『開けられた窓』
私自身の頭がそこまで強くないので、あんまり本格的な推理小説ではないです。
もしよかったら、自分も推理して感想欄でどうだったか教えてくれると嬉しいです。
外れてたー、でも当たってたぜマジちょろすぎ、でもなんでもいいので、よろしくお願いします。
夕方前の時間。電車がすいているこの時刻に俺はいつも電車に乗る。
この暇な時間、電車に揺られてうたた寝をするのが俺の趣味だ。このためだけに3か月分の定期を買っている。
しかし今日、その趣味が変わりかけることとなる。
***
いつも通り、俺は電車の席でうたた寝していた。終点まで行って、そのまま乗って戻ってくるだけの電車旅。
この時間帯は席ががら空きで特に誰かに咎められることも無く、寝過ごそうとしていた。
だが、少しだけ目を開けたその時。誰かが列車に乗り込んでくるのが見えた。
そしてその人物はこっちに近づいてきて俺の隣に座って話しかけてきた。
「ねぇ、貴方。いつもこの電車で寝てる人でしょ?」
そう聞いてきたのは、黒髪ポニーテールにセーラー服。そこそこに大きな胸。大きく開かれた黒い瞳。いわゆる美少女と呼ばれる類の少女だ。
さて、ここで反応しようか少し迷う。だがまぁ、俺は暇なわけだし暇つぶしに会話することもいいかもしれない。
「...そうだが?」
そう思って、目を開け少女の言葉を肯定する。
「ふーん、私は『天城京子』、貴方は?」
「匿名希望だ」
「じゃあ、あだ名でもいいから」
執拗に呼び名を求めてくる。さて、生まれてこの方あだ名なんて呼ばれたことは無いが、どうしようか。
「...ま、あだ名は無いが探偵をやってる」
「探偵?そうなんだー、すごいじゃん」
あっさりと信じるんだな、もう少し疑うと思っていたが。
別に嘘ではないから、信じてもらった方がいいのは確かだが、なんだか拍子抜けというか、逆に不気味な感じがする。
「ねぇ、探偵さん。もしかして暇?」
「...なんで、そう思う?」
「毎日、わざわざ電車で寝てるから」
「まぁ、暇であることは正解だ」
「じゃ、ちょっと推理問題でもやらない?」
「問題?」
訝しげに見てみると、天城はメモ帳を取り出し、凄く楽しそうな表情でこちらを見ている。
「私が噂で聞いた、実際にあった殺人事件なんだけど...どう?」
「......」
殺人事件の推理か。そんなものはドラマの探偵の仕事であって、本当なら飼い猫探しやらしか来ないっていうのに。
それにそんな笑い話みたいな使い方をして罰が当たらないといいが。まぁ、暇だし、いいか。
「いいだろう、聞かせてもらおうか」
「OK、それじゃ行くよ」
俺が抑揚のない、やる気のない声で促すと、天城は少しだけテンション高めでその事件について話し始めた。
「題名はズバリ『開けられた窓』だよ」
***
「それじゃ、行くよ。事件の被害者は西垣さん、そしてほかに1さん、2さん、3さんが住んでいる。更には4さんが遊びに来ていた。
部屋は廊下を含めると5つに分かれてて、それぞれABCDEとする。部屋の構図的に右上がA、右下がB、廊下がC、左下がD、左上がEだね。当時の天候は雨、と言ってもそろそろ止みそうな小雨だったらしいけどね。
それぞれの人について説明していくと
西垣さんは芸術家。
1さんは大学生。西垣さんの息子。
2さんは幼稚園児。1さんの子供で西垣さんの孫。
3さんは主婦。西垣さんの奥さん。
4さんはお隣さん。西垣さんの友達で、よく遊びに来る。それに身長もかなり高いらしいよ。
それで、最初...14時の時点ではAに西垣さんが、それ以外の人はBにいたの」
天城が状況やら人物やらを話しながら、メモ帳に小綺麗な地図を書いていく。
「そして14時10分に1さんがBから出て、Eへ移動した。
14時11分。3さんと4さんがBから出て、Dへ移動した」
「14時13分には1さんがEから出てDに向かい、Dから出てきた3さん、4さんとすれ違っている。二人はそれぞれ、3さんがEに、4さんはAに行った」
「14時14分。4さんがAを出て、Dの部屋に戻ってる。それと同時刻に2さんがBからAに入っているね」
「14時15分。2さんがAからBに戻り、16分は1さんがDからBに戻ってる」
「同じ16分に3さんがEからDに戻って、17分には4さんがDから出てBに戻っている」
「そして最後に14時18分。1さんがBからAに行った時に、死体となって発見された...」
随分とまぁ、綺麗に分断行動しているな。ここだけ聞くと、怪しいのは三人、Aの部屋に入っていない3さん以外の三人だが。
「部屋がイマイチどんなのか分からん。というかこの地図に出入り口がないようだが」
「出入口はめんどくさくて...あ、ちなみにCの下の部分に玄関的な物はあるからね?
