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#82

前回からの続き

SIDEアンナ&リース


『ううむ、この服もいい感じですね‥‥‥しかしこれも選び難い』

「本女、本来の目的を忘れていないか?」

『はっ!!』


 服屋にて、カグヤとミルルの入店を見た後、追跡してこっそりと入店したアンナとリース。


 だけど、アンナだって女性。


 衣服に関してちょっとこだわりがあり、ついついカグヤたちから目を放しかけていた。


‥‥‥本の姿のままなので、はた目から見れば浮いている本が服にくっついているようにしか見えないのだが。




『くぅ、まさか貴女に指摘される日が来てしまうとは‥‥‥』

「ふんっ、こっちなんて男子偽装歴が長くて衣服を選ぶ感覚がまだわからないんだよ!」


 リースがアンナのように衣服に夢中にならない理由は、長い間男子生徒として偽装していた期間が長かったせいでその感覚がきちんと女の子になっていないのが原因であった。


 そのおかげで、アンナが服に夢中になりそうでもリースはカグヤたちから目を見放すことはなかったのである。


「どうやらミルルがあっちの試着室に入り込んだようだ。カグヤの方はその試着室にいるミルルに、衣服を渡す役割になっているな」

『さっさと服に関しては終わらせようとしてますね‥‥‥うーむ、こういう時ばかりはカグヤ様と話が合わないことがあるので、残念なんですよね』

「衣服に関しては、ただ着ることが可能な普通の物という印象があるからな。そこは僕こほん、私と同じ感覚なのだろう。‥‥‥にしても、カグヤと同じ感覚か」


 っと、リースは今の己の言葉で、つい頬を赤らめた。


 自身が好意を持つ相手との共通点‥‥‥そこを意識したからである。



 その表情の変化にアンナは気が付き、本の姿の状態だが半目になる。


『やれやれ、そこ以外はカグヤ様と共通点が少ないですからねぇ。まぁ、感覚が似ているという事は男の子っぽいという事で、女性の魅力としては今一つでしょう』

「仕方がないだろ!男の姿に偽装していた時が長いし、魅力がみゃいわけないだりょ!!」

『あ、久し振りに噛みましたね。ふふふふふふ』


 リースが怒りのあまりに舌を噛んでいることに、アンナはおちょくりながら笑う。


「ぬぐぐぐぐ‥‥‥ならば本女、カグヤたちの買い物は長そうだし、いっそのことここでファッション対決でもしてみるか?」

『いいでしょう。美的センスは私の方が上だという事を証明しましょう!!』


 バチバチバチっと目線の火花が散り、勝負をするリースとアンナ。


 協力して監視していたが、やはり仲が根本的に悪いので勝負をすることになったのであった。


『審査員はどうします?流石に今私たちがこの場で目立つとカグヤ様にばれるのでまずそうですが』

「それは大丈夫だ。そこのポスターを見ろ」


 っと、リースが示した場所に張られていたポスターだが、ご都合主義のようなものがかかれていた。


『何々‥‥‥なるほど。服屋同士の対決で、モデルとなって見せ合うってやつですね。その服屋にある服とモデルのセンスによって競い合うようですが、飛び入りありで、もうすぐ開催ですか』

