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サイドストーリー:アンナ・レビュラート 外伝・本譚2

本日2話目

シリアス時々コメディ

暗い雰囲気だけは書きなれない。

 私の名前はアンナ・レビュラート。


 最愛の母を失って、森に引きこもっていたら、いつの間にか千年の月日が過ぎていた。



 その間にも、森の外では様々なことが起きていたようである。


 国が滅び、復興し、繁栄し、また滅び……



 何度も何度も繰り返しては、元の状態に戻っていくその様子。


 人の(ことわり)から離れた私にとっては、どこか滑稽でもあり、無駄なようにも思えた。


 いや、母親がサキュバスだったからとっくの前にすでに人じゃなくなっていたのかな?





 長い年月のうちに、私の存在は本に載っていたりするらしい。


 気まぐれで街に出かけて見て記載された内容を読んでみたけど……うん、人って都合のいいように解釈する生き物だと実感出来た。




 ある国では、その美貌故に狙った国が破壊しつくされて「傾国の魔女」とも「滅びの魔女」と記載されていた。


 またある国では、災害が起きた際に人々を魔法で癒し、「癒しの魔女」とも「聖なる魔女」と記載された。



 そしてまた別の国では、その国で信仰されていた精霊たちと話している姿を見られたときについたようで、「精霊女王」とも書かれていた。



 どれもこれも、私が気まぐれでやったことだったり、しつこかったから怒りに任せて見たりしたことだけれども……くだらないと私は思えた。





 ただ、怒りに任せた理由にあるのが、結婚をしつこく迫られたりしたからだけど、私はそんなことは考えていない。


 生涯独身……の考えもあったけど、なぜかそのことは考えていなかった。


 心の中に、魂に辛うじて残っている記憶が何か関係しているのだろうか。




 時たま夢に、その相手の姿がおぼろに浮かび、前世であろう私の姿が同様に浮かぶ。


 もうほとんど消えているとはいえ、よほど私の思いは強かったのだろうか。




 その事が気になり、私はその記憶を完璧に思い出すための秘薬の制作に取り掛かっている。


 まだまだ時間はかかるが、いずれ全ての記憶をわたしは思い出すことができるだろう。


 いや、思い出さなければいけない。絶対に、大切な事だったはずであるから……












 年月が経ったある日、私は秘薬製作を休憩して、家でゆっくりと紅茶を飲んでいた。


 実験の副産物で生まれたものだが、どことなく甘酸っぱい香りがして、まるで恋する乙女のような気持ちになれる紅茶である。


 そして、それを飲むたびに何かを思い出せそうなのだが……やはりまだもやがかかっているというか、はっきりしない。




 と、そんなことを考えている時であった。



『ミャ~~~オ』

「おや?師匠の使い魔のミー助じゃないですか」


 ふと、猫の鳴き声が聞こえたので見ると、私の師匠の使い魔である『ジャイアントキャット』のミー助がそこにいた。


 全長15メートル、体色は真っ黒な艶のある黒猫であり、その触り心地は誰しも魅了をするほどふわふわのもこもこである。


 師匠の使い魔として働いている猫なのだが……よく見ると、何か手紙を加えていた。


「ん?何か知らせですかね?」


 受け取り、開封して内容を読んで……私は直ぐに顔色を変えて、師匠の下へ向かった。






「師匠!!大丈夫ですか!!」


 100年ぶりぐらいに久しぶりに訪れた師匠の家の扉をふっ飛ばし、中に入るとそこにはやせ衰えた師匠の姿があった。



 2000本ぐらいあった腕がすべてからからに干からびて力なく横たわり、20以上あった目玉のうち残り1つを残しては真っ黒になってその機能を無くしている。


 牙もすべて抜けて入れ歯のようだが、身体がもう骨と皮しかないようであった。


……シリアスな場面なはずだけど、改めて考えるとこの時点で師匠人間じゃないよね?なんで「人」と私は思っていたのだろうか……ううむ?



