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#70

穏やかな一行/水面下での暗雲

サブタイトルが番号で無ければこうしていたかな?

SIDEカグヤ


 ……時は流れ、夏が来て、学校は夏休みへと入る。


 毎年毎年、大量の宿題が出されて泣き叫ぶ生徒が出たりはするのだが……



「宿題半分免除ってすごいな……」

「まぁ、今回の帝国との会談のために向かうことを考慮されたのですわ」

「例年の量だと、確実に泣き叫ぶ日々になるからな」


 馬車に揺られながら、カグヤ、ミルル、リースはそれぞれつぶやく。




 現在、カグヤたちは帝国との会談へ向けて馬車に乗っており、それぞれ宿題の量の半減に喜びを分かち合っているところであった。


「そういえば、アンナの姿が見えませんわね」


 ふと、ミルルがこの場にいないアンナの姿に気が付く。


「あー……アンナはどうも乗り物酔い、それも物凄くひどい奴になるようでさ、今は引きこもっているんだよね」


 とんとんっと、自身の胸を指してカグヤはその理由を話した。



……アンナはなぜか乗り物に乗ると極度の酔いを引き起こす。

 

 その為、こういう馬車の移動では魂魄獣としての利点を生かして、カグヤの中に引きこもってやり過ごしているのである。



 そして意識ははっきりとしてはいるものの、下手に出て酔ったらたまらないという事でおとなしくしているようであった。



「こういう時にはゆっくりとニャン太郎を撫でるのに限るけどなぁ」

『フニャ~オ~』


 ニヤニヤと、カグヤの中から見ているであろうアンナに、日頃の憂さ晴らし的な意味を込めてリースは自分の魂魄獣である猫のニャン太郎を膝に置いて撫でまくる。


 気持ちが良いのか、ニャン太郎も目を細めてご満悦の様子。




『うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!こういう時に限ってなんてひどいことをするんですか!!』



 うなっているアンナの声はカグヤには聞こえているのだが、あえて口には出さない。


 彼女はリースに対して物凄く怒っているであろうことは予想できた。



 馬車が止まったら勢いよく出て爆発しそうなので、とりあえずまだ中に入れておくことにカグヤは決めておく。



『フニャ~フニャニャ』

「よしよし、本女に挟まれる地獄から抜け出して、こうして伸ばせるのは気持ちいいだろう?」


 ブラッシングをかけて、うっとりしているニャン太郎を見せつけるかのように撫で上げるリース。




 普段、アンナの谷間に潰されるから、こうやって手足を伸ばせるのがうれしいのだろうか。


 ニャン太郎のその立場を血涙を流して変わってほしいというような男子生徒たちだっているんですよ?確定窒息であの世逝きになると思うけどね。





 でも、今の状態でも上からもう少しで押しつぶされそうですよ?アンナの事を結構いっている割にはリースも大概だからね?


 男だった期間が長いせいか、女の姿での自身の胸囲とかをまだいまいち感覚で把握できていないようである。


 一応、下が見にくい時点で気が付くべきだとは思うけど……まぁ、眼福と言えば眼福なのかも。



「……何でしょうか、今イラっと来たような気がするのですわ」


 ふと、この場にいる女性陣の中で、割と控えめな体型であるミルルはひくっと頬をひきつらせた。


 体形は悪くはない。スタイルがいいしスレンダーと言えばスレンダー……なんかごめん。


 何処か申し訳ないような気持ちにカグヤはなったのであった。




「っと、そう言えばサラは今いないんだっけ」


 サラがいないことを思い出し、カグヤは空を見上げた。



 サラはこの夏、従者とか愛人とか言って一緒に行動するのかと思いきや、どうやら里帰りをしているそうである。


 火炎龍(ファイヤードラゴン)達の元へ帰り、現状報告をするのだとか。



 ドラゴンの姿を捨て去り、人の姿となったのだが中身は変わらないようで、能力もそのままなのか支障とかも特にないそうである。





 そのため、今回の会談に関して彼女の不参加は決定しているのであった。


 まぁ、いたところで「愛人ですが何カ?」みたいな問題発言を出すのが目に見えているのだが。むしろいないほうが何かと助かるのかもしれない。




 とにもかくにも、馬車はデストロイ帝国へ向けて進んでいく。


 表向きは平和会談、裏向きではリースの皇族との顔合わせ。


 その護衛と、シグマ家の一員としての牽制のような役割を持たされているカグヤとしては、この状況に巻き込まれた原因であろう「巻き込まれの才能」に恨みを吐いてやろうかと思ったのであった……。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

SIDEデストロイ帝国:とある貴族の屋敷



「そうか、皇帝陛下は会談へ赴くのか」

「ああ、バーステッド王国との平和的な会談を開き、戦争を回避しようとしているようだが……」

「甘い!!甘すぎるぞい!!」


 デストロイ敵国が抱える問題児ども……バーステッド王国との開戦を唱える者たちが、その屋敷にて集まっていた。


 理由は、もうじき行われるバーステッド王国との平和会談である。



 なぜ平和的に、争いが内容に、相手よりも軍事力があるはずなのに穏やかに事を皇帝は収めようとするのか。


 その事が不満で集まった者たちが話し合いをしていたのである。



 彼らはいわゆる「開戦派:過激思考」であり、戦争なんてやったこともない、ただの現実をよく考えない、手柄を立てて出世したいだけの集団でもあった。



『戦争の損害?そんなものしったことか!!勝てばいいんだよ勝てば!!』


 っと、言うのが典型的なものであろう。



「これで平和的にぃ終わってしまえばぁ戦争はなくなるだろうぅ。そうした場合ぃ、私どものぅビシネスチャンスもぅなくなってしまいぃますからねぇ」


 そう言いながら、彼らと癒着関係にある商人たちも考えこむ。


 戦争がはじまれば、様々な物資が必要となる。


 武器、鎧、医薬品、食料……その他さまざまなものを売りさばけるチャンスでもあるのだが、それが無くなるのが困るのだ。


 もちろん、すべてがそう考えているわけではないのだが、そう言った者たちはこの場にはいなかった。



「こうなったら何かきっかけでも起こせないだろうか?」


 ふと、一人のつぶやきによって皆が同意をする。


「そうだな、そうすれば戦争を引き起こし、うまくいけば手柄を立てられるだろう」

「会談を失敗させたりすれば良さそうだぞい」

「かといって、出来るだけ我々が引き起こした証拠を無くして、全メイン的に王国の方が仕掛けてきたという事にしてやりたい」

「ああ、戦争になれば我々の方が確実に勝てるからな。賠償金をむしり取ったりする際に、相手に負の面があればあるほどやりやすい」



……だんだん実行に移せるだけの企みをしていき、彼らの一夜は過ぎていくのであった。


 ただ、彼らは情報戦がやはりどこかで負けているのだろうか。


 地雷を思いっきり踏み抜こうとしていることに、まだ気が付いていないようである……

シグマ家は基本的に戦争が起ころうが、積極的に関わらないのでそのことを考えての会話であろう。

ただ、情報戦が最初から負けているようで、工作されて届いていない事実があるのに気が付いていない模様。


……なんだろう、こういった悪役とも言うべき人達が悲しくなってきた。どこかで大暴れの夢を見せてあげたいなぁ。

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