「時間も短いし、この程度の競いあいに出てすぐにでも戻れば問題はない。だからこれに出て勝負をしよう!!」

『受けて立ちましょう!!』


 時間がそこまで取られないようなものなので、カグヤたちがまだ服屋に長くいるだろうと予測して、リースとアンナはその場所へ向かうのであった‥‥‥




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDEカグヤ&ミルル


 リースとアンナが対決を決定してその場へ赴いた数分後。



「それだけで良いのかよ?」

「ええ、量的に買いすぎるといけませんしね」


 カグヤとミルルは服屋から出ていた。


 時間がかかるかなとカグヤは思っていたのだが、ミルルは荷物の量や時間を考慮したようで、すぐに出ることができたのである。


 その決断力の早さに驚きつつも、よくよく考えたらミルルは帝国との会談での代表に選ばれている実力がある事をカグヤは思い出した。



「荷物は持つけど‥‥‥次どうするかな」

「装飾品を買いたいので、宝石店にでも行きましょうか」


 ミルルの購入した衣服が入った荷物をカグヤは持ち、二人は宝石店へと向かった。







「ここが宝石店『メイズマリージュ』か」

「首都内でも有数の宝石店で、王族でも利用することなる良心的な店ですわよ」


 ミルルの案内により、たどり着いた宝石店。


 上質な宝石を取りそろえており、偽物なんてもってのほか出入りをさせていない。


 国内有数の物凄く信頼のおける宝石店だと、カグヤはミルルから説明を受けた。


「ダイヤにルビー、エメラルドにパール、サファイヤ‥‥‥代表的なものが多いけど、中々綺麗な光景だな」


 こういった装飾品の類にはカグヤは特に興味はなかったが、店内に明かりが照らされており、その明かりで反射してキラキラ輝く宝石の山を見るのは何処か惹かれるような感覚がした。


‥‥‥値段もかなり高めだが。




「あ、でもお手頃価格もあるのか」

「宝石の階級を付けているようで、それは一番低い品質だから低価格設定にしているそうなのですわよ」

「これでか?」


 店内にある宝石の中では品質が最も低いものが安く売られているようだが、素人であるカグヤにとってはその違いが分かりにくく、どう見たってきれいなのに不思議だった。


「こういう宝石を欲しがるって、ミルルもやっぱり女の子なんだな‥‥‥」

「やっぱりってどういうわけですの?」


 カグヤのつぶやきを聞いたミルルが、半目で睨み、その迫力に慌ててカグヤは目をそらす。


「いや、元から綺麗なところがあるのに、それをさらに飾り立てるための物を欲しがるんだねと思っただけで‥‥‥」

「も、元から!?」


 慌てて言い訳をカグヤはした。


 すると、その言葉を聞いたミルルが顔を赤くさせた。


「か、からかわないでください!!とにもかくにも、まずは宝石を選びますわよ!!」


 ちょっと動揺しているようだけど……もしかして怒らせたかな?


 そのミルルの様子から、的外れの考えをカグヤは思い浮かべるのだった。


「天然ジゴロの才能」‥‥‥少しずつ出ているようなのだが、その事に気が付いていないのである。










 宝石をいくつか品定めし、ミルルが気に入った宝石を購入したところで店からカグヤたちは出た。


「ふぅ、中々の量を買ったね」

「そうですわね。今日のは特に良い物ぞろいでしたもの」


 宝石を一つ一つ丁寧に包装されたのだが、量が多くてもうそろそろカグヤの両手がふさがりそうなその時であった。



「おおぅ!!なんて綺麗な人がそこにいるのだろうかぁ!!」

「ん?」


 何やら大声が聞こえたので、二人とも振り向くとそこには異国風の青年がいた。


 背後には馬車があり、豪華絢爛とも言うべきか普通の人ではないのは良くわかる。


 というか、その青年自体がカグヤたちのような肌色ではなく、日焼けで褐色となったかのような感じであり、ターバンを巻いていた。


 となれば、その人物はこの国出身ではなくどこか日差しが強い地域に住んでいる人だろうけど‥‥‥何者だ?




 その青年は馬車から降り、すたすたとカグヤたちの元へ行きミルルの前に膝まづいた。


「ああ、そこの美しき栗色の髪を持つお嬢さん。どうかこのミーと結婚を前提としたお付き合いをしてくれませんかね?」


‥‥‥飛躍しすぎではなかろうか。



 そうカグヤは心の中でツッコミを入れた。



 この青年、顔立ちはわり整っているようだけど……あれか?プレイボーイというかナルシストなのか?


「いえ、わたくしは今この横にいます殿方との買い物をしているのですわ。それに結婚を前提なんて飛躍しすぎていますし、丁寧にお断りを申し上げますわ」


 ミルルはその青年にやんわりと断りを入れた。


 当然であろう。何者かもわからなあい相手に行き成り結婚前提とか言われたら断りたくなるのも当たり前である。


「おおぅ、なんて綺麗な断りをするんだろうかお嬢さん。だけれども、このミーの身分を聞けばきっと付き合いたくなるだろう。ミーはこのバーステッド王国の学校へ留学するように言われて、秋から通うことにしているルシス・フォン・トーナなのだよ」

