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#73

皇帝視点です

SIDE 皇帝カイザリア



 最初の会談から一夜明け、今日は休みという事になっていた。


 表向きには、両国とも交渉に関しての整理期間と考えをまとめる時間という事になってはいるのだが、一部関係者のみは、今日のこの休みはある事をするためのものだというのを知っていた。



 その裏向きにあった理由とは……。




コンコンコン



 午後になり、その約束の時刻と同時にデストロイ帝国の皇帝カイザリアが宿泊している部屋の扉がノックされた。


「……入っていいぞ」


 その時刻通りに人が来るのが分かっていたので、カイザリアは入室の許可を入れる。


 もちろん、この部屋の外にも護衛がいるのだが、きちんと面会を約束された客人だというのが分かっているからこそ通したのであろう。




「失礼いたします」


 ドアが開かれ、そこから入ってきたのは……今回の会談の際に顔を会わせることになっていた、カイザリアの弟ゼクトリアの忘れ形見である娘、リースであった。





 互いに軽くあいさつを交わし、とりあえず用意しておいた椅子に互いに座ってその用をまじまじと見る。


「……で、貴女がわたしの弟であるカイザリアの娘というリースか」

「はい、魔法によって確認もされており自身の出自を知ることができたのです」


 カイザリアの問いかけに、しっかりとリースが答えたのを見て、その堂々と臆しない態度にカイザリアは感心した。



 たった一人の女性が、他国の皇帝相手でも物おじしないその態度が気に入ったのである。


 カイザリアはふと、自分の処刑された弟を思い出し、その面影をリースの中に見たような気がした。



 人生を狂わされる前に、あの弟はこうやって誰が相手であろうとも、自身のことを信じて真っ直ぐと正面を向く人物であったからだ。





 そこからは、軽い近況報告や、リースの身の上話などをカイザリアは尋ね、話してもらった。



 少々緊張もしていたのだろうが、すぐに慣れたようでリースもはっきりと己の言葉を一字一句間違えないように真剣に話した。




「……なるほどな」


 リースの境遇を聞き、カイザリアは己の力不足感を感じていた。



 弟……堕落したゼクトリアであったが、子がいれば保護したいとも考えていた。


 だが、伴侶もおらず、サキュバスに溺れていたからか愛人とかも見るようなことがなく、子がいないものと考えてしまっていた。


 しかし、実際には弟の子を他の者にそのサキュバスは産ませ、リースの存在を最近までカイザリアは知らなかった。



 今はもう処分が下されているようだが、願わくばひどい目に合わせていた育ての親……いや、親というにしても自身の娘を都合のいい道具としか見ていなかったゲボゲボにカイザリア自らが手を下したくはなった。


「あの、ゲボゲボじゃなくて下種野郎、でもなくゲトロアでしたが……」


 カイザリアのそのつぶやきに、リースはツッコミを入れるが、全くのフォローになっていないことから、リース自身もゲトロアに対して未だに許せないような心情なのであろう。




「まさか、弟の娘がそのような目に遭っていたとはな……すまない、わたしがしっかりと調べていなかったばかにだ」

「いえ、大丈夫です。今はこうしてもう自分をさらけ出せますから」


 カイザリアは深くお詫びの言葉を述べたが、リースは皇帝にそうさせるわけにはいかないと気丈にふるまって見せた。



 その様子に、かつてまだまともだったゼクトリアの面影をカイザリアは見た。


 あの弟も、何かがあった時には兄を気遣うようなそぶりを見せてくれたときがある。


 

 その事を思い出し、ふっとカイザリアは思わず笑みを浮かべた。









「さてと、もうそろそろ時間だ」


 ふと外を見てみると、そろそろ日が沈みそうなほどにまで時間が経過していた。

 

 リースとの話も世間話などに切り替わっていて、楽しい時間が過ごせたようにカイザリアは思えた。



 けれども、そんな時間ももう終わりである。


 一応今回はバーステッド王国とデストロイ帝国の会談であり、今夜中に昨日行っていた会談内容を整理して、明日の会談に備える必要があるのだ。


 己の事務能力などを考えると、これ以上時間を取った場合に整理しきれない可能性があったので、ここで話を止めることにした。



「……最後に一つ聞くがいいか?」

「はい、なんですか」


 カイザリアは、最期の話だという感じでリースに尋ねた。



「皇族の血縁者でもあり、今は亡き弟の娘であるのだが……望もうと思えば秘密裏に帝国に適当な公爵家でも設立して、リース、お前を此方で引き取って皇族だと周囲に認知してもらい、面倒を見ることができる。帝位継承権などは低いものになり、そう言った争いごとに巻き込まれる心配は少ないが……望まないのか?」



