#63
盛大にやってしまおう(ばれないようにね)
SIDEカグヤ
「……いやまぁ、実家の手を借りるつもりはなかったんだよな」
『そうですよね。カグヤ様まだ誰にもリースさんの事情を話していませんでしたよね』
リースの見舞いの翌日、カグヤは自室にて眉をひそめてアンナと話しをしていた。
「というか、一体どこでどうやって……」
『あの場には誰もいなかったようですし、改めて考えると恐怖ですよね』
目の前に置かれている書類の束を見て、カグヤとアンナは考え込む。
その書類の束は……リースのいるソード男爵家について及び、嫌がらせや怨恨を持っているであろう貴族たちの調査資料のようであった。
どうやらまだ誰にも相談しないうちに、シグマ家が自動的に調べ上げたようで、署員を見て見ればシグマ家が確認したという印までもがあるようだった。
……シグマ家って本当に何なの?まだ行動にすら映していないのに、この情報だけで十分すぎるでしょう!!
改めて、実家であるシグマ家の情報網や実行力の早さにカグヤは戦慄を覚えたのであった。
とはいえ、ただ情報がドーン!!っとおかれているだけで、断罪や制裁などが行われたわけでもない。
おそらくだが、シグマ家自体がカグヤの行動を見張っているかのような……まるで一種の試験のようにも感じられる。
「これをどう活かすかについて測られているのだろうか?」
『多分そうですよね。証拠もあるようですし、活かすも殺すもカグヤ様次第という事でしょう』
……ま、しょうがないか。
せっかく実家が用意してくれたようだし、この手助けに乗りますかね。
「って、なんか同封されているな」
ふと、その束の中に一つだけ厚みが違う物があったのでカグヤが取り出してみると……
「……なんぞこれ」
『さぁ?』
出てきた物をみて、カグヤは首をひねって考えたのであった……
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SIDE貴族A
「ぬーはっはっはっは!!とりあえずこれでソード男爵家のあの当主にはよくわかったであろう!!」
とある貴族屋敷にて、当主であるその人物Aは酒を飲みながら笑っていた。
手の内の者がとらえられたとはいえ、ソード男爵家に対して警戒などの心配を増やすことができただけでも彼らにとっては大収穫である。
彼等とは……ソード男爵家に恨みや妬み、嫉妬などを持っている家々の者たちであった。
今は落ち目であり、現当主もだいぶボンクラと化してきているようだが、その落ち目になる以前は彼らにとっては目の上のたん瘤のような存在だったのである。
そして、落ち目になっている今こそその積年の思いを晴らそうと動きまくり、今回の決闘場爆破によってその子息を怪我させることに成功したのであった。
できればそこで命でも奪えていたら、跡継ぎがいなくなって潰れただろうし、奪えていなくてもこれから先どのような事が起こるのか恐怖でおびえさせることができるだろう。
また、捕らえられた者たちが話そうとも、何重にも人を介し、念を入れて仕事をするように依頼したために、自分たちの元へたどり着くはずもない。
そう言うわけで、その元凶の一人の貴族当主Aがたまにはいつもよりもっと豪勢な食事をとろうとしていた時であった。
ドカァァァァァァァァン!!
「うおっつ!?何だ何だ今のは!!」
突如として屋敷全体に響くような揺れと爆発音が襲い、その貴族Aは慌てふためいた。
「しゅ、襲撃だぁぁぁ!!」
「賊だ!急いでひっとらえろぉぉぉぉぉ!!」
周囲にいた部下たちも慌てたが、とっさに指示を飛ばしていく。
「現在の状況は!?」
「ほぼこちらが圧倒的不利です!!しかも、相手はたった一人のはずなのに無傷です!!」
「馬鹿な!?」
「どこの誰かはわかりませんが、恐ろしい手練れです!!しかも誰一人気づ付けることなく手刀で気絶させるだけの素早さと正確さを持っています!!」
「無力化させるだけなのかよ!!」
……普通に攻撃をしてくるだけであるのなら、まだこれは容易い事である。
相手を気づ付ける前提でやることによって、全力を出すことが可能であるからだ。
しかし、相手を「無力化」させる事のみに集中することはほとんどできない。
気絶させるにしろ一撃で仕留めないといけないし、気絶させた後倒れかかって来る事や、地面にいるので邪魔になるなどの障害が多く、無力化だけさせることができるというのは……それはすなわち、相手が相当な実力者であるという事を示すのだ。
「い、一体どこの誰だこの襲撃は!!」
貴族Aは慌てふためくが、そのまま愚物がどうしようにもどうにもならない。
その日、貴族家の一つが突然謎の襲撃に遭うという事態が起きたのであった。
そして、不思議なことに護衛についていた者たちは皆一撃の手刀で気絶させられただけなので、味方の攻撃に巻き込まれて怪我した以外はほぼ死傷0だったのである。
さらに、なぜかその貴族Aがこれまでやってきていた後ろめたい物事が同時に世にさらけ出されたのであった……