「ルシス・フォン・トーナ‥‥‥確か、ラフター皇国の第3皇子ですわね」


 ラフター皇国、その国はよく知らないが、たしかバーステッド王国とは友好関係にある西方の方にある国である。




「そう!!この異国にまでミーの名が聞こえていたとはなんたる運命の出会いなんだ!!ぜひともこの出会いをきっかけに君との結婚を視野に」


「‥‥‥いや、やめとけ」


 大袈裟な身振り手振りで感激を示しているかのようなルシスに、カグヤは一旦荷物を置いてミルルとの間に立った。


「そうホイホイ人に声をかけて口説く気かよ皇子さん。秋から通うってことは、今はまだ様子見のために訪れてきたと違いますかね?」

「何だい君は?このミーと彼女の会話に割り込んで来るなんて無礼ではないのかなぁ?」

「いや、彼女は乗り気じゃないからね。断っているのにしつこく食い下がる方がどっちかと言えば無礼なように俺は思えるんだよ」


 顔をしかめるルシスに対して、正論をぶつけるカグヤ。


 異国の皇子がどうとか別にどうでもいい。


 ただ、そこで友達に軽々しいナルシストみたいな野郎が話していることに、ちょっとイラっと来たのである。


 

「ねぇねぇお嬢さん。その人って彼氏なのかい?彼氏だったらミーに乗り換えたほうが良いし、彼氏じゃなくてもミーのところへ来たほうが良いよ?」

「選択肢がないじゃん。何を阿呆な質問をしているのやら」


 やれやれとカグヤは肩をすくめて呆れる。


「彼氏じゃ‥‥‥ありませんけど、どちらにしろ、アナタのような人にはついていく気はないですわね」



 ちょっとミルルの言葉が詰まったように思えるが、それでもはっきりとルシスに断りをいれた。



「そうか残念残念、でも、秋からミーはここに来ることになるし、再会したらまた話をしてその時には考えが改まっていることをねがう、」

「何をまたナンパして口説きまわっているんですかこの馬鹿兄貴ぃぃぃぃっ!!」

「ん?」


 ちょっとしつこく来るかと思っていたが、案外あっさり引いたルシスにカグヤたちが拍子抜けした時、何か大声が聞こえた。


 その方向を見ると、どうやらこのルシスの妹さんらしき人が走って来ていて‥‥‥でかいトマホークを背負っていた。


「げっ、我が愛しの妹!?なぜここにいるんだい!!」

「ナンパを他国でして醜聞を広めないように監視役としてあたしも遅れて陰から来ていたのよ!!そしたらまたナンパして、これで通算230人目ですし、いい加減にしなさぁぁぁぁぁい!!」


 ルシスの妹らしき人はそういうと、トマホークをぶん投げた。



ガッツ!!っと、ルシスの足の指先丁度に突き刺さり、物凄い顔色を悪くするルシス。


「いや、これは彼女に求婚をしようかと」

「それがだめでしょうがぁぁぁぁあ!!」


どごぅぅ!


「ぐぼぁっつ!?」


 言い訳にもなっていないような言葉をルシスが言い終わる前に、妹さんは世界を狙えるような綺麗なパンチをルシスの腹に決めてふっ飛ばした。


 そのふっ飛ばす方向には、ちょうどそいつが乗ってきた馬車があり、その中へと放射線を描いて綺麗に飛び込まされたのであった。


「ふぅ、失礼したねうちの馬鹿兄貴が」

「いえ、別に対処は可能でしたし問題ないですわ」

「というか、あれ生きているか‥‥‥?」


 綺麗な腹パンが決まっていたのだが、カグヤの目にはもう一つ見えていた。


 片方の手で腹を殴ったのはまだいい。


 だが、もう片方の手で、ものすごい速さで急所を攻撃したのが見えたのである。


 そこは男としては同情したくなった。


「いいのいいの、あの馬鹿兄貴は『超・生命力の才能』を持っているからね。そのせいか性欲が強いようだけど、その代わりに体がバラバラになろうが、生きていることが可能なのよね」


 今さらっと怖い例えを出されたような気がする。


 こういう時にアンナが手元にいないのがちょっと惜しい。その才能少し気になるし‥‥‥


「とりあえず、あの馬鹿兄貴は秋にここに通う様になるまで、何とか文字通り体に叩き込んで貞操観念を強くさせるよ。母国での『フラれ大王』の汚名をここでも作る気はないからね。それじゃ、失礼しましたー」


