いがその両足で地面を抉りながら数メートル後退する程の衝撃だった。
「今だ!」
カムイの合図でロニタスとスレイン、アデルが飛びかかる。
「シャァァア!」
「させるか!」
毒蛇のキマイラの尾がロニタスに向かおうとするが俺が投げたナイフに怯みロニタスにその牙を突き立てる事はなかった。
「ググルゥゥウ!」
キマイラは一旦後退したと思うと直ぐに凄まじい速度で突進して来た。
その巨体が向かうのはカムイの所だ。
「危ない!」
「カムイ、避けろ!」
俺やアマンダが叫んだが、カムイの回避は間に合わない。
キマイラは腕を振り上げ鋭い爪でカムイを引き裂こうとしている。
そんなキマイラとカムイの間に割り込む人影があった。
盾使いだ!
盾使いはカムイを庇いキマイラの強烈な攻撃を受けた。
その衝撃は大楯を粉々に粉砕し、全身鎧を着込んだその身を壁まで吹き飛ばし、叩きつける程だった。
「不味い、ブレスだ!!」
なんとか立ち上がろうとする盾使いに向けてキマイラは高温の炎のブレスを吐き出した。
俺たちがフォローに入る間もなく、ブレスは盾使いに到達した。
いくら全身鎧を着ていてもアレには耐えられる筈がない絶望しかけた時、盾使いは咄嗟に腰に付けていた盾を構えた。
「【ヒーリングシールド】」
ブレスを受けた盾が砕ける。
しかし、その一瞬の時間稼ぎのお陰で盾使いはブレスの射線から退避することが出来ていた。
更に重傷を負っていたはずだが、動きはどこもおかしくは無い。
おそらくあの盾はブレスや魔法を吸収して治癒魔法を発動させるマジックアイテムだったのだろう。
しかし、それもブレスの魔力に耐えきれず破壊されてしまった。
未だブレスを吐き続けるキマイラ目に、強力な攻撃故の隙を突いたアマンダの矢が突き刺さる。
「グルルルゥ!」
「今だ、畳み掛けろ!」
「「「おぉぉお!」」」
俺達の全力の攻撃にキマイラは全身から血を流し、最早満身創痍となる。
勝てる!
そう思った時、俺の心にほんの少しの油断が生まれてしまった。
つい先程まで、死を待つばかりだったキマイラが、一瞬の跳躍で俺の目の前に居る。
その振り上げられた前足は、まさに死の具現化と言って良い。
「【暴風の盾】」
俺が自らの死を意識した時、突如飛来した風の塊によってキマイラは吹き飛ばされて行った。
キマイラはピクリとも動く事はなく、その命を終わらせていた。
後から聞いた話ではアレは盾使いのマジックアイテムで、傷付くと突風を生み出す盾らしい。
盾使いはあの時咄嗟にそのマジックアイテムが砕ける程の傷を付けてキマイラを吹き飛ばす程の風を作り出してくれたそうだ。
盾使いには感謝してもしたりない。
まさに命の恩人だ。