アマンダの英雄叙事詩
アマンダの所属する冒険者パーティ《硬き鉄塊》がCランクダンジョン《獣の檻》を攻略中、ダンジョンで仲間を失った知り合いの冒険者と合流した。
ここまでは良く聞く話だ。
しかし、全身鎧を着込んだ冒険者が吹き飛ばされてくるなど聞いた事が無い。
「な、何だ?
あんた何者だ⁉︎」
「………………」
全身鎧の冒険者はアマンダの言葉に答える事なく立ち上がる。
しかし、その足取りはフラフラとしていて今にも倒れそうだ。
「お、お前は盾使い!」
ロニタスが驚きの声を上げた。
「何だ、ロニタス。
知り合いか?」
「いや、面識はないが土竜の巣穴亭を拠点にしている冒険者だ」
「何だって吹き飛んで来たんだ?」
「……………………」
盾使いはこちらを伺うだけで何も喋らない。
「やばい!
みんな走れ!」
広間の方を伺っていたロンダが叫びながら走って来た。
「何だよ、何があった⁉︎」
「キマイラだ!もっと奥に走れ!細い道に!」
ロンダの言葉は信じられないものだった。
このCランクダンジョンでまさかAランクの魔物と遭遇するなんて考えもしなかった。
信じられない言葉だったが、身体は動き奥のキマイラが入ってこれない細い通路を目指す。
「おい、盾使い! 早くお前も来い!」
「しっかりしろ!」
ロニタスとカムイがフラつく盾使いの両腕を取り走る。
「追って来ているぞ! 急げ!」
背後から聞こえる切迫したアデルの声にアマンダの心臓は早鐘のように鳴る。
何とか細い通路に飛び込んだ。
「グゥルルル!」
どうやらこの細い通路にキマイラは入っては来れない様だがアマンダの記憶が正しければこの通路は袋小路だったはずだ。
アマンダがそんな事を考えていた時、ようやくフラつきが治った盾使いが身体を起こした。
盾使いが腰に付けていた鉄製のインク壺を開くとインクが空中に浮かび上がる。
どうやら水属性魔法でインクを操作している様だ。
『済まない、巻き込んでしまった』
インクは空中で形を変えると文字となり、盾使いの意思を伝えた。
「ああ、まぁ、あのまま進んでいたら、キマイラの不意打ちを受けてたかも知れないからある意味幸運だった。
お前が気にする事じゃねぇよ」
『そうか、済まないな』
「気にするな。
お前、声が出ないのか?」
『ああ、幼い頃に魔物の毒を受け声が出なくなった』
「そうか、まぁ兎に角、ここから出るにはあのキマイラをどうにかしなくちゃならねぇ。
ここに居る俺たちは一蓮托生だ。
協力してあのキマイラと戦うしかねぇ。
お前もそれでいいな?」
カムイの問いかけに盾使いも頷く。
こうしてたまたまダンジョンに居合わせた寄せ集めで、Aランクのキマイラと戦う事になった。
どこの英雄叙事詩だよと思ったのはアマンダだけではないはずだ。