表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

第9話 灰猫

とうとう、少女の正体が明かされます。


彼女の現れた目的は、この次の話で。


いつもありがとうございます。よろしくお願いいたします。

夢だと思ってたら、急に辺りが明るくなった。何か聞こえる。


「……に!」


何だ?


「兄に!!」


 辺りが明るくなったのは、自分が目を開けたからだ、ということに気が付くのに、数秒かかった。俺の頬は濡れていて、多分、涙があふれてきたのだろう、と思う。その俺の瞳に、少女の輪郭がぼんやり映っていた。


「あ、気が付いた!! ママー! 気が付いたよ、ママー!!」


 少女が言った。


 もう一人、別の誰かがのぞき込んできた。前髪をおでこで分けた、髪の短い女の人……母だ。


「瞬!! 大丈夫!?」


母は言った。俺は起き上がろうとして、その体をやさしく母に止められた。


「いいから、まだ横になってなさい」


「あ、うん……。ごめん」


 母が俺の視界から消えると、天井に、煌々と明かりがついているのが見えた。

 

 俺はリビングのソファに寝ているらしい。だらりと右手を下げると、何か毛のようなものに触れた。


「……?」


ゆっくり、右を見る。少女だと思っていたら、少女の髪の色にそっくりな、灰色の毛をした猫がすぐそこに座っていた。俺は猫の喉を優しく撫でながら言った。


「母さん、この猫は?」


「何か、ものすごい猫の鳴き声がしてね。玄関のドア開けたら、その子を含めたたくさんの猫がいて……あんたが、倒れてて……」


「うん」

 

 俺はふと気づいた。もしやこの猫は……。



「お前、ミーコ、か?」



「ばかねー。ミーコは昔私たちが飼ってた猫。とっくに死んだでしょうが」


 そうなのだ。小学校3年の時、俺の目の前で逝ったのだ。でも。俺は食いついた。


「じゃあ、この猫は? ミーコの子供? ミーコにそっくりだって、母さん、そう思わねえ?」


「知らないけど、とにかく瞬を助けてくれたのよ。多分。おかゆ、用意するわね」


そう言うと、母は立ち上がり、台所の方へと去っていった。その背中に、俺は言った。


「うん、ありがとう。この猫と、できたらまだ外にいるかもしれない猫たちのご飯もお願い」


「分かった」


母が背中を向けたまま言った。



「兄にの、言うとおりだよ。あたし、ミーコだよ。やっと、思い出して、くれた?」


少女は満面の笑みでそう言った。


「お前、俺の前で、死んだじゃないか。何で……しかも人間みたいなかっこで、そのしっぽ」



「うん、ああ、これね。このしっぽは失くしたくないです、って神様に言ったんだ。兄にに、気づいてもらいたかったから」


「結局、気づかなかったけどな。ごめんな」


「うん。でもこうしてやっと気づいてくれた。だから、それでいいの」


しっぽを振り振り、ミーコが言った。


「お前、でも……」


「何?」


「何で俺のところに、現れたんだ? 俺、明日、死ぬかもしれないからか?」


俺の問いに、ミーコはふっと背中を向けて、窓の外の夕暮れ空を仰いだ。


何か、言ってくれ……!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