将来③
この物語はフィクションです。登場する人物・名称などは架空のものです。
実際の車の運転では道路交通法を順守し安全運転を心がけましょう。
氏名:豊田 未来
性別:女性
年齢:満十八歳
趣味・特技:特になし
将来の夢 :同上
現在の私のプロフィールを簡潔に述べるならこうなるだろう。大学に進学するとしても将来の夢がなければ、志望校も定まらない。また趣味がないということは、言い換えれば興味のある分野がないということである。これでは、学部学科も決められない。ひとつの分野に特化して学ぶ専門学校などは論外である。
峠の頂上から見える高層ビルなどほとんどない街並みを眺めながら私はそんなことを考えていた。
「お待たせ!」
突然湧き上がってきた元気のいい声に、私は驚きの声をあげてしまった。
「ナンカ、さっきから変だよ未来?車酔いした?」
お手洗いから戻ってきた松田美月は、心配そうに私へ声をかけてきた。
「ううん、大丈夫だよ。昨日ここであったことをちょっと思い出していただけだから。」
と答えた。進路相談をする相手は美月じゃないと思ったし、意外に将来のことを決めている友人に対して相談するのは気が引けたからの返事だ。
「そーお?なら、いいけど。」
と彼女は納得してくれたようだ。
これからどうするかという彼女からの問いに私は、来た道と反対側に下っていくことを提案し、さらにその先のコンビニで何か買おうと提案した。美月に異論はなく、快諾してくれた。私の祖母の家まであと少しだ。私の目的はスマホを取りに祖母の家にたどり着くことだ。それまでは美月の機嫌を損ねてはなるまい。
次の目的地にコンビニに着くまでは、私が主に話した。昨日、ここで起きた出来事について話した。工藤さんのカッコよさやミッション車を久しぶりに運転した感想などを伝えた。美月も楽しそうな反応をしてくれた。私も話していて楽しかった。
『車×(かける)カッコいい女性』
この組み合わせだけで盛り上がれるのは女子ならではの世界だ。男性には理解されまい。今、下っている道の方が往路に上ってきた道に比べて蛇行しているため、ハンドルを握る美月は忙しそうだった。途中から運転に集中させてと言ってきたので私は窓の外を眺めるだけになってしまった。話しながら運転する余裕がなくなったみたいだ。対して工藤さんはおしゃべりしながら余裕を持って運転していた。免許を持っているだけでは意味がないのだと思った。運転しないと技術は向上しないのだと助手席に座っていた私は感じた。
第二中継地点(※私の中での目的地は祖母の家である)のコンビニへ到着すると美月は
「つかれた~・・・。」
と力なく叫んでハンドルにもたれかかった。私は一言
「お疲れ様でした。」
と軽く謝辞を述べて、コンビニ店内へと向かった。すぐに目的のアイテムを買って車へ戻った。脱力しきっている彼女に私は笑顔で冷たい氷菓子を手渡した。
「アイスクリームだ!!いっただきまーす!!」
言うのと同時に開封し、アイスへ齧りつく彼女の嬉しそうな横顔は幼く見えた。私は自分の炭酸飲料の缶のプルを起こし、一口つけ喉を潤してから美月へこのドライブの最終目的地を告げる。
「美月、悪いんだけどさ、この近くにある私のおばあちゃんの家へ寄ってくれない?昨日そこにスマホ忘れちゃったんだよね。」
美月は即答でいいよと返してくれた。童話の桃太郎に出てくるきびだんごを受け取った犬も、同じぐらいの早さで即答してくれたのではないかと思う。もっとも鬼退治に行くのにその決断の早さはいかがなものかと、犬クンには言いたいと幼心に思ったのを覚えている。たぶん今の美月みたいにすぐ口に入れちゃったんだろうな。
運転席に座る幼く見える同級生を横目に見ながら私は
『美月は幼く見えるけれども、私より将来のことや進路のことをしっかり考えているんだな。』
と心の中でつぶやき、嫉妬と焦りと困惑の感情を1:1:1でブレンドした感情をかみしめていた。