将来②
この物語はフィクションです。登場する人物・名称などは架空のものです。
実際の車の運転では道路交通法を順守し安全運転を心がけましょう。
「未来、なんで地蔵峠なの?」
松田美月は不思議そうに訊いてきた。
「ドライブと言えば、山か海でしょう。今の時間から海に行って夕方までに戻ってくるのは不可能だから、一番近いこの場所にしたの。」
母親が子どもへ諭すように私は説明した。しかしながら本音は、この峠道を越えた先にある私の祖母の家へ向かうためだ。私も現代っ子なのだ。依存とまではいかないが、手元にスマホがないのは不満である。いいタイミングで来てくれたと我が友人に心の底で感謝する。なんとか悟られないようにうまく誘導しよう。
「そういえば、未来は高校卒業したらどうするの?」
藪から棒に美月は訊いてきた。昨日も同じ質問をされたなと思いつつ私は、卑怯だと思いつつも質問に質問で返す。
「なんで私の卒業後の進路なんか知りたがるのよ?」
彼女の機嫌を損ねないために、普段より優しい声で返事をした。美月は三速から四速へとシフトチェンジをして、一息おいてから
「私は高校卒業したら東京へ行くの。短期大学で勉強して幼稚園の先生の資格を取ろうと思っている。少子化って言われて長いけど子どもが完全にいなくなっちゃうなんてことは、ないと思うから職業として需要は絶対にあると思うんだ。」
普段の能天気な彼女からは考えられないくらいハッキリとした話し方をされ、私は驚愕した。私は驚きを隠しつつ
「そう。」
と短く返した。彼女は自分の将来について語り続ける。
「まだ先の話だけど、いつかはワタシも結婚して子育てをすることになると思うんだ。そのときに、児童心理学だとか子どもとの接し方についての知識と経験は絶対に役立つと思うの。まず就職するとしたら、東京のほうが求人も多いだろうしねっ!」
話の最後は普段通りの調子に戻したしゃべり方になったが、彼女はしっかりと自分の将来について考えているのが分かった。彼女も私と一緒で進路なんて全く考えていないから、私の答えを聞いてそれに同調するのだと思っていた。しかし、実際は違っていた。彼女は直近の進路だけでなく、その先のことまで既に考えていた。私が生返事もせず、黙っているのを全く気にしない彼女はさらに話を続ける。
「とにかく東京へ行って私は成長する!子ども好きだし、一緒に楽しく遊びたい!好きな事を仕事にして生きていきたいもん。未来も東京に行くんなら一緒に遊べるときもあるし、なんならルームシェアすればおカネの面でも楽できると思って。」
声のトーンが普段通りに戻り、真面目モードの彼女はどこかへいってしまったことを察した。
いつもの私ならば、いやあんたと一緒にいたら休むに休めないし、家で勉強していたら邪魔してくるでしょ。そう返すところだが、今の私にその気力はなかった。同一レベルにいると思っていた友人が、ここまで将来像をしっかりと見据えていることへの衝撃が、私を沈黙させた。
山頂までの道中、車内で美月はずっと喋り続けた。クラスメイトのことや先生たちのことなど話していた気がするが、全く頭に入ってこなかった。そのとき私の頭の中は将来どうするか、何になりたいのかということでいっぱいだった。