部屋を説明すると
Aの部屋は西垣さんの部屋。アトリエとしても使っている。窓が開いていた。
Bの部屋は1さんの部屋。しかし、いい感じに片付いており、よく客室として利用されている。窓が閉まっている。
Cの部屋は廊下、その下らへんには実は玄関的な物がある。
Dの部屋は倉庫。凶器と思われる日本刀が見つかっている。
Eはトイレだよ」
「凶器は日本刀なのか?」
「西垣さんの死体は頭と体が離れてて、滑らかな切り口だったの。だから倉庫の日本刀が凶器だと思われてた。その日本刀は赤く汚れていたらしいから」
「......」
もし、本当に日本刀が凶器なら幼稚園児に出来るわけはないか。
だとしたら残りの1さんと4さんが容疑者だが、4さんが先に殺していたのなら、2さんが悲鳴を上げるはずだし、1さんが第一発見者のふりをして殺したのなら、返り血はどうしたのか。まだまだ聞いてないことが山積みだな。
「証言みたいなのは無いのか?」
「あるよ、一人ずつ言ってくね。
1さんの証言『倉庫にルアーを取りに行ってただけだ。今日は親父の友達が来てたから席をはずそうと思って。だから釣りに行こうとしてたんだ。それにBの部屋で皆、別に怪しい事はしてないぜ』
2さんの証言『おじいちゃんの部屋に遊びに行ったら、おじいちゃん寝てたの。だからそっと戻ったの。窓は開けてないよ、危ないって言われたもん』
3さんの証言『私は4さんと倉庫で一緒いました...怪しいものは彼は持っていなかったはずです...Bの部屋でも、誰も何か持ち出してたわけでは...』
4さんの証言『3さんと別れた後にAの部屋に行きましたが、西垣さんはぐっすり寝てました。大体、3さんと一緒に倉庫にいましたが、俺もあの人も凶器なんて持ってなかった。窓も触ってません』
「......」
3と4はこの証言により相互監視の関係であり、どちらかが嘘を言っていてもバレてしまうだろう。だが――
「3さんと4さんが共犯の可能性は?」
「あぁ、先に言うの忘れたけど、共犯の可能性は無し。外部班の可能性も無しだからね?犯人は一人だよ」
「そうか」
なら、証言に矛盾はない3さんと4さんは違うか。証言の裏付けが取れないのは1さんと2さんだけど―――
「そういえば、なんで西垣さんは寝てた?14時なんだよな?」
「前日から徹夜で作品を仕上げてたらしいからね、疲れてたんだよ」
「あぁ、なるほど...」
中々難題な気がする。俺が頭を掻いていると、横からニヤニヤした笑みを浮かべて、俺の視界に映り込んでくる。中々イラっとする笑顔だ。
2さんと4さんが両方寝ていたと証言しているから、恐らくそれも本当だ。順当に考えて一番怪しいのは1さんなんだが―――
「あれ、待てよ。そもそもここは1階か?」
「え?」
「どうなんだ?これはもしかして2階じゃないのか」
「嫌だなー、なんでそんな突拍子もないこと言うのー?」
「確証は無いが、お前が言っていた玄関的な物って階段じゃないのか。そもそも、キッチンだとかお風呂だとかが無い時点でおかしいだろ」
「...正解、確かにその地図は2階のものだよ。でも、それが関係あるって言えるの?」
少しばかり頭の中で整理する。
少なくとも、証言の中で矛盾性というのは無い。確信が得られないのは1さんだけ。
Aの部屋に入っていたのは1さん、2さん、4さん―――それぞれ大学生、幼稚園児、西垣さんの友人。
凶器だと思われるのは赤に汚れた日本刀。だが、なんで日本刀なんてある?
