サイドストーリー:シグマ家の過去話 ~父と母のなれそめ~
諸事情によって今日は投稿する時間が遅かったことをお詫びします。
一応、毎日投稿を目指していますができない時がある事を、改めてご理解お願いいたします。
カグヤが7歳ぐらいの時の話‥‥‥
「ねぇ母上、ちょっと気になったことがあるんだけど聞いていいかな?」
その日、シグマ家の屋敷でカグヤはふと思った疑問を解消するために、母であるテリアス・フォン・シグマに質問していた。
「あら?何かしらカグヤ?」
「あのさ、母上たちの夫婦仲が良く見えるんだけどね、その結ばれた経緯が気になったんだよ」
カグヤの父であるアーデンベルトと母のテリアスはおしどり夫婦と言ってもいいほど仲睦まじい関係である。
甘ったるすぎもせず、それでいて日常的に愛し合っているのが分かるほどなのだから。
‥‥‥時折、アーデンベルトが貴族家の仕事上貴族との接待の際にどうしても女性と触れ合う事があるようだが、帰って来た時に地獄絵図となるのを考えなければ完璧だろう。
正直言って、あれは怖い。
恐怖を感じさせるような気配の出し方は、その事から学べているのだが‥‥‥絶対に母を越えられないだろうとカグヤは思っていた。
ただ、気になるのはその母と父がどうやって結ばれたのかと言う、疑問である。
仲睦まじいとはいえ、シグマ家は貴族家。
貴族家と言うのはカグヤのイメージ上、婚約者なども決められてそれで結婚させられる様な感じもあったのだが‥‥‥どうも違うように思えたのである。
カグヤのその質問に対して、テリアスは少々考え、そして口を開く。
「そうね、思い出すのも懐かしい日々の中で、私の生涯の夫との出会いがあったのよ。ちょっと話は長くなるけどね‥‥‥」
優しい口調で、その結婚までの道のりをテリアスは語り始めた‥‥‥。
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カグヤが生まれるよりもずっと昔、テリアスがまだ15歳ぐらいの時である。
この当時、実はシグマ家だったのはアーデンベルトではなく、母テリアスがその娘としていたのだ。
シグマ家を継ぐものとしてテリアスは鍛錬に励み、魔法の腕を高めるついでに己の魂魄獣であるトーラン‥‥‥金槌の物質型魂魄獣を活かす戦い方も学び、「微笑みの撲殺女帝」なんて二つ名まで付いていたそうである。
その当時のテリアスはまさに絶対無敵の無敗の女だったそうだ。
シグマ家は以前から物凄い家だとされており、先祖の中にはドラゴンを討伐したり、またある先祖の中にはとんでもないような偉業を成し遂げたようなものもいて、今の貴族家となった。
バーステッド王国の辺境の方に置かれており、貴族爵位としては辺境伯というところに落ち着いていたが、シグマ家はそれでよしとしていた。
辺境伯と言うのは、辺境の地の田舎を治める貴族と思いがちな人が多い。
けれども、実際はかなり重要な貴族でもある。
辺境という事は国境を越えられる位置にあり、他国との境界が近い。
万が一、他国との戦争が起きた際に真っ先に被害を受けるのは辺境であり、そこが守りの要と言っても過言ではなかった。
まぁ、シグマ家は国に仕えているとはいえ、従順ではなく言う事を聞かないことが多く、無理やり従わせようにもひどい報復が飛んでくることがあるので、実質的には放置されているような感じであったが。
だが、物凄い力を持つ貴族家と言うのは知れ渡っている。
恐怖の代名詞でもあるが、力のある貴族といっても間違いなく、その武力なども考えてみても天下一品。
なんとしてもシグマ家と友好関係になり、出来ればその力を使用したいというような家も、もちろん多く存在していた。
そんなわけで、当時シグマ家の唯一の娘であったテリアスの元にはさまざまな人たちからのお見合い話や婚姻話が持ち上がってきていたそうだが、彼女はすべて断った。
理由としては、シグマ家の家訓‥‥‥「生涯を共にする相手であるならば、己の力で獲得してみろ」と言うのがあり、それに従っていたからだそうだ。
そう言うわけで、テリアスは己の伴侶となるには正々堂々の真っ向勝負で、自分に勝った者を選ぶと宣言したのである。
伴侶になればシグマ家の当主権をその夫に渡すことになるそうで、その座に収まる事が出来ればシグマ家と言う力を持つことができる。
その話しによって、テリアスに連日勝負を仕掛ける者たちがいたが……清々しいほど見事に撃沈させまくったそうだ。
魔法に関してはもう負け知らず、接近戦に持ち込もうとしても金槌でフルボッコ。
例えで言うなれば、アリがゾウに挑むというよりも、ミジンコが太陽に挑むほどの圧倒的な、世の中の理不尽を詰め込んだほどの不可能に近かったようである。
どうやったら勝てるのだろうか、もう無理じゃないかとささやかれていた時であった。
‥‥‥挑戦者数がもうそろそろ3桁になるころに、その場にある人物が現れた。
「テリアス・フォン・シグマ嬢!!貴女のこれまでの雄姿に惚れたから勝負を挑みたい!!」
「え?私女だから雄姿と言うのはどうかと‥‥‥」
「ならばその心の輝き、信念を貫き通すほどの実力に惚れたでいいか!!」
「それでいいのなら」
魂魄獣の大剣デュランダルを持って、青年がそう叫びながら挑戦してきた。
そう、その人こそが今のアーデンベルト・フォン・シグマであり、カグヤの父だった。
ただし、この時にはまだ別の家名を‥‥‥当時の父の実家の家名を付けていたそうだが、その家名の家は最近少々悪い噂があることをテリアスは知っていた。
