#76
流石に危険な香りがしたので健全方面です。
何がとは言いません。友人に指摘されて気が付いたので……
SIDEアンナ
《ギョゴギゴゴギェケケケケェェェェェェ!!》
ぶぉんっと、ものすごい勢いで周囲を囲んでいるかのようにしているクトゥルクラクパスの触腕2本を除く他の触手が勢いよく振り回されて、現在会談中だった古城に振り下ろされる。
だが、そうは問屋が卸さない。
バチィッツ!!
《ギョゴオゴウゴユゴウゴユギョ!!》
振り下ろしても、振り下ろしてもはじかれるその現象に、クトゥルクラクパスはいら立ちを募らせる。
『流石に怖いですね。自分で張った防壁とはいえ、あんなものがバンバン当てられるとやはり恐怖で身がすくみますよ』
「いやでも、これでかなり防げているのは大きいな」
アンナのつぶやきに、一時休戦というわけで喧嘩を止めて、魔拳闘士の才能を使って拳に魔法を纏わせているリースはそう答えた。
今、アンナの魔法によって会談場所でもあり、王女と皇帝がいる古城は鉄壁の要塞と化していた。
防御魔法を幾重にも重ね、長続きするように工夫はしている。
強化させて、毒もできるだけ通さないようにしているとはいえ……
『……っ、やっぱり強力過ぎる毒ですね。魔法が侵食されるなんて初めてですよ』
額に汗を流しつつ、アンナはその打撃個所を見て余裕のない声を出した。
クトゥルクラクパスの触手が何度も打ち付けられている防御壁だが、徐々に変色してきていた。
そう、クトゥルクラクパスが持つ毒が強力過ぎて、魔法その物が侵されてきたのだ。
防御力が弱まってきたりして、まるで水に濡れた紙のような状態という感じだろうか。
『それでもあの攻撃を防いでいるのはすごい事でありますよ。あんなもの、普通の兵士が受けたら打撲どころか体がちぎれるであります』
『そうは言われましてもね、あの毒だからこそ相手にしようがないんですよねナイトマンさん』
後方にて、果敢に挑んでふっ飛ばされてきたミルルの魂魄獣であるナイトマンが、その場に横たわっていた。
その状態はひどいもので、ナイトマンそのものである鎧全体にヒビや欠損が入り、金属製なのにそれすらも変色させて犯している毒によって、現在戦闘不可能であった。
「ナイトマンの傷はどうですの?」
不安そうに、ナイトマンを見るミルル。
『少なくとも死にはしません。毒が浸食しようともナイトマンそのものに影響はないでしょう。ただし、今の彼に触れると毒が入りますのでそこは注意が必要です』
念を押すかのように、ミルルにアンナは注意を促す。
……クトゥルクラクパスの攻撃を防げるこの古城全体を覆う防壁。
それの完成前に、果敢にも挑んでいった王国・帝国の護衛たちがぼっこぼこにやられたせいで、現在ヘタに動けない状況になっているのである。
籠城戦ともいえるのだが、このままでは事態は改善しないと皆考えていた。
というか、ちょっとは考えてまずは護衛対象を守りましょうよ。何で攻撃しているんですか貴方たちはと、アンナは思いっきり説教をした。
そのせいで現在、まともな戦力がいない状態である。解毒剤も材料さえあれば用意ができるのだが、この場に材料もないし、周囲が汚染されているせいで自生さえもしなくなっているだろう。
「一体何者があのようなモンスターを出したのか……」
皇帝カイザリアが考えをつぶやくが、その答えは出ない。
皇帝に第5王女二人とも重要人物であり、狙われるとしてもどちらなのかがわからない。
ただ、この状況で言えるのは全滅という二文字だけである。
「アンナ殿、魔法であのクトゥルクラクパスとかいうモンスターを討伐することはできないのか?」
皇帝カイザリアがアンナを見ながら問いかけるが、アンナは首を横に振った。
『無理ですね。あのモンスター自体が猛毒を周囲にまき散らして鉄壁の要塞と化していますし、魔法ですら汚染してきます』
攻撃魔法を撃とうが汚染してきて威力を弱めるだろうし、その際に爆発四散する肉片自体も強力な毒素のモノである。
そんなものが周囲に飛び散れば、この辺り一帯は二度と観光地どころか人が立ち入れぬ魔境と化すだろう。
「過去にあいつを倒したとかいう記録はないのか!!」
リースがそう尋ねてきたが、調べて見ると……
『ある事にはあるようですが……シグマ家の先祖の一人ですよ?』
その言葉に、全員納得した。
シグマ家の異常さは目に見ても分かるような記録などが多いので、その先祖の一人が倒せたとしても不思議ではない。
『ですが、私はあくまでもカグヤ様の魂魄獣。そこまで無茶苦茶なことはできませんし、それに記録だと山5つはふっ飛ばしていますよ?そんなこと出来るわけないでしょうが!!』