 とにもかくにも、師匠はすでに虫の息で、今にも息絶えそうであった。


『お、お、お、……弟子か、よく来た……ね』

「何をやらかしたんですか師匠は!!手紙を読んできましたけど、何をやらかしたんですか!!」


 手紙に書かれていた内容はシンプルである。


――――――――――――――――――――――

『てへっ☆弟子よ、私は失敗して瀕死になっちゃった。もうあの世へ逝くぜ』

――――――――――――――――――――――


「何がてへっ☆ですか!!思いっきりふざけている文でしたけど、シャレにならない状況なのは師匠の弟子である私にはわかったんですよ!!」


 そもそも、手紙を使い魔に運ばせている時点で師匠の容態が相当悪くなっていることをアンナは理解していた。


 三万Kmは確実に師匠の腕は伸びたので、使い魔に運ばせなくても自分から届けに来ることがあったし、そもそも手紙を目から出る光線で書くのが主流な師匠が筆を使用して書くこと自体があり得ないのだ。


……いや本当に師匠って何だったんだろうか?





『ふふふ……こうすれば、確実に事態の悪さを理解すると思ってな……。最後に一目、弟子に会いたかったのだよ……』


 力なく言葉に出す師匠。


 もう目もあまり見えていないはずだが、残り少ない体力で魔法を行使し、無理やり見ているようだ。


「もう休んでください師匠!!それではもう、本当に死んでしまいます!!」


 アンナは目に涙をためて、そう叫ぶ。


 親が死んでから、唯一のよりどころとも言えたのがこの師匠である。


 己に魔法を教えてくれて、いつでも明るく、時にはその下世話さがいら立ったりはしたのだけれども、優しい師匠だった。


 そんな家族のようにも思えていた師匠が死ぬのは、私にとっては嫌だった。



『なぁに、私は少々長生きを……し過ぎただけさ。この世界に私が生まれ……一万年は生きたんだ……。その間に、お前という弟子を取れて……最後の千年は幸せだったよ』

「そんな師匠!!もう今宵の別れみたいに言わないでください!!」


 師匠の力なく、けれども優しくも感じ取れる言葉を聞きながら、私は何とかして師匠のわずかな命をつなぎとめようと魔法を素早く展開して試しまくる。


 けれども、どれも効果がなく、師匠は見る見るうちにその命の炎を小さくしていった。



『ふっ……もうじきお迎えが来た……。ああ弟子よ、せめてもの心残りとすれば、お前が結婚して子をなす姿と……最後の研究を終えたかったよ』


 ぐぐぐっと、指をさす師匠の先には、この状態の原因となったであろう……大量の魔法陣があった。


 何を発動させるのかは、まだ私にはわからない。


 師匠は常人の、いや、どんな天災や鬼才でさえも思いつかないような事を考え付き、研究をするのだ。


 けれども、師匠が命を賭してまで駆けた研究のようであり、ものすごい重要そうなのは理解できた。


『弟子よ……最後の頼みとして3つ聞いてくれぬか?』

「‥‥‥はい、わかりました師匠」


 もう師匠の命はない。


 そう感じ取り、私はせめて最後の願いを聞くことにした。




『一つ目‥‥‥私の命が尽きたら、私の研究を引き継いでくれ‥‥‥確実に、この世界にとって重要な‥‥‥ことなんだ』

「はい、研究ですね」


 すばやくメモを取りだし、書き取る。


 最後の最後まで、一字一句聞き逃すわけにはいかない。




『二つ目‥‥‥弟子よ、私は‥‥‥薄々感じていたが‥‥‥多分、お前はこの世界にではない‥‥‥別の場所に、運命の相手がいる。その相手と‥‥‥』

「その相手と‥‥‥」

『‥‥‥』

「師匠?」

『‥‥‥---------』

「‥‥‥え?」


 最後に、何か小さな声で言ったのだろうが、その声をわたしは聞き取れなかった。


 そして、3つ目の事を言う前に‥‥‥師匠の命が尽きた。


 眼から光が無くなり、命が消えたことを感じ取ったのだった‥‥‥





‥‥‥この日、アンナはこの世界で、両親の次に大事であった師匠と死に別れた。


 最後に何を伝えたかったのか、3つ目は何だったのだろうか。




 その事が気になりつつも、せめてもの思いでアンナは自身の秘薬の研究と並行して、師匠の研究を受け継ぎ、進めることにした。


 そして、それから長い年月が経ち‥‥‥師匠の研究の正体を、彼女は知ることになる。


師匠‥‥‥いったい何者だったのかまではわからなかった。

けれども、一つわかる事とすれば、ほぼ確実に人間ではなかっただろう。

怪光線に、大量の伸縮自在な手足に目玉‥‥‥あれ?すっごい化け物じゃないかコレ?


次回から新章予定。アンナの師匠の正体?まだまだ先ですかね。

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