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第7話 2日目の朝


 朝食は食パンを焼いて、ヨーグルトを食べた。

 パンを焼いた匂いと音が外に漏れるのではないか、と少し揉めたが二階にトースターを持ってあがるという案を採用した。


「とりあえずテレビを見よう」


 朝ごはんを食べながら、陽菜の部屋のテレビをつけた。

 リビングスペースにも大型テレビがあったが、なんとなく外に音が漏れるんじゃないかと気持ちが落ちつかなくて、1階のテレビは使用しないことにした。父親の死体もそのままにしてある。


 テレビをつけると、世界各地の被害状況が報道されていた。

 ニューヨークは火の海のごとくビルが燃え、ロンドンやパリではゾンビ以外にも暴徒と化した人々が犯罪を犯していた。マドリードは既に壊滅状態であることが告げられ、ジュネーブに世界災害対策本部が設置されたとのことだった。


 次に東京の避難マップが映し出されると3人は息を呑んだ。住宅地区、商業地区のほとんどが赤く点滅しており、避難対象に指定されていた。

 綾香たちがいる区域に至っては、その地域が丸ごと危険ゾーンとされていた。


「なにこれ、どこにも逃げ場なんてないじゃん・・それに避難したかったら市ヶ谷まで歩けってこと?10km以上あるよね」


 陽菜は憂鬱にベッドに倒れこんだ。熊や兎のヌイグルミが彼女の体を受け止める。改めて部屋の中を見渡すと、置いてあるものは女の子らしい物が多い。


「行けると思う?市ヶ谷まで。普通に無理だよね、電車も止まってるって言ってたし」


 綾香は足で「車」「運転」と送信した。陽菜は、無理無理と答えた。


「車の調達は家の近所に乗り捨てられたやつか、お父さんのでなんとかなるかもしれないけど、市ヶ谷まで運転するのは無理だよ。昨日1分間運転しただけで事故ったんだよ?絶対無理」


 陽菜はカーテンの隙間から窓の外を眺めた。雨は降りそうにない程度の曇り空だった。ゾンビは相変わらず獲物を探してウロウロしている。ここに長くいるのは危険だろう。しかし、それ以上に外を歩くのは自ら死に行くような行為だ。


 仁美は携帯でネットから情報収集していたが、国の対応策の拡散情報やゾンビが人を食べるグロ画像ばかりで、避難に関する有益な情報は見つけられなかった。


 「もう少し家にいよう」と綾香が提案すると、それがいいかもね、とチカラなく陽菜が返事をした。消極的な陽菜の姿を見るのは久しぶりだった。


 暫くして、綾香は「家の周り」「私が見てくる」とチャットを送った。

 2人の視線を集めたが、陽菜も仁美も返事をしなかった。名案だが危険も伴うこともあり賛同しにくかったのだろう。


 仁美が、はっと気づいた様子で「もし人間に会ったらどうします」と不安そうに尋ねた。

 陽菜も仁美の顔を見て、「武装した集団に会ったら、殺されるかもね」と付け加えた。


 綾香は、「隠れて、やり過ごす」と送信すると立ち上がった。悩んでいてもしょうがない。

 家の周りであれば、自衛隊などもいない気がしたし、昨夜の神のお告げがあって、なんとなく自分は選ばれた人間であり、死なないのではないかという全能感に溢れていた。


 3人で階段を下りた。手作りコップ警報を除去していないので、階段を使う時は慎重になる。割ってしまえば危険になるかもしれない諸刃の剣だ。警報の設置は夜間だけでいいかもしれない。

 玄関の前の廊下で、陽菜が、ふと思い出したかのように話し始めた。


「これから先、水と電気の供給がなくなるのが一番困る。水は運べないからさ、モバイルバッテリー見つけて来てくれない?もし、電気屋さんに入れたらでいいからさ」


「おうおう」


 ひ、陽菜、ちょっと待って。家の周りを少し見てくるつもりだったんだけど。電気屋って、ここからどれだけ歩けばいいの。駅前の店まで10分ほどの道のりを歩けってこと。

 反論しようとする綾香の気持ちは伝わらず、陽菜は言葉を続けた。


「あ、肩掛けのバッグがあるから、それに入れたら運びやすいでしょ。持って来るね」


 そう言うと、陽菜は2階の部屋に行き、口の開いたバッグを持って戻ってきた。

 仁美も、どうか気をつけて、と送り出そうとしている。

 綾香はスニーカーを穿きながら、自分の運命を呪った。先ほどまで楽観視していた気持ちは消え去っていた。


 陽菜が玄関の鍵を静かに開けながら、ドアを開けた。薄暗い日差しが家の中に入ってくる。玄関先には誰もいないようだ。

 綾香が意を決して外に出ようとすると、陽菜は、すれ違いざまに「鞄、汚さないでね」と囁いた。





(続く)

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