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#83

新章開始!!

‥‥‥夏休みが終了し、秋へと季節は移り変わる。


 そう、秋になったという事は‥‥‥


「個々の国の皆よーろしっく!!ミーの名前はルシス・フォン・トーナであり、ラフター皇国の第3皇子だよぅ!!どうぞお嬢さんがたとは親密に、野郎には軽く御願い致します!!」



 あの時、絡んできていたどこぞやの皇子が留学してくるという事であった。


 というか、男女ですごい差を分けているなこいつ。





「おおぅ、なんて上品な香りを出す人なんだ。ぜひとも夕食を共に」


「ああ、清らかで清楚な服装、これぞ貴族には出せないような庶民のセンスで素晴らしい!!ぜひとも今度泊りがけに」


「その小さな支持層が少なさそうだけど嫌いでもないまな板感!!大きいのも小さいのもこの皆ミーには関係なく、愛をはぐくみたいねぇ!!」


「結婚を前提に、どうかあなたとの口づけを」



「何をやっているんだ馬鹿兄貴ぃぃぃぃぃぃい!!」


 と、ルシスがものすごい勢いで女子達を口説きまくっていたその時に、彼の妹がどこからかアイアンメイデンとか言うような拷問器具を持ってきて、その中にルシスを放り込んだ。


 厳重に鎖で縛り上げて、そのまま担いで外に放り投げる。


 内部で悲鳴や何かグロイ音が聞こえたのは聞かなかったことにしよう。



「どうもすいませんでした。あたしの兄貴ですが、どうぞ炎了なくツッコミを入れたい方はやってください。この大馬鹿兄貴は女であるならだれでもいいというバカで‥‥‥」


 一生懸命それぞれの女性たちに謝る彼の妹‥‥‥第3王女のネリス・フォン・トーナの苦労は、日常的に蓄積していそうで、大変なんだなとその時その場にいた者たちは全員ものすごく同情するのであった。








「‥‥‥相当目立っているんだよなその兄妹。主に悪い意味でさ」

「女子生徒全員からは逃げられていて、すでにブラックリスト入りしていますわね」

「軽薄すぎて、何であんな奴が皇国から留学してきたのかが理解に苦しむよ」

「ちょっと焼き払おうかと思ったヨ」

「一応ここって貴族も平民も通っているからなぁ。基本的に平等の扱いみたいにしているとはいえ、暗黙の了解とかもあるんだしさ」


 昼食時、校内にある食堂にてカグヤたちもそうだが、その場にいる生徒たちの共通の噂話が留学しに来た迷惑皇子と苦労妹の話で持ちきりだった。



 一応この学校は平等を掲げてはいるが、暗黙の了解と言うのは一応ある。


 その暗黙の了解の中には、「貴族の女性にむやみやたらに男子生徒がなれなれしくしない」と言うのがあるのだ。

‥‥‥いや、当たり前とも言うんだろうかね?



 なのに、あのルシスとか言うやつは相手が女の子であるならば誰でも口説こうとして、そのたびに妹のネリスが駆けつけて、速攻で成敗するという状況になっている。


 苦労していそうだし、うちの国の国王陛下と多分気が合いそうな気がする。



『そのため私もうかつに人の姿になれないのがめんどくさいんですよねぇ』

「アンナも対象に入るからな」


 アンナの場合、本の姿のままでいることが多くなった。


 いつもなら人の姿になって皆と話し合ったり、リースとグギギギギっと言いながら言い争いしたりするのだが、流石にあのプレイボーイなルシスに目を付けられるのは嫌らしいので本のままでいることにした様である。