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SIDE貴族B
貴族Aの仲間であった貴族Bは、この事件の翌日に自身の屋敷の警備を厚くした。
金に物を言わせて厳重にしているのだが……果たして意味はあるだろうか。
手刀で気絶させたという話も聞いているので、防御もガッチガチに固めてもらったが……
結局無駄でした。
「あ、あ、ああああぁぁぁぁぁあ!!」
貴族Bはその圧倒的な恐怖に悲鳴を上げる。
大丈夫かと思っていた屋敷の守りは全く通用せず、皆やはり気絶させられているのだ。
目の前にいるその襲撃者の姿を貴族Bは見たのだが……まったく正体がわからない。
背丈からまだ若い男性のような気もするが、どういうわけかこれと言ってはっきりと捉えられないのである。
しかし、纏っている殺気とかはとてつもないモノという事だけは理解して、そのまま限界になったのか貴族Bの意識は薄れていったのであった……
その日、貴族Bの家は地下室が掘り起こされて地上に出され、違法な高利貸しでもやっていたのか、借金の方にという理由で渡されてきた娘たちの姿が現れて、貴族Bは重罪となりそうであった。
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SIDE貴族C
おとといはA、昨日はBと連日して襲撃が起きたのを知ったCは、この二人の関連性から今度は自分だという事を分かってしまった。
ソード男爵家の子供に危害を加えようとした家々であり……そして、今度は自分の番だろうと理解したのだ。
守りをいくら固めようが、すべて無力化されたのちに自分たちの悪事をさらけ出されるというのが分かっている。
ならばどうするか。
AもB別に命を落としたわけではないので、どうやら命の危機はなく、不正の方を狙ってくるのは間違いないだろう。
となれば、とる手段はひとつ。
今のうちに不正の証拠類などをまとめ上げて、Cはさらに屋敷の守りも撤廃し、むしろ歓迎するかのような状態にさせた。
最初から交渉という手段を使えばいいのではないだろうかと、貴族Cは考えたのである。
力で押しとどめずに、出来るだけ接待をして話し合えばきっとわかってくれるはずだ。
そう考えた貴族Cであったが……いかんせん、今一つ頭のねじが足りていなかった。
そもそも、襲撃してくる相手が対話を求めるだろうか?
最初から対話が可能であるならば、金などで何とかしようとAもBも画策したはずである。
……その結果、その日貴族Cの家には誰も来なかったように思われた。
だが、実のところ待っていた客間を見事にスルーされ、直行で自分の横領などの証拠を盗み取られており、人的被害は一番少なかった代わりに、自身の地位的被害は大きなダメージを受けるのであった……
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SIDEカグヤ
「……ふぅ、これで主だったリースを狙った貴族は壊滅かな?」
寮の自室に戻ったカグヤは汗を拭き、そのかぶっていたお面を外した。
『多分これで全部でしょう。しかし……なんで「認識障害」を起こす仮面なんてあったんでしょうね?』
そのお面をカグヤから受け取り、箱に仕舞うアンナ。
この3日間連続で主だったリースを狙っていたであろう貴族家をカグヤは襲撃していた。
とはいっても、恐怖を与えに行くだけで、けが人を出さないようかつやるのはその家のやばいところを表すという事だけである。
この作業、もしカグヤだとバレれば色々と不味かっただろうが、幸いにして実家のシグマ家からある仮面が同封されていた。
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「封じの仮面」
周囲から自身の認識をあやふやにさせて、その正体を不明にさせてしまう仮面。
副作用としてつけている間は声が出なくなってしまう。
シグマ家の者の中で魔道具などの開発に狂気を注いでいた人が創り上げたものである。
なお、一人が一生にその仮面をつけられるのは5回までで、それ以上つけようとすると、仮面をつけている間ずっと、タンスがあるとそこに足の小指の角をぶつけまくるようになる。
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微妙なデメリットがあるようだが、今回に関してはこれ以上の使用はしないつもりである。
というか、本当にシグマ家ってどれだけの分野に手を伸ばしているんだろうか。
「さてと、残るのは……」
カグヤはこれまでに制裁を加えた貴族家の書類を横に置き、次に狙う……ソード男爵家に関することが書かれた書類を読み始めるのであった……
きちんと憂いのないように徹底的にやりたいのです。
例え、友の実家であろうとも……いや、リースは当主を嫌っていたし、家がつぶれるとかそう言う事にならないのであればまだいいのかな?




