第9話 灰猫
とうとう、少女の正体が明かされます。
彼女の現れた目的は、この次の話で。
いつもありがとうございます。よろしくお願いいたします。
夢だと思ってたら、急に辺りが明るくなった。何か聞こえる。
「……に!」
何だ?
「兄に!!」
辺りが明るくなったのは、自分が目を開けたからだ、ということに気が付くのに、数秒かかった。俺の頬は濡れていて、多分、涙があふれてきたのだろう、と思う。その俺の瞳に、少女の輪郭がぼんやり映っていた。
「あ、気が付いた!! ママー! 気が付いたよ、ママー!!」
少女が言った。
もう一人、別の誰かがのぞき込んできた。前髪をおでこで分けた、髪の短い女の人……母だ。
「瞬!! 大丈夫!?」
母は言った。俺は起き上がろうとして、その体をやさしく母に止められた。
「いいから、まだ横になってなさい」
「あ、うん……。ごめん」
母が俺の視界から消えると、天井に、煌々と明かりがついているのが見えた。
俺はリビングのソファに寝ているらしい。だらりと右手を下げると、何か毛のようなものに触れた。
「……?」
ゆっくり、右を見る。少女だと思っていたら、少女の髪の色にそっくりな、灰色の毛をした猫がすぐそこに座っていた。俺は猫の喉を優しく撫でながら言った。
「母さん、この猫は?」
「何か、ものすごい猫の鳴き声がしてね。玄関のドア開けたら、その子を含めたたくさんの猫がいて……あんたが、倒れてて……」
「うん」
俺はふと気づいた。もしやこの猫は……。
「お前、ミーコ、か?」
「ばかねー。ミーコは昔私たちが飼ってた猫。とっくに死んだでしょうが」
そうなのだ。小学校3年の時、俺の目の前で逝ったのだ。でも。俺は食いついた。
「じゃあ、この猫は? ミーコの子供? ミーコにそっくりだって、母さん、そう思わねえ?」
「知らないけど、とにかく瞬を助けてくれたのよ。多分。おかゆ、用意するわね」
そう言うと、母は立ち上がり、台所の方へと去っていった。その背中に、俺は言った。
「うん、ありがとう。この猫と、できたらまだ外にいるかもしれない猫たちのご飯もお願い」
「分かった」
母が背中を向けたまま言った。
「兄にの、言うとおりだよ。あたし、ミーコだよ。やっと、思い出して、くれた?」
少女は満面の笑みでそう言った。
「お前、俺の前で、死んだじゃないか。何で……しかも人間みたいなかっこで、そのしっぽ」
「うん、ああ、これね。このしっぽは失くしたくないです、って神様に言ったんだ。兄にに、気づいてもらいたかったから」
「結局、気づかなかったけどな。ごめんな」
「うん。でもこうしてやっと気づいてくれた。だから、それでいいの」
しっぽを振り振り、ミーコが言った。
「お前、でも……」
「何?」
「何で俺のところに、現れたんだ? 俺、明日、死ぬかもしれないからか?」
俺の問いに、ミーコはふっと背中を向けて、窓の外の夕暮れ空を仰いだ。
何か、言ってくれ……!