第15話 まだ君に何一つ
まだ終わりじゃないですよー。第15話の元のタイトルは、「終わりと始まり」でした。
でも変えました。
いつもありがとうございます。よろしくお願いいたします。
「あ、サオ……」
「こっ……」
2人で同時に声を発していると思ったら、俺はサオリに抱きしめられていた。柔らかいものが右腕に当たって、それは俺のあまり知らない感触で、どぎまぎした。そんな俺をお構いなしに、サオリは掴むように抱きしめてくる。
「怖かったよおおー!!」
サオリはそう言うと、ものすごい勢いで泣き出した。そんなサオリを見るのは、この10年間で初めてだ。
「……俺も。っていうか先生たち、何見てんすか? あっち向いてて!」
俺は、先生たちがおずおずと俺たちとは違う方を向くのを確かめると、サオリを抱きしめ返した。
そのうち、運転手さんが入ってきて、バスのドアを開けた。その途端、警察官が入ってきた。
「犯人確保のため、突入します!!」
俺が、まだ涙を流しているサオリとともに席に座ると、警察官がその横を通って行って、ニット帽男に手錠をかけた。
「銃刀法違反、バスジャック現行犯容疑で逮捕する!! おい、拳銃はどこだ!?」
男はうなだれた。
「……さっき、空中で曲がったよ。 そこにあるだろ」
「空中で曲がった!?」
驚くのは無理もないが。その曲げた本人は、ミーコはどうしているかというと、近くの席の所にいて、何か言おうと口を開けた。
「……ところで、ネロ!」
「ウ、ウォーン……」
弱弱しい声の主は、小さな子供のような狼だった。
「悪いことに力を使いすぎるからよ。神様に頼んで、元の姿に戻してあげる。来なさい」
その優しい声の一言が、そのときミーコの声を認識した最後になっていた。
* * *
約2年半後。
俺は、警察からの感謝状を受け取った写真をずっと持っていた。バスジャックの犯人確保につながった件で、高1にして俺はすっかり有名人になった。ネットの記事にもなり、そのことで俺の日常は一時、少し騒がしくなった。写真に写っている俺の髪の色が、事件当時オレンジだったことは、もうサオリと先生しか知らないんじゃないだろうか。今は、ミーコと同じような色の、アッシュにしているから。髪色については、先生も何も言わなくなった。
気が付いたらミーコは、また俺のそばにはいなかった。かわりにサオリがいつも隣にいてくれた。そう、俺たちは付き合っているのだ。
江波先生も、保健室爆発で車いすになったけど、ネロに操られていただけで、実はいい人だとサオリに聞いた。何とか体調も持ち直し、今も俺たちの学校の保険医だ。
「あー、卒業試験めんどくせえ!!」
春めいた風を感じながら、俺は伸びをして叫んだ。
「瞬くんはもう受かってるようなもんじゃないのー」
「んなことねえよ。ここ2週間ぐらいクッソ勉強したからな。脳みそ腐って漏れそうだよ……」
俺はと言えば、今年の春から警察学校に行くことが決まった。あれからなんだかわからずに急に倒れることもなくなって、医者がその回復に驚いていた。ミーコが何かしたのかもしれない。俺も、筋トレをしたり、暇を見つけて走ったりしているが。
「どこにいるんだ、ミーコ……」
まだ君に、お礼も言えてない。何一つ。