「お、噂をすればその一人の妹がそこに来たな」


 と、ベスタが指さした先では、はぁぁぁっと思いっきり溜息をついている件の妹ネリスがそこにいた。


 立場上、第3王女のようだがあの皇子のお目付け役としても一緒にここに留学しに来たらしい。


 年齢はカグヤたちよりも一つ下であり、本来であれば学年も下の方である。


 ただ、あの皇子の行く先々で止めに入るためにわざわざ人学年飛ばしての勉強までして、一緒の学年にいるのであった。



「はぁぁぁ‥‥‥あの馬鹿兄貴、いっその事魔法で氷像にしてそのまま海へ流したほうが良いのだろうか‥‥‥」


 何か物騒なことが聞こえてきたが、これはあちらの問題なのでむやみに関わらないことにカグヤはした。


 というか、カグヤの才能「巻き込まれの才能」があの皇子とかに関わる事だと絶対めんどくさい形で出るような気がしたというのがある。



「ああ!!もう何であの馬鹿兄貴に『超・生命力の才能』なんてあるのよ!!あれじゃあいくらやってもそう簡単にくたばってくれないじゃないかぁあぁぁ!!」


 物凄い心からの叫びに、周囲からは哀れみの目線がその妹に向けられていた。


 相当鬱憤と言うか、ストレスが溜まっているようで‥‥‥ご愁傷様である。


『ん?「超・生命力の才能」って……』

「どうかしたのかアンナ?」

『その才能って確か物凄く珍しい才能ですよ。そんなものがあの男についているとは面倒ですね』


 ぱらぱらっとページをめくり、アンナがその才能についての説明を表示させた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

『超・生命力の才能』

物凄い猛毒を盛られようが、たとえ体がバラバラになろうが、魂さえ無事であれば寿命まで生きることが可能である才能。ただし、再生能力は常人クラスであり、単にそう簡単には息絶えない体ということであり、普段の日常生活では役に立つ場面がほとんどない、出ること自体が珍しい才能。

生命力が高まっているのだが、副作用的に何かしらの欲求が一つ高められてしまうという欠点がある。

簡単に例えるのであれば、どんな環境でも生き延びるクマムシか、すごいGである。

―――――――――――――――――――――――――


「その最後の説明要らなくないか?わかりやすかったけど」


 特にGが。名前全部は言わないけど、台所にいるイメージがあるやつだよ。


 というかG並みに生命力があるってどれだけだよ。人類滅亡しても生き延びていそうで怖いわ!!


「となれば、あの皇子は副作用として性的欲求が高まっているようなものか‥‥‥」



 そう考えると、かなり最悪ではなかろうか。


 いくらあの妹が肉体言語で説得しても、生きてしまうのだから果たして本当に反省するのだろうか。


 というか、再生速度はその才能では常人並みだとされているのに、あの皇子の再生速度は明らかにギャグマンガの主人公並みに早い。


 全身骨折のようなことを妹にされても、数分後にはすぐにナンパを再開しているぐらいだからね。


 何らかの別の才能が関わっている可能性が大きかった。


『再生系統の才能はそう数多くはありませんが‥‥‥』

「おお、なにやら美しき女性の声が聞こえ‥‥‥と思ったが、本か。残念無念」

「!?」


 いつのまにか、件の皇子ルシスがカグヤたちの近くで昼食を食べていた。


 頭には矢が刺さっており、見れば妹の方に弓がある。


‥‥‥すでに処置済みでしたか。



「いやぁ、なにやら美しき乙女たちがここに集まっているのを見てね、ちょっとミーも混ぜてほしいなと思ったんだよ」


 にこやかに、無駄にさわやかな顔でルシスは言うが、カグヤたちは一歩下がる。


 それなのに近付いてきて、鼬ごっことなるような状況となった。


「いい加減にしてください!!いったい何をもってナンパをするんですか貴方は!!」


 そのしつこさに切れたのか、リースがそう叫ぶと周囲で見ていた女子生徒たちがうんうんとうなずいていた。


「ふふふ、綺麗なお嬢さんに尋ねられては答えるしかないだろう。このミーがナンパをし続ける理由は‥‥‥そこに美しき女性たちがいるからなのだぁぁぁぁぁ!!」


 そう堂々と宣言し、握りこぶしを作ってその意気込みを語るルシス。



 その返答に、周囲の女性たちの目線は生きたゴミを見るかのような、冷たいものに切り替わった。


「だがぁっ!!この学校に来てからミーはまだ一度もナンパが成功していない!!それはなぜだ!!」

「単純にしつこいというか、うざいというか、暑苦しいからじゃないか?」


 カグヤが思わず返答したその言葉に同意するのか、周囲の皆がうなずく。


「違う!!ミーはあの女は例外だとして、すべての女性を愛し、そして全力を注ぎまくる自身がある男なのだぁ!!それなのに、誰もが来ないという事はつまり、その障害物があるはずなのであろう!!」