西垣さんは徹夜で作品を仕上げて寝ていた―――前日から。そして死体の切り口は滑らかである。
この階層は2階、2さんが窓を開けるのは危ないと言っていたのは、恐らくこのため。
Aの部屋は西垣さんの部屋、Bの部屋は1さんの部屋―――1さんはルアーを取るために倉庫へ―――
―――色々な情報が頭の中をグルグル回って混ざり合っていく。
そして、少しずつほどけていく感覚。ある一つの道筋。人物の行動の裏。
俺がたどり着いた答え―――少しばかり意外な―――その答えは―――
「犯人...」
「ん?」
「犯人は...2さんだな」
確信をもって、しっかりと答えると、天城は目を丸くしてこっちを見ていた。
いや、そんな目で見られても何をすればいいのか全く分からないんですが。
「ふーん?で、そう思った理由は?」
「理由、か」
「それがなきゃ、正解にしてあげないよ?」
「それじゃ、一つずつ説明していこう」
ほどけた考えの端を掴み、少しずつ離していくように、話していく。
「まず、凶器って日本刀じゃねぇだろ」
「ほう?日本刀は赤く汚れていたわけですが」
「西垣さんは芸術家なんだろ?だったらまず、日本刀を買う理由が作品のモデルにするぐらいしか思いつかねぇ、多分だが、使った時に血糊でも付けて洗うの忘れてたんだろ。それに...言ってたよな?」
「何を?」
「凶器だと『思われてた』...って。それってつまり本当は違ったんじゃねぇのか?」
「おぉ、鋭いね。でも、だとしたら本当の凶器は何かな?」
そんなもの一つしかない。あの部屋で手に入る物なら一つしか。
「釣り糸だ」
「釣り糸?」
「1さんが釣りに行こうとしているのに、倉庫にルアーしか取りに行こうとしてないってことは釣り竿と釣り糸はBの...1さんの部屋にあったんだろ。それを使ったんだよ」
「ふむ?幼稚園児の2さんが釣り糸で絞めて、首を切ったと?無理があると思うけど」
「作品があるだろ」
「え?」
「お前はAの部屋で作品について言及してなかったな。つまり部屋に作品は無かったわけだ。徹夜して仕上げたはずなのにも関わらず。2さんはまず寝ている西垣さんの首に釣り糸を縛り付け、もう片方の端に作品を縛り付けた。その作品が絵か彫刻かは知らんが、それを窓から落とせば勝手に首を切ってくれるだろう」
「もし彫刻だったら持ち上げられないと思うけど」
「大体、作品なんて台に乗せるだろ?丁度窓際に台が寄せられてたんだろ...4さんが入った時にな」
「4さんが?」
3さんと4さんが途中まで行動していた理由―――4さんが身長が高いというなら、恐らく。
「電球を付け替えていた。これだ」
「4さんが?」
「そう。4さんは3さんに頼まれて電球の交換をしていたんだ。身長が高いらしいしな。その時に、作品を台から落として壊したりしないように端に寄せるのは当然だ。その時に窓際に寄せられたとすれば、一応辻褄は合う。当の3さんはトイレの電球を変えてたんだろうな。トイレは便器を踏み台にすれば普通に届くだろうから」
「でも、窓はどうするのかな?外は雨で窓は閉まってただろうし、幼稚園児の身長じゃ開けられないと思うなぁ、4さんが犯人じゃなかったら、嘘はついてないだろうし、本当に窓は触ってないんだろうし」
「窓が閉まってた?西垣さんは昨日から寝てたんだぞ?雨が降ってることも知らないのに閉まってるわけないだろ、最初から開いてたんだよ」
「むむ、でもその方法だったら4さんにも1さんにも出来るでしょ?」
そう、作品を落とす方法は誰でもできる。だが、証言は―――ちゃんと犯人を絞り込ませてくれた。
「1さんと3さんの証言に『Bの部屋から誰も何も持ち出していない』というのがある。だから1さんと4さんには無理だ」
「でも、それだったら2さんだって―――」
「2さんはBの部屋で一人きりだった、誰が見てたというんだ?」
「ッ」
「それに、2さんの証言は『窓を開けてない』だ。触ってないとは言っていない。台から落とすときに窓脇に触っている、ってことだろ。最初から開いてるんだから、開けれるはずないしな」
「おー...」
改めて考えると、胸糞の悪い事件だ。幼稚園児がなんでこんなトリックを考えられたか、とか色々あるがこれ以外考えられない。
まぁ、俺の悪いおつむで考えた内容だから違うかもしれないが―――
「うん、正解。流石名探偵だね」
「マジか...ていうか、名探偵じゃねぇし」
「いやいや、めちゃくちゃ推理得意じゃない?あ、私ここの駅だから」
「あぁ、そう...それじゃな」
いつの間にか、かなりの時間が経っていた。
俺も次の駅で降りなければならない。
俺に笑顔で手を振って電車から降りた天城を見えなくなるまで見送っておく。
見ている途中で電車が進み始め、景色が横に流れ始める。
「...暇は潰せたけど、心が澱んだ気がする」
今日は酒でも飲んで、さっきの事件の事忘れようかなー
そうして、俺は今日も電車の中での日常を過ごしていく。