#67
ちょっと面倒ごとに……
……リース拉致監禁婦女暴行未遂事件から数日後、エルソード男爵家に裁きが下された。
国家間での取引が禁止されている薬物の所持及び使用、ここ最近起きていた貴族邸襲撃事件の犯人(シグマ家による情報操作で被せました)等の数多くの罪が露見し、当主は永久労働の刑が確定されたそうである。
死刑の声もあったが、血統狂いと化しており、もはやまともな思考もしておらず、死刑では罪を償わせることができないからと判断が下されたからである。
そして、その娘であったリースは……
「なんでここに呼ばれなければいけないんだろうか……」
「それは俺も聞きたいよ。いや今回の重要参考人にもなるんだろうけどさ」
現在、リースだけではなくて、カグヤも一緒に王城で国王の前に謁見させられていた。
シグマ家の報告によって今回の事件の正確な情報は王家には伝えられたのだが、その中でリースについての情報は、外部では行方不明であるとされたのである。
緘口令が敷かれているようだが、どうも何か別の問題が発覚したらしい。
まぁ、行方不明とされているリース本人はカグヤの横にいるのだが、その姿はいつもの男だった姿ではなくて、女の姿であった。
「アンナ、リースの事で何か問題でもあったのか?」
『あったというか、あり過ぎたというか……まぁ、シグマ家ですでに調査されたものが国王陛下に渡されていますので、その話しを聞けばと』
アンナに尋ねてみたが、どうもその問題が国規模になりそうである。
アンナとしては、仲たがいしている相手のリースが国規模での重要人物にされているらしいのが面白くなさそうだが……それでも、仕方がなく魔法で調べてもいたそうだ。
「さてと、今回よく来てくれた。カグヤ・フォン・シグマ及び、リース・フォン・エルソード嬢よ」
っと、考えていた内にいつの間にかこのバーステッド王国の国王ダースヘッド陛下が来ていた。
「はっ、呼ばれましたので参上いたしました」
「招集に応じたまでです」
一応、相手が王族なのでリースもカグヤも礼儀を取った。
「まぁよい、そこまで硬くせずとも安心してくれ……」
ごくりと、胃が痛いらしいダースヘッド陛下が薬を飲みながらそう言ったので、とりあえず二人とも気を楽にした。
……そういえば、陛下の髪の毛大分薄いな。神経性脱毛症とかかな?
「さてと、今回の事件の詳細は全てシグマ家の者たちから聞いておる。とにもかくにも、あのような俗物というか、豚というか、愚者というか、ゲトロア・フォン・エルソード男爵の処遇はすでに聞いておろう」
「はい、もうすでに判決が下されたそうですね」
死刑ではなく、永久労働……それも、奴隷のごとく厳しい環境下で決定したらしい。
たたけばまだホコリが出るようなので、刑が執行されるまでは最後まで拷問されるそうだが同情の余地はない。
「今回の功労者であるカグヤ殿を招いたのは、その事に対する褒章を与えようとしたのだが……リース嬢もここに呼んだのは、とあることが原因である」
真面目な顔で、ダースヘッド陛下はそう言った。
ぱんっと手を鳴らしたかと思うと、何やらものすごいよぼよぼの爺さんがふらふらとその場に出てきた。
「おひょうびでひょうか、だーしゅへっじょ陛下」
「ああ、もうだいぶ高齢で辛いだろうが、正確性が一番優れれているし、誰がどの様なものかまで覚えているお前には頑張ってほしい。宮廷魔導士筆頭ヨボウよ」
「ひゃい、陛下のごひょうぼうとあらびゃ、げほっつ、げっほ!!……よろきょんで」
大丈夫かその爺さん。今にもぽっくり逝きそうなんだが。
手足を物凄くプルプルさせて、今にも倒れそうなその様子にカグヤは内心そうツッコミを入れた。
「ひょれでは、やりゃひぇていたらきまふぅ」
そういうと、ヨボウとかいう爺さんがリースの下に歩んで、その手を取った。
「『原初の血』」
詠唱破棄で、先ほどまで言っていることがあやふやだったが、今ハッキリとその魔法名をヨボウが唱えた。
その瞬間、リースの手から何やら膨大な文字があふれ出してきた。
「なんだこれ!?」
「すごっつ!?」
『「原初の血」……簡単に言えば、その人の血から情報を引き出して、その情報がどこの誰と一致するのかを調べることができる魔法です。カグヤ様にわかりやすく言うなれば、DNA鑑定ですかね?』
うん、物凄くわかりやすい例えをありがとう。
DNA鑑定の魔法版であり、その上位互換というのがこの『原初の血』とかいう魔法らしい。
その情報から、血縁者が誰で、生死の有無や居場所が割り出せるとかいうもうとんでもない魔法なのだとか。
……ただし、情報量が膨大過ぎて扱える人はほとんどいないらしい。
簡単に言えば、PCとかで検索する際に、細かい情報指定が出来なくてなかなか見つけたい情報が見つからないというもどかしさがあるのだとか。
で、この宮廷魔導士筆頭とかいうヨボウという方は、このバーステッド王国で唯一この魔法を扱える人らしくて現在はその魔法を扱える新人を育成中らしい。
アンナも使えることは使えるそうだが、流石に情報量が多すぎて手に余るそうである。