 迷いなく言い切るその力強さ。


(((((その志を、どこか別の方へ活かしたほうがものすごく良いのではなかろうか)))))


 その場にいた全員、意見が見事に一致した。



「そしてぇ!!ミー独自の聞き込みによって出た結果、その障害物最大は貴殿、カグヤ・フォン・シグマがいる事であろうと結論づいた!!」

「なんでそうなるんだよ!?」


 その結論のつけ方に、思わずカグヤはツッコミを入れた。


「噂や聞き込みで得た情報によると、カグヤの周囲には常に女の影があり!!絶世の美女や王国の王女、貴族の娘に既に愛人まで囲っているといううらやましくてずるい状態なのだという事が判明したのだ!!ミーだって綺麗な乙女に囲まれたいし、男たちにとっては理想の状態だ!!そんな貴殿がミーの障害でなくて何であろうか!!」

「そんな噂になっているのかよ!!」

「男子生徒たちの間ではすでに『ハーレム野郎』や『淫王』、『侍らせ王』などと呼ばれている事をミーは聞いているのだ!!」

「ちょっと待てぇ!?その呼び方も初めて聞くのだけど!?」



 まさかそう言われているのとは思っておらず、ちらっとカグヤが周囲の男子たちを見ると、全員うんうんとうなずいていた。


‥‥‥お前ら、密かにそう思っていたのかよ。いや、立場が違えば多分俺も同じサイドだったのかもしれないけど、解せぬ。



「ならば障害を打ち破ればこそ、ミーの人生はバラ色になる!!そこでカグヤ、貴殿に決闘を申し込むのだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「何を馬鹿な事やらかそうとしているんだよこの馬鹿兄貴がぁぁぁぁぁぁあ!!」



 っと、決闘を突きつけたルシスの真横から、妹のネリスが綺麗な飛び蹴りをルシスに直撃させる。



ドゴォォゥ!!バキッツ!


「がぁぁぁぁぁぁぁあ!?」


 何やら肋骨が折れたっぽいような音がして、ルシスはそのまま吹っ飛んだ。


「ふぅ、どうもすいませんうちの兄貴が。シグマ家に喧嘩を売るような真似だけは絶対やめておけとわが国でも聞くので、慌てて止めましたが‥‥‥」


 吹っ飛んだルシスを放っておいて、ネリスはそのまま謝って来た。


 そりゃ謝るな。


 何しろ他国で王子が問題を起こそうとして、決闘を仕掛ける相手がシグマ家だからな、


 他国でも恐怖の代名詞らしいが‥‥‥なんだろう、この苦労している感じ物凄く同情するな。



 とにもかくにも、うやむやになってその日は皇子の悲鳴が学校中に響き渡る程度で済んだのであった。





‥‥‥あ、今ネリスがルシスの右肩を脱臼させたな。次にバックドロップ、急所蹴りに関節を逆方向へ曲げたか。


 なにあの恐怖の肉体言語でのお仕置き。


 シグマ家よりも、あの妹の恐怖の方が圧倒的なような気がする‥‥‥

 

‥‥‥なんだろう、この苦労性の妹を国王と皇帝の2人に合わせたい。

それにしても、なぜこの時期に留学をこの二人がしてきたのだろうか?

それも、国にとっては継承権が低い第3皇子と王女である。


‥‥‥ちょっと表記がややこしいな。皇子と王子。王女と皇女。

一応、この世界での皇国では皇子と王女に統一しています。

2017/06/09に、皇子の才能の説明文で、「頭さえ無事」の部分を、指摘を受けて「魂さえ無事であれば寿命まで生きることが可能である才能」に変更いたしました。ここに、変更を受けて混乱なさった方がいましたらお詫び申し上げます。

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