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伊東さんの従姉妹

「ちょっと止まってください、真理朱マリスさん! 今智慧さんは――」 


 止める声は、光江さんだろう。だが、このもう一人の声……、どこかで聞いたことがあるような。

 バタバタと足音が近付いて、伊東さんの部屋の前でぴたりと止まる。

 外の女の子は乱暴に開こうとしたが、部屋の鍵がそれを拒む。


「なんで鍵が締まってんの!? ちょっと、中におるんやろ、智慧!! 開けぇや! それとも私に恐れをなして、カギを締めるようになったんか!?」

「ダメですってば、もう。今智慧さんはご友人(仮)がいらっしゃってるんですから」

「なんやその、カッコカリって。友達未満ってこと? そうやんな! 智慧って友達おらんし」


 さりげなく酷いことを言う女の子だ。

 確かに、伊東さんが女の子と一緒にいるところをあまり見たことはないけれど、それはどちらかというと、伊東さんが神々しすぎて近づけない、というのが正しい。


 伊東さんは静かに怒りを滲ませながら、部屋のドアへと近付いて、ドア越しに真理朱と呼ばれたその子へ語りかける。


「お生憎様。私が今一緒にいるのは男の子で、私の大切な人だから、真理朱みたいなところ構わず噛み付く狂犬に、会わせるわけにはいかないだけよ」 

「誰が狂犬やねんっ!! 白銀の狼(ホワイトウルフ)って呼ばれとるアンタには言われたないわ!」

「やめてよ、その名前で呼ぶのは!」

 

 こんなに感情を顕わにしている伊東さんを見るのは初めてだ。

 初めてだけど、不思議と嫌ではない。

 むしろ少し、彼女に親しみを持てる。


 だが、白銀の狼(ホワイトウルフ)……。

 それは一体どこの界隈で呼ばれているんだろうか? 魔女の集まりとかでかな?

 確かに、飛んでいる伊東さんは白い装束も相まって、淡く白く光っていて、とても美しかったけれど。


「鍵締めて男と一緒におるやなんて、アンタ抜け駆けする気ぃか!?」

「抜け駆けって、失礼な話だわ。私はただ彼と親しくなりたいから、お話をしているだけよ?」

「それの延長線上にあるやろ!? ウチらがひいお婆様の魔法道具作りから逃れる方法が!!」

「それが目的で中岡君と一緒にいるわけじゃないわ!」

 

 彼女たちの言葉の応酬を尻目に、僕は考えていた。

 このドアの向こうの女の子の正体を。

 姿が見えたら一発なんだけど、でも、この辺りでは聴くことのないこの関西弁……。


 この真理朱って人、1-4のクォーターの女の子……西藤さいとうさんでは? 何かと目立つから、恐らくこの学校で知らない人はいないだろう。というか、伊東さんと双璧を成すというか。

 見事に四分の一の確率を引き当てて、彼女の髪は少しウエーブがかった金色。そして、長い金色の睫毛に大きな緑色の瞳、小さめの赤い唇からから繰り出される日本語は、破壊力抜群の関西弁。

 ビスクドールのような整った顔をしているから、そのギャップにみな一度はびっくりするのだ。


 話しかけてきた外国人に、

「ウチ、関西弁しか喋れへんから、話かけんといてくれる?」 

 と、言い放ったという話は有名だ。


「とにかく、真理朱と今日勝負とかする気はないし。というか、いつもいつも、勝負勝負ってしつこいのよ。もういい加減諦めてよ」

「諦められるような性分やったら、関東くんだりまで来るわけないやろ! 智慧が大人しく負けを認めて、あの魔女装束(しょうぞく)をウチに渡すんやったらええよ!」

「矛盾してるわ。私と同じようにひいお婆様の手から逃れたいなら、あの服も諦めて関西に引っ込んでいれば良かったじゃないの。それに、あなた、あの服を着たら……見えちゃうんじゃないの?」


 見える? 何が? 


「どういう意味や、それ!! ウチの胸が小さいから、めくれるって言うてんのかぁ!!」

「どこが見えるなんて言ってないけど、そう思うなら、あなたの中ではそうなのかもしれないわね」


 辛辣。 


「ムーカーツークー!! とっとと出て来い、智慧!! 出てこぉへんかったら、このドアぶち破る!!」 

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