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迷宮都市の盾使い  作者: はぐれメタボ
2/10

ロニタスの幸運

 その日、ロニタスはとても機嫌が良かった。


 パーティメンバーが体調を崩し、少し長めの休みを取ることになったので、小遣い稼ぎにFランクダンジョンに1人で潜った時である。


 初心者が潜るFランクダンジョンはCランク冒険者であるロニタスなら1人でも苦労する事なく最深部に到達し、往復する事ができる。


 当然、大した稼ぎになる訳ではないが、今日、明日の酒代くらいの稼ぎにはなる。

 そう思い、Fランクダンジョン《大地の裂け目》を探索していた。

 ゴブリンやビックバット、一角兎などの雑魚を狩り、酒代にするには十分な額を稼いだので切り上げようとしたのだが、撤退中に、小石につまづくと言う熟練の冒険者にあるまじき失態を犯してしまったのである。


 これが、普段、仲間と共に潜っているような上級ダンジョンであったなら命に関わるくらいの致命的なミスだ。

 初心者用のダンジョンだと無意識の内に油断していたのだろう。

 

「くそ!」


 ロニタスは、自らの愚かさに悪態を吐く。

 いくら低ランクダンジョンとは言え、ここは常に命がかかっている場所なのだ。

 気を引き締め、撤退しようとするロニタスの前の岩が少し動く。


「っ!」


 リビングロックの類かと短剣を構えるが、どうやらそうではない。

 岩が動き奥に小部屋が現れたのだ。

 先ほどつまづいた時に手をついた壁がたまたま、小部屋に続く岩を動かすスイッチだったのだ。

  その小部屋は、迷宮都市ダイダロスの冒険者として、長年活動し、当然この《大地の裂け目》にも何度も潜ったロニタスも知らない小部屋だった。

 

「マジかよ、こりゃぁ新層じゃねぇか⁉︎」


 新層とは、ダンジョンが作り出した新しいダンジョンのことだ。


 大きなダンジョンではある日、いきなり新たな階層が現れる事もあるそうだが、《大地の裂け目》くらいの小さなダンジョンでは、新しい部屋が出来るの程度だ。


  なぜ、突然新たな階層や部屋が増えるのか、何百年も昔から学者が調べていたのだが、とうとう500年ほど前に大賢者イナミによって解明された。


 まず、ダンジョンは2つの種類に分けられる。

 1つは古代の遺跡や深い洞窟などに魔物が住み着きダンジョンと呼ばれるようになったもので、このダンジョンには新層が現れる事はない。


 もう1つ、新層が現れるダンジョンはなんと、『ダンジョン』と言う魔物なのだと言う。


 ダンジョンは体内に魔物を集め、その魔物を倒しに来た人間や人間に、倒された魔物を養分として成長する。

 その成長したものが新層なのだ。


 ダンジョンは体内で死んだ冒険者の装備などを宝箱にいれ、人間を誘い込む餌として体内に配置することがある。


 そして、ダンジョンの体内で高濃度の魔力を浴びた装備は稀にマジックアイテムに変化する場合がある。

 そんな希少なアイテムの多くは新層に配置される事が多いのだ。


 長年、ダンジョンに挑んで来たロニタスだが、新層に出くわしたのは初めてだ。

 新層が出現したと言う情報だけでもギルドが買い取ってくれる。


 こんな一部屋だけの小さな新層の情報であろうとも、一晩の酒代くらいにはなる。


 ロニタスは慎重に小部屋にはいる。

 5メートル四方くらいの小さな部屋だが、奥には宝箱があった。

 当然手付かずだ。


 低ランクダンジョンなので、金銀財宝などは期待出来ないが、今晩の酒がいつもの安酒から高価な蜂蜜酒になるくらいは期待してもいいはずだ。


 罠の類がないか慎重に宝箱を調べる。

 特に、罠のような物は無いようだ。

 ロニタスは意を決して宝箱をあける。


 鍵など掛かっておらす、あっさりと口を開けた宝箱には一本の短剣が入っていた。

 もう一度罠がないかを確認したロニタスは短剣を手に取った。

 鑑定できるような知識は無いロニタスだが、長年の経験から大体の価値を測る。


 短剣の材質は鉱石系の魔物の攻殻だと思う。

 華美な装飾は無いが、品質はかなり良さそうだ。

 ロニタスに口角が無意識の内に上がって行く。

 どうやら蜂蜜酒での晩酌は今日だけでなく、数日続きそうだ。



 ギルドで鑑定して貰った短剣はアイアンタートルの攻殻を使った短剣だったようだ。

  マジックアイテムでは無かったが、高品質な逸品であり、ロニタスは小遣いと言うには多すぎる程の金額を手にする事が出来た。

  その為、ロニタスは大変機嫌が良く、行きつけである土竜の巣穴亭の1階の食堂兼酒場で、パーティメンバーの1人、ロンダと共に蜂蜜酒を煽っていた。


「しかし、新層とはな、羨ましいぞロニタス」

「はっはっは、休みにもダンジョンに潜る勤勉な冒険者だからな俺は。

  僻むなよ、こうやって幸運を分けてやってんだから」

「へへ~、ご馳になります」

「「はっはっは」」


 ロニタスとロンダが楽しく酒を呑んでいると酒場の入り口から奇妙な奴が入って来た。

 そいつは全身鎧を着込み、背中に大楯を、担ぎ、左手にカイトシールドを装備し、腰には刃の厚めのショートソードと2枚の盾を提げている。

 重装備だ。

 動きやすい革鎧を使う者が多い冒険者では、あまり見ない装備だ。

 酒で程よく緩んだロンダの頭には疑問ばかりが浮かぶ。


「何だ、あいつ?」

「ん?…………ああ、盾使いか」

「知り合いか?」

「いいや、話したことはないよ。

  この宿に泊まっている冒険者でいくつもの盾を装備している変わり者だ」

「ふーん、変わった奴もいるものだな」

「全くだ」

「「はっはっは」」


 後にこの盾使いとロニタスは大きく関わる事になるのだが、この時は蜂蜜酒を味わうのが忙しく、ロニタスは盾使いの事などすぐに忘れてしまうのだった。

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