思わず声を荒げてツッコミを入れるアンナ。
いや、彼女自身山を吹き飛ばすこともできると言えばできるのだが、防御魔法を展開しつつ、再生や浸食された魔法の撤去に新たな魔法を重ね掛けするというこの作業に精神的に疲れているのである。
攻撃魔法自体が得意というわけでもないし、防御魔法の方にアンナは向いていると言えば向いている。
いわば後方支援を担当するような役割でもあり、そこまで強力な魔法を扱おうにも今の状況では下手すれば二次災害が起きても仕方がない。
前世の大魔法使い時代の世界であれば、そこは気にしないでバンバンぶっ放せてはいたが、流石に魂魄獣となった今ではどうも制限もあるようで都合よく出来ない。
「となれば、やはり救援が来るまでの籠城戦となるか……」
「だが、食料とかがこんな古城に蓄えられてもいないし、そもそもこんな状況は流石に想定外だぞ」
今回の会談、想定されていた中では盗賊の強襲や、食事に毒、ハニートラップに、遠距離からの攻撃などはあった。
だが、流石に強力なモンスターによる突然の籠城戦までは想定されていなかったのである。
ジュワァァァァァ……
と、何かが解ける音がしてきたの見て見れば、また一枚防御壁が浸食されて今度は溶けてきているようであった。
『ああもぅ、結構強力な奴でドラゴンの攻撃ですら耐えられる奴なのに、毒に魔法が侵されるなんて想定していないことが起きるんですか』
魔法をかけ直し、浸食された部分を破棄し、新たな防御壁を生み出すアンナ。
溶けた防壁が瞬時に消え、新たな防壁ができるがその傍からまだ残っている毒液のせいで新たにやられていく。
唯一の救いと言えばアンナの魔法はまだまだ余裕があると言ったところか。
『防御壁で囲んで皇帝陛下や第5王女様であるミルルさんを逃走させることができればいいですが、あの触腕が邪魔です』
逃がす方法はある事にはある。
今古城を覆っているのと同じような魔法で覆って、逃げ出そうと思えば逃げだせるのだ。
だがそこで懸念に入るのが今周囲を覆うかのように取り囲んでいるクトゥルクラクパスの触腕。
見たところ、他の触手や本体に比べて何倍も強力な毒を生成しているようなのだ。
地面が融解し、紫の煙をくすぶらせてその場にとどまっている。
守り切れない可能性が多く、またあの触腕は今は攻撃に使用されていないとはいえ、攻撃に転嫁されたら……最悪の場合、防御壁が持たない可能性がある。
毒はもとより、衝撃そのものまでは完全な中和はできないのだ。
『防御魔法の修繕、重ね掛け、周囲にあふれる毒の中和・浄化、持続維持……流石に限界があります』
大魔法使いとは言え、流石に限度はある。魔法に関しての精神面での疲労が積み重なるのだ。
となれば、早いとこあのクトゥルクラクパスを倒してもらえばいいのだが……いかんせん、毒が邪魔だ。
魔法による攻撃は弱められる。
直接攻撃は、あの頑強な触手には効果が薄く、下手すればそこでボロボロになっているナイトマンのようになる。
そもそもあの触手自体が毒まみれのようなものであり、本体も同様の毒まみれだろう。
「魔拳闘士の才能があるから、それでぼっこぼこにしてはだめか?」
ふと、リースは自分の才能で思いついた。
魔拳闘士の才能は魔法を纏った攻撃ができる才能……ならばクトゥルクラクパスが纏う毒を浴びないように、氷や炎で自身の手足をガードしながら攻撃できないかと思ったのである。
『「魔拳闘士の才能」で拳を氷や炎で覆って、毒を防ぎながらという手段もありでしょうが……、流石に体全体を守れるわけでもないし、周囲がほぼ毒の空気と化していますからね。無理です』
だが、アンナは冷静に状況を分析し、その手段はだめだと言った。
「だったら何かいい案はあるのかよ本女!!」
『あるわけないでしょうが!!そもそもあの毒が強力過ぎるのが問題です!!遠距離攻撃で、何とか毒に侵されないような手段で良ければいいのですが……』
魔法が浸食されるような毒を持つ相手にはちょっときつい。
アンナの魔法の中でも強力なものはいくつもあるのだが、火力不足と考えられるのだ。
何しろ、今のこの状況では精神的な疲労が多く、100%の力で戦えない。
『ああもう!!こういう時にカグヤ様がいてくれれば多分なんとかなるのに!!』
こういう時に、己の主がこの場にいないことをアンナは歯がゆく思った。
……その時だった。
《ギョブボァオォアォアォアァオアォ!!》
クトゥルクラクパスがあきらめもせず、しつこくもう一撃の攻撃を食らわせようとした時、何か閃光が走った。
チュンッツ!!
