出逢い③
この物語はフィクションです。登場する人物・名称などは架空のものです。
実際の車の運転では道路交通法を順守し安全運転を心がけましょう。
「そういえば、アナタ名前は?」
とスポーツカーを駆る彼女は問いかけてきた。
「豊田未来です。今、高校三年生です。」
それを聞いた彼女は
「そっかー。学年でいうと二つ下になるのか。私は工藤富士子。今、大学二年生。東京の大学に通っているんだ。隔週ぐらいで地元のこっちに帰ってきてこうやって峠を走っているの。」
私は短く
「そうなんですか。」
と返した。工藤さんは先ほど上がってきた道を下るつもりのようだ。駐車場内でゆっくりと転回し、車の向きを変える。
ほかに車が来ることはまずないが、しっかりとウィンカーを出して本線へ進みだした。いや、加速し出したと言った方が正しい。私は今まで車で経験したことのない加速を体感している。すぐ眼前に左急カーブが迫っているにも関わらず、アクセルを緩める様子はない。手に汗を握りながら助手席上にある取っ手を掴んだ。私は恐怖のあまり目を瞑った。私は両手で手すりに掴まっているにも関わらず、身体は前方に揺れた後、右に大きく揺られた。身体が元の位置に戻り、ふぅとため息をつく。安堵のため息だ。
工藤さんは
「まだひとつめのコーナーだよ。安心しないでー。麓までかっとばすよ!」
と叫んだ。叫んでくれていなければ聞こえなかったであろう。このスポーツカーは大きな音を出し、また加速をしている。高速道路のようなまっすぐな道ではない。曲がりくねった山道を右へ左へと向きを変えながら加速しているのである。私は麓にたどり着くまで、吐かないようにと気を引き締めた。
再び右カーブが迫ってくる。カーブのガードレールのほうから近づいてきているのではないかと錯覚し始めた。今度は勇気を出し、彼女の手元を観察してみる。四速から三速へ、そして二速へとリズムよく変速を行っていく。再び大きな揺れが私を襲う。今度は左側に体を振られる。見えない誰かにドアに押し付けられている感じだ。工藤さんは黙ったままだ。非常に集中していらっしゃる。声をかけるのが憚られる。車内にエンジン音、タイヤが鳴る音が飛び込んでくる。車に興味のない私からしたらただの騒音でしかない。
彼女はこの違法行為、つまり公道で法定速度を上回るスピードで走ることで最高に高揚しているようだ。顔を覗き込むと無表情に変わりはなかったが、それでも充足感を得ているのを隣に座っていて感じる。
私は最初こそは怖くて目を瞑ってしまったが、今はそんなことはない。遊園地でジェットコースターに乗り楽しいと思ったことはないが、この走りは不思議と私を楽しい気持ちにさせてくれた。十八年の人生の中で、このような興奮は感じたことがなかった。飛び込んでくる景色は普段見慣れている光景だが、今はいつもの二倍以上の早さで流れていき別の景色に感じる。車で走るってこんなに楽しいことだったのか。
この夜の出来事で、車に対する私の認識は完全に改められた。