「ふむ……なるひょど。ちゃしかにひょうこふにあっちゃちょうりでふな」
情報を読み取り、その内容を理解したのかヨボウが確認するようにうんうんとうなずく。
魔法を止め、出てきた情報の一部を切り取りだし、それ以外を消去させた。
「どうだ、その確認はできたのか?」
「ひゃい」
その魔法によって出てきて、切り取られた文字は、見やすいように拡大された。
「『ゼクリア・フォン・デストロイ』に『リリーシア』……?」
出てきた文字だが……それはどうやら、リースの本当の血縁者の名前を指すようである。
そしてその名前だが……両方とも、とんでもない人物の名前であった。
「まず、リース嬢の母親が……『リリーシア』。報告によるとサキュバスであり、十数年ほど前にカグヤ殿、貴殿の母親テリアス・フォン・シグマに討伐された者の名だ」
「「はい!?」」
まさかのシグマ家……カグヤの母であるテリアス・フォン・シグマの名が出てきたことに二人とも驚いた。
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「リリーシア」
十数年ほど前に討伐されるまで、数多くの有能な貴族や王族の男性を狙い、堕落させてきた恐るべきサキュバス。通常のサキュバスとは違い、ほぼピンポイントで重要人物を狙い、その相手を男なのに他の物との子供を妊娠させたりしてきた。
最期の獲物がシグマ家当主のアーデンベルト・フォン・シグマだったそうだが、夢の中からの干渉を始めようとした瞬間に、その妻であったテリアス・フォン・シグマに察知され、強制介入からの目の前に引きずり出され、夫を汚されそうになった妻の激怒によって、チリ一つ残さずその魂すらも消滅させられた悲惨な末路を辿った。
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「時期的にはリース嬢をあのゲトロアが身籠った後であり、カグヤ殿がまだその母の中にいた時期でもあったらしい」
「という事は……」
「妊婦の状態で、当時最強レベルのサキュバスを消滅させたという事だ」
まじで何者だよ母上。しかも、夢に強制介入からの目の前に引きずり出すってどうやったんだろう。
「そしてもう一人、『ゼクリア・フォン・デストロイ』だが……リース嬢の本当に血のつながった父親という事になるのだが、この人物もまたとんでもない人物だ」
「デストロイ……まさか!?」
「そう、『デストロイ帝国』の皇族の一員だった人物だ」
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「デストロイ帝国」
・バーステッド王国との関係が近年悪化しており、戦争になるのではないかと考えられている帝国。
・軍の発言権が強くなってきているようであり、そのあたりも要注意とされている。
・現皇帝は賢帝としても暴帝としても有名であり、国民には慕われている。
・その弟はゼクリア・フォン・デストロイであったが……
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「ちょうどそのサキュバスが猛威を振るっていたころに犠牲になった一人であり、今の現皇帝とは兄弟仲が良く、陰から支えようとする者だったらしい。だが、ある時期からおかしくなって……最終的には処刑されたらしい」
いわば、リリーシアとかいうサキュバスによって人生を狂わされたあわれな犠牲者であろう。
……ここまできて、何が問題になるのかがその場にいた者たちは理解できた。
「つまり、リースは……」
「現皇帝の弟の血のつながった実の娘、つまり皇族の一員であった者だろう」
他国の皇族の血縁関係者だったという事だけでも、とんでもない事実である。
そのうえ、さらに面倒な事としては……
「ゲボ嘔吐男爵…失礼、ゲトロアでしたっけ。その人とリースは血縁関係がなかったという事ですよね」
「そうだ」
「で、リースは他国の皇族の血縁者でもあり……」
リースがあの男爵家で冷遇されており、しかも汚されたかけていた。
皇族結縁者が、王国で虐待のような目に遭っていたとなれば……両国とも把握しきっていなかったとはいえ、下手すりゃ戦争のきっかけとなる問題。
……そりゃシャレにならない大問題であろう。
今さらながら、とんでもない事態になっているのを、改めてその場にいる者たちは認識したのであった……
さてと、この問題をどう解決するべきかな?
「ちょこっと整理」
・リースの本当の親、消滅済みサキュバスと帝国の現皇帝の処刑された弟
・皇族血縁者であり、王国内で事情が把握されていなかったとはいえ冷遇、穢されかけた。
・これをきっかけに下手すれば戦争間違い無し。そうでなくとも現在緊張状態に近い。
・やっべぇどうしようと、ダースヘッド国王の心労が積み重なり胃潰瘍確定。
・ゲボ太郎ゲフンゲフン、ゲトロアの処分はすでに決定済み。
……さてと、ちょっと別話を挟んで新章行きますかね。物凄くめんどくさいことになったなぁ。