 そういうと、その妹はルシスが乗った馬車に入り込み、そのままその場を去った。


 その去るまでの間に、馬車から絶叫が聞こえたが‥‥‥何だったんだろうか。





 ハプニングが途中にありながらも、時間は進み、そろそろ夕暮れとなった。


「それではカグヤ、本日は買い物に付き合ってくれてありがとうでしたわ」

「いやいいよ。こっちもいろいろあって楽しかったしな」

 


 買い物で購入した荷物は、いつの間にか姿を現していたナイトマンにミルルが持たせて、一旦王城に戻るようである。


 カグヤは寮の方へ戻るので、ここで今日はお別れだ。


「にしても、カグヤ。あの途中でからんできた皇子とかいうモノに、わたくしをかばうかのように立ってくれましたわね」

「ま、あの人物はちょっとムカッと来たからな。大切な友人に軽々しく触れようとしていたし、馬鹿をやらかして問題が起きないようにやんわりと収めようとしていただけさ」

「そうですか‥‥‥大切な友人というのはありがたいですわね。うれしかったですわ」


 そういうと、ミルルはナイトマンと共にその場を去ったのであった‥‥‥



―――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDE王城


「大切な友人ですか‥‥‥」


 王城の自室に戻り、ミルルがその言葉を思い出して呟く。


 今日、カグヤを誘って買い物をしていたのは、もやもやとしていた気持ちの正体を探るため。


 その事に関して考え、今日の行動で確かめたのだが‥‥‥「友人」と言われたことに、ミルルは少し残念なように思える気持ちがあった。


 なぜ残念に思えるのか、その思いを自問自答し‥‥‥そして、ようやく答えにミルルはたどり着く。



「そうですわね、やっぱりこの気持ちは……『友人』としてではなく、もっと上の、そんな存在になりたいかのような気持ちですわ」

『王女様、ようやくその気持ちの正体に気が付かれたのでありますか?』


 ミルルに問いかけるナイトマン。


 ようやく主がその気持ちに対して何かを理解できたのだと思えたからだ。





 そしてその問いに対してミルルは答える。


「そう、この気持ちは‥‥‥『友人』の上の『親友』になりたい気持ちですわ!!」



ずこぉぉぉぉぅ!


『そっちでありますかぁぁぁ!?』


 その堂々と手を掲げ、言い切ったミルルに対してナイトマンはツッコミを入れながらずっこけた。


 さんざん悩んだ末にずれた答えを出されて、ナイトマンはこの主にはきちんと言わないとだめだと理解した。


『王女様、その気持ちは間違いであります!!』

「間違いって、わたくしのどこに間違えがあるのですか!!」

『その「親友」という枠組みで本当に納得できるのでありましょうか!!そこを考えてみてください!!』


 ナイトマンの言葉に、改めてミルルはよく考える。


「‥‥‥確かに違いますわね。『親友』という場所は、まだまだかけ離れていますわ」

『では、やっとお分かりに‥‥‥』

「『親友』ではなく、『義兄妹』となればいいのですわね?」

『‥‥‥わざと間違っているでありますかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?』



 ナイトマンのその叫びは、城から出てはるかかなたの帝国にまで聞こえたという。





‥‥‥そしてこの後、ナイトマンがより詳しく説明し、考えさせることによってようやくミルルは自身は「恋人」になりたかったのだと理解し、そしてその気持ちが「恋心」だという事に理解した時は、すでに朝になっていたという。


「そうですわね、わたくしはカグヤにいつの間にか惹かれていたのですわ。となれば、これが『恋する気持ち』ということですわね!!」

『よ、ようやく気が付かれたでありますか‥‥‥』


 ナイトマン、ようやく主に恋心だと気が付かせることには成功したのだが、物凄い労力を使ったのであった‥‥‥。



‥‥‥ナイトマンも苦労しているのだった。

なお、アンナとリースのファッション対決に関しては後日の予定です。


あ、あの途中で出てきたラスター皇国は一度きりのネタキャラではないことを先に言っておきましょう。

きちんと今後出てきます。こういう兄弟キャラを出してみたかったんだよね。

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