スレインの決死行
スレインはダンジョンの中を慎重に進んでいた。
いや、進んでいたと言うのは正しくはない。
スレインは必死で来た道を戻り、逃げていたのだ。
Cランクダンジョン《獣の檻》の24階層で、数あるダンジョンのトラップの中でも最悪の1つとされているトラップ、モンスターハウスに嵌ってしまったのだ。
5人いたパーティメンバーは、剣士のスレインと拳士のアデル以外はモンスターハウスで命を落としてしまった。
「はぁ、はぁ、頑張れアデル!
もう少しでセーフティーゾーンがある」
「う、ぐぅ、す、すまねぇ」
アデルはモンスターハウスで、右足を負傷してしまった。
今は、最低限の止血だけしてセーフティーゾーンを目指している。
高ランクのダンジョンには、過去の冒険者が作ったセーフティーゾーンがある。
ある程度の安全を確保できる場所に魔物避けの結界を施した物だ。
絶対に安全と言う訳ではないが、一応休むことができるはずだ。
「さあ、傷口を見せてみろ」
「ぐっ!」
「よし、これくらいなら手持ちのポーションで何とかなりそうだ」
アデルの治療は終わった。
しばらくすれは動ける様になるだろう。
しかし、スレインには別の心配が有った。
アデルが戦闘に復帰出来たとしてもココはCランクダンジョン【獣の檻】の地下22階層である。
ダンジョンには、何箇所かに転移魔方陣があり、緊急時などの脱出に使用できる。
起動するにはかなりの魔力を込める必要があり、スレインやアデルの様に魔力をあまり持たない者は緊急脱出用にそこそこのランクの魔石を携帯している。
しかし、ここから1番近い転移魔方陣は地下18階層か地下27階層にある。
27階層の物は論外だ。
パーティメンバーを3人も失い、より魔物が強くなる下層に降りて行くなど自殺行為だ。
ならば18階層の転移魔方陣となるが、こちらも問題が多い。
地下19階層と20階層はトラップだらけなのだ。
罠の発見や解除を担当していた仲間のスカウトがモンスターハウスでやられてしまったので、トラップだらけの19階層20階層を突破するのは不可能だ。
「ははは、こりゃあマジで年貢の納め時かも知れねぇな」
スレインは乾いた笑いを浮かべながら呟いた。
「これからどうする?」
「俺たちではトラップを突破するのは不可能だ…………進むしか無い。
お前はどうするアデル」
「俺も行くさ。
2人なら転移魔法陣までたどり着ける可能性が少しは有るかも知れねぇ」
スレインとアデルは交代で仮眠をとると命がけの攻略を始めるのだった。