何か自分の力を狙っての馬鹿なら叩きのめす気でいたが‥‥‥その叫びには嘘偽りがなく、物凄く力強く正々堂々とした雰囲気を纏っていたらしい。
何よりも、この時一番の衝撃だったとされるのが‥‥‥両者とも一目惚れをしたようなのだ。
テリアスはこれまでの戦闘の中で覚えたことないような気持を感じ取り、己が目の前の青年であるアーデンベルトに一目ぼれしたのをすぐに理解した。
ただ、ここでその恋だからと言う理由で戦いを止めるのももったいない。
なので、テリアスとアーデンベルトは互に勝負をすることにしたのだが‥‥‥
「たのむ!!もう二度とここでそんなに暴れないでくれ!!」
っと、当時の国王陛下がものすごい泣き顔で飛んできて土下座してまでその戦いを止めさせたそうだ。
何しろ、その時点で二人とも人外と言っていいほどの実力を持っていたそうである。
力の強い者同士、惹かれあうものがあったようだが、ぶつかり合えば当然周囲がものすごい被害を被る。
二人の戦いの余波はすさまじく、実は歴史に残っていたりもするそうな。
その余波のすさまじさも考えられて、被害を最小限に食い止める工夫として、決闘などを行う場所を地下に埋めるという案がでて実行されたようだが‥‥‥とにもかくにも、勝負はお預けとなった。
ただ、それで熱が入った二人が止めるわけもない。
なので、比較的安全な勝負を繰り返し、その勝敗は1000以上とも言われている。
そして、アーデンベルトの勝利数がテリアスを上回ったその時に、晴れて二人は結婚することを互いに決め、両想いとなって結ばれたらしい。
婿としてアーデンベルトはシグマ家に入り、そのまま当主となることができたそうだが‥‥‥ついでに、当時黒い噂のあったアーデンベルトの実家も潰したそうだ。
アーデンベルトいわく、シグマ家の当主となったとたんに手のひら返しをしてきた愚かな家だったと言っていたそうだが‥‥‥何があったのかは容易に想像できるが、今は滅んだので考える必要性はないだろう。
‥‥‥けれども、その時にちょっとばかり邪魔が入った。
元からテリアスを狙っていた他の貴族や、当時傲慢さが目立っていた王子とかがいたようで、文句を言いまくり、領地経営にも愚かなことに手出しをしてきて邪魔をしてきたらしい。
その嫌がらせなども軽くいなしていたが‥‥‥そのうち、二人はキレた。
「「よし、潰すか」」
その時に浮かべていた笑みはお互いに物凄く清々しいモノでもあり‥‥‥周囲の人たちは「あ、世界崩壊しちゃうか?」と危機感を覚えたそうである。
結局、その情報が城に入って国王が慌てて止めるように願うために、土下座しに向かった時には実行寸前で、めぼしい貴族がすでに母の展開した魔法のターゲットとなり、父は父でシグマ家の情報網を活かして各家のすべての悪事を世間に公表するところだったらしい。
ただ、そんなことが行われれば国内が混乱するのは目に見えているし、なんとか国側で命を懸けてまで処理をするからと土下座しまくった国王の嘆願により、やめたそうな。
ま、その代わりとして今後自分たちに子がなされた時に、その子の意思をきちんと尊重し、婚約を押しつけるようなことがないようにと契約させられて、さらに他国からついでに来ていた諜報員なども摘発し、シグマ家で判断してメイドや執事や庭師として入れたらしい。
そしてそれから数年が経過し‥‥‥
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「それでカグヤ、今のあなたまで私たちはこうして生きてきているのよ。おかげであちこちからの文句も消え去り、のんびりできるのはいいことなのよね」
そう母上はにこやかに言いながら言い終わったのだが‥‥‥
母上、「のんびり」と言ってますけど俺の訓練ほぼ本気でやっていますよね?
そうでなければ昨日大量の凶暴な森の熊さんに攻撃されないはずです。
え?あれまだ序章の訓練?もっと強くなった方が将来的に役に立つとかいうけど‥‥‥次は重りを付けての寒中水泳ですと?
「さて、水魔法でキンキンに冷えた冷水を空に浮かべるから、そこを泳いで鍛えましょうか。あ、重りはやっぱ無しにして、服を着たままの方にする?」
「ちょっと母上!?それシャレにならな」
「『氷海浮遊(水温-20℃)』」
「がぼごぼべぇ!?」
‥‥‥こうして、今日もカグヤにシグマ家のキッツい訓練が課せられるのであった。
なお、アンナもこの時本の姿から人の姿になるように言われて、水着にさせられた後に同様に放り込まれたのは言うまでもない。
『酷いとばっちりなんですけど!?』
「あらあらふふふ、そういう割には魔法でしっかりと身を守っているじゃないの。ズルはだめよ」
『え?なんでこっちに指を向け‥‥‥っ!?』
「『音波砲』‥‥‥どう?音でその魔法の膜を割ったのよ」
『ごぼごばぁぁあ!?ごぼごぼっべ、ごぼがぼぼあぁぁ‥‥‥(その原理無茶苦茶ですよ!?理屈上可能ですが、それをやるには相当の魔法の腕が‥‥‥)』
薄れいくカグヤとアンナの意識の中、二人とも心に思った。
このテリアスこそが史上最強であり、世の中で理不尽と言うか、不条理とも言えるような絶対的力の持ち主ではなかろうかと。
‥‥‥ついでに、当時のテリアスとアーデンベルトの戦闘の余波で、山が5つ、湖が2つ、小国(ダメダメな国のみであったそうだが)2つの被害が出たそうである。
平野が増えたので人が住みやすくはなったものの、決闘場など戦闘用の場所が地下に作られる原因となったことは言うまでもない。