それはまるで、極太なレーザーのようであり、一気に攻撃しようとしていたクトゥルクラクパスの触手の一本が、一瞬で消滅したのである。
『「「は?」」』
その光景に、見ていたアンナたちも思わずぽかんとして驚いた。
《ギ、ギョゴウガァァァァァァァッ!?》
一瞬遅れて、己の触手が消し飛ばされたことに驚くクトゥルクラクパス。
その今の閃光の出どころを振り返って……すぐに後悔した。
今、クトゥルクラクパスの周辺は漏れ出てくる毒によって大気すらも汚染され、生物が住めないような地獄の状況になっている……はずであった。
だが、その場所を見るとまるで何もなかったかのような、いやそれ以上に清浄な状態へと浄化された土地ができていたのだ。
まるで、毒を利用して成長したかのようであり、浄化してきれいに変えたかのように花畑も出来上がって。
そして、その花畑に誰かが立っていた。
「……何をどうしたらこんな状況になったのやら」
静かにつぶやくが、はっきりと聞こえる声。
『か、カグヤ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!』
その姿を見て、アンナはそう嬉しさで叫ぶのであった。
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SIDEカグヤ
時間は戻って、クトゥルクラクパスが出てきたところである。
「うるさぁぁぁぁあ!?」
突然聞こえてきたクトゥルクラクパスの雄たけびに、カグヤは耳をふさぐ。
そのダメージからも回復し、外を見てみるとそこには巨大なモンスターがいたのだ。
さすがにその光景にカグヤは一瞬現実から目をそむけたくなったものの、すぐにそのモンスターがどこへ向かおうとしているのか察した。
周囲に毒のような物を吐き散らしながらも、触腕をのばし、今まさにアンナたちがいるであろう古城周辺を囲む。
その様子にあわてて古城の方へカグヤは駆けだしたのだが、途中で辺りの空気が汚染されたのか、毒化してきた。
「くそっつ!まさか汚染されているのかよ!!」
草花が枯れ果て、あっという間に毒々しい色になっていく様子から、強力な毒が流れていることをカグヤは理解した。
いくらシグマ家の一員とはいえ、流石に強力な毒に関しての耐性は自身がなかったのだ。
……少々ならあるよ?聞きたくなかった話で、毒にならすために少しづつ混入されるという忍びのような行為があったんだよね。
それは置いておいて、とにもかくにもこの状況では古城に近づくこともままならず、あのモンスターの進撃を許してしまう。
何処ぞやの巨人のような進撃はさせたくないが、このままでは毒に侵されてしまうのも目に見えている。
浄化し様にも、範囲が広すぎて普通の浄化魔法ではだめだと考えた時であった。
「……待てよ?範囲か……」
ふと、カグヤの頭に名案が閃いた。
使用したことがあるものの、滅多に使用する機会がないとある魔法。
自身が持つ才能を組み合わせれば、もしかしたらこの状況を変えることができるかもしれない。
毒を以て毒を制す。
というか、解毒剤で毒を消し飛ばす。
「『花畑作成』!!」
超・久しぶりの魔法をカグヤは発動させた。
もともとは、単なる花畑を生み出す魔法。
けれども、カグヤが使用することによって効果は大幅に変わった。
「賢者の才能」で魔法の効率性を高めてより多く花を咲かせるようにして、
「魔拳闘士の才能」でコントロールを精密にして指定範囲のみになるように調節し、
「薬剤師の才能」でこの猛毒の環境とされた場所に対抗できる成分を含む植物を狙い定めて生やし、
「植物成長の才能」で花畑を急速に成長させていき、
「才能向上」によって、まとめてその性能が向上されて、花畑は通常ではありえないような速度で成長し、毒を消し去った。
カグヤが生み出した花畑の花は、毒を浄化する作用があるという「クリーンフラワー」。
白い花びらが特徴的だったはずが、何がどう作用したのかその効力が大幅に向上させられて一瞬で大地に沁み込もうとしていた毒を浄化して、花びらが白色から美しい黄金へと輝く。
黄金の花畑が出来上がり、毒は全て浄化されていき、カグヤはその花畑を広げながら古城へ向かって駆けだしたのであった。
……そして、現在へとつながる。
才能の組み合わせによっては、とんでもないことになる実例である。
というか、思いっきり帝国のトップに力を見せているようなことになっているような。
この小説のタイトル何処へ行ったのだろうか?
次回に続く!!
……本当は、アンナに「焼き払え!!」みたいな某早すぎて腐った巨人の攻撃をさせようかとも考えていた。
ただまぁ、彼女のイメージ的に攻撃性能が高いのは、なんか違うような気がしたんだよね。