 カイザリアはそう質問を投げかけ、リースに答えさせる。



 リースはカイザリアの弟の娘であり、一応帝位継承権の対象にもなるし、皇族血縁者でもあるので臨もうと思えば皇族に認知されてはいることが可能なのだ。


 例え、あの弟が処刑された身でもその子までは罪には問われない。



 そして、リースの見た目は妻がいるカイザリアが言うのもなんだが、サキュバスの血を引いている故か、その見た目は男を惑わせるように思えた。


 そんな彼女を放っておく輩がいなさそうで、悪い虫でも着いたら大変なように思えたのである。



 ……けれども、リースはカイザリアのその問いかけに首を横に振った。


「いえ、大丈夫です。今はもう皇族だとか権力に興味もありませんし、お手を煩わせたくもありません。男装状態で過ごしていたのもあって、淑女教育などもいまだに中途半端ですので皇族としての生活はなじめないでしょう。僕は、いえ、私はリース。皇族だろうとただのハーフサキュバスだろうと、今の生活を捨てていくわけにはいきませんからね」


 そうはっきりと答えたリースに、カイザリアはそうかとつぶやく。


 貴族籍が無くなり、そもそもあの下種野郎(ゲトロア)の下で教育を受けても、学校で正しい価値観を学び、彼女は権力欲は無くなり、ただの少女となった。


 今回こうして面談しているのも、己の血縁関係者に遭って見たかったというだけであり、皇族復帰のようなことは望んでいないのだ。


 彼女はすでに、己の人生を見つけてその道を歩もうとしている。




 自身が育ててはいないが、どこか独り立ちをしていったような気がして、カイザリアはその自立心うれしくとも、己の下に来ないのを寂しくも思えた。


 たった数時間程度の面談だったにしろ、実の娘のように思えていたのである。



 だが、リースはもう皇族になる気もないし、権力なども興味がない。


 

 軽く別れの挨拶をし、リースが部屋から退出した後カイザリアは外を見て溜息を吐いた。


 できればあのような娘が子供に欲しかったのも彼の望みにあった。



 カイザリアには正妻も側室もいて子供が多くいることいることはいるのだが、やはり権力争いとかに出たりして、互いに争うようなことが多い。


 そんな中で、権力には目もくれないような娘であったリースはある意味オアシスのように感じ取れたのだ。


……そして、カイザリアはこうも思う。


 あのような娘が皇族に入った場合、その権力争いに巻き込まれる可能性もあったのではないかと。


 出来るだけ保護もするし、権力には興味がなさそうなので巻き込まれることはほとんどないのかもしれない。


 それでも、欲深き者が狙い、権力を得るための手駒としての利用もしくは邪魔だから暗殺なんて可能性もあった。


 排除にも限界があるので、もしかしたら来なくて正解だったのかもしれないと。







 そして、その娘、リースが暮らすのは王国故に、出来るだけ戦争回避のための平和的な会談になるように努力しようと、カイザリアは心に誓うのであった。





……でもちょっと気になるとすれば、来ない理由に権力に興味がないというだけではないような気もしたが。


 もしかすると……誰か気になるような奴でもいるのだろうか、いや、確実にいるだろう。


 恋する乙女のような気配もするし、ほぼ確実に気になる相手がいるのは間違いない。


 だとすれば、その相手にリースが近づこうとするだろう。


 ふと思ったその考えに、カイザリアは娘の相手を心配するかのような父親の思考にふけったのであった……

皇帝も苦労性なことは苦労性だが、王国とは違ってしっかりとした権力争いはあるようだ。

互に良いところを見せつけ合うのだが、出来るだけ血なまぐさい争いになっては欲しくないと皇帝は考えてもいる。

開戦派のようなやつもいるので、出来るだけそう言った争いごとをヒートアップさせるようなことはさせたくはない。

けれども、地雷を踏み抜こうとするやつはいるんですよ……


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