#62
厄介事ってどこの世界でもあるんだよなぁ
SIDEカグヤ
リースの話を聞いた後、カグヤは病室から退出した。
「……はぁ、思ったよりもめんどくさいことになっているんだな」
『なんと言いますか、貴族ってめんどくさい生き物だと改めて認識できましたね』
寮への帰路の途中、カグヤのつぶやきにアンナは答えた。
「にしても、アンナもハーフサキュバスみたいなものだったのか。それで同族嫌悪で互いに仲たがいをしやすい状態だったとは……」
『まぁ、厳密に言えばちょっと違うんですけどね』
「？」
『今の私は魂魄獣。前世の体質とかはそのままのようですが、それでも種族的に見れば変更されていますし、その名残が残っていたにすぎません。ですので、今回の件でしっかり理解できたうえで同族嫌悪の方は解消できますかね。（仲たがいするのはどうにもなりませんが）』
「おい、今何かぽつりとつぶやかなかった？」
『いえ何も？』
とぼけるような声をアンナは出したが、今確かにどうにもならない的な発言が聞こえたような気がする。
同族嫌悪以前に、まず最初から互いの気が合わないのならそりゃそうなるよな。
『でもまぁ、この先も面倒ごとを絶対仕掛けてきますよね』
「ああ、あのリースを狙った黒幕にいるであろう貴族とかだろ？」
そう、今回話を聞いただけであって、まだ何も解決しているわけではない。
リースは卒業して当主をついでその腐れ親父をたたき出すまでは男装を貫き通すつもりらしいが、それまでにやはりソード男爵家に恨みや嫉妬があるであろう人達からの標的から免れたわけではない。
普段から気を這って隙を見せていなかったようだが、今回の決闘の時は隙ができてしまっていたようで、そこを狙われたわけだしな。
とはいえ、これは他家の問題。
迂闊に介入すれば、余計にややこしい状態になるのが目に見えているのである。
でもなぁ、アンナも巻き込まれかけたわけだし……
「実家に頼んで……の手段はやめておくか」
『賢明だと思えますよ。シグマ家の介入をすると余計に事態がややこしくなりそうですし、下手すればいくつかの貴族家が比喩ではなく本当の意味でつぶされそうですしね』
アンナのその言葉が間違っているように聞こえないのが不思議である。
シグマ家が迂闊に絡めば、そうなる可能性が大きいからね。
特に母上なんかはそういう不正とか嫌がらせは嫌いな様で、絶対意気揚々として殲滅級の魔法を平気でぶっぱなすであろう。
……あれ？これ余計にやばい事態を招いちゃったような。
そもそも関係ない立場だったはずが、アンナが巻き込まれて、リースから話を聞いてなんか思いっきり巻き込まれたような気がする。
これが「巻き込まれの才能」かよ！
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SIDEリース
「……はぁ、つい話しちゃったけどどうしようかな本気で」
病室にて、カグヤたちが退出した後リースは少し溜息を吐いた。
今は「完全偽装の才能」でいつもの男の姿になっており、今までも男としての気持ちで接していたのでそう単純に慌てるようなこともあるまいとリースは思っていた。
だが、まさか自分の本当の姿……それも着替えている途中で見られたのは一生の不覚であり、不意を突かれたせいか、女としての自分の心が出てしまったようにリースは感じられた。
外装を固めているだけで、やはり自分は女なのだとリースは痛感する。羞恥心もしっかりしていたし……。
そして、勢いに乗って己の秘密までを話してしまったのは、今更ながら軽率な行動だと男としてのリースは思えていた。
……けれども、女として考えるならば、本当にそう思えるのだろうか？
リースはあの嫌いな父親の言う事に従って、いつ墓は逆襲してやろうと考えながらも、心の弱みを見せないようにできるだけ自身を隠していた。
これまでカグヤやミルルと言った友人たちを相手にしても、男としての自分を貫き通し、その本心を魅せないようにふるまってきたはずだ。
だが、事情を今日話したことで……そこにほころびが生じた。
自分という存在をさらけ出すことによって、カグヤに安心感を求めようとしてしまったのだろうか？
話し終えた後、少々気まずい雰囲気になったが……これまでずっと自分は男だという風に騙してきたようなものなのに、それでも何も言わずにむしろ一緒になって心配して考えていてくれていた。
その優しさというか……友人として変わらずにいてくれているようなことがうれしくも思えた。
……ただ、なぜか悲しくも思えた。
自分はあくまで「友人」というカテゴリーの中であり、それ以上にも……
「って、何を考えているんだ僕は！！」
リースはその先を考えようとしていたことに頭を抱えて、顔を真っ赤にして叫んだ。
そもそも最初に喧嘩を吹っ掛けた自分が、なぜこうも今はカグヤの事を考えてしまうのか。
自身が他の貴族家からソード男爵家に対する嫌がらせなどのための駒にされているような状況を忘れて、リースは今考えようとしていたことに悶え苦しんだ
男として自分すらもだまして生きてきたのに、女の自分の姿を見られたあとから浮かび上がってきたその心は、リースを激しく動揺させるのは充分であった……
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SIDEカグヤ
『んん？』
「どうしたんだよアンナ」
自身の持つ「巻き込まれの才能」の効果が影響しているのではないかという事で頭を悩ませたカグヤであったが、ふとアンナが何か怪訝な声を出したので尋ねた。
『いえ、何かこう……この先絶対にリースさんと激闘になるような気がしまして』
「何をやらかそうとしているんだ？」
そのアンナの返答に、カグヤは呆れた。
『何もやらかすつもりは……ないですかね？』
「今疑問の声だっただろ」
明らかに何かをやらかしそうなアンナに、カグヤは不安を覚えた。
「ま、それはいいとして……この先が厄介だろうな」
あの決闘場の爆発……リースを狙った物であり、その黒幕としてはソード男爵家に恨みや妬みを持った者たちが動いている可能性があるらしい。
となれば、そいつらがつぶれなければ今後も彼……いや、彼女だったか。
終わるまで狙われ、また同様の事件が起きかねない。
「というかそもそも、そう言うやつらに限って余計腹黒いことをしていそうだけどな」
『その可能性はありますね。裏取引とかもありそうですし、むしろ襲ってくるなら襲ってくるで、叩いてホコリをバンバン落としてもらった方が早そうですよね』
襲えない状況にしてしまえば、友人であるリースも大丈夫であろう。
……ってあれ？なんでいつの間にか俺は彼女に協力するような感じになっているのだろうか。
最初は喧嘩を売ってきたやつだったけど、友人となってからは普通に接してきた相手だしな。
うん、友人を守るためだ。この当たり前の考えのせいであろう。
「決して何も考え無しでやっているわけでもないし、見捨てておけないだけだよな」
『カグヤ様、途中から声出てますよ』
「え、出てた？」
『はい、「友人と～」のあたりからですね』
いつのまにか考えていたことが口から出ていたことに、カグヤはアンナにそう指摘されて気が付くのであった。
『何もやましいような想いもありませんよね？』
「それは当たり前だろう」
『リースさんの着替え中（女の）を病室で見たのが理由ではないですよね？』
「当たり前だろ！！」
どこかジト目で見ているかのようなアンナに対して、声を少し荒げて出したカグヤであった。
……うん、見ちゃったのは悪いと思っているんだ。プライバシーって言うのもあるけど、互いに男同士だし大丈夫かと思っていたんだよな。
でも、やや後ろからとはいえ、胸部が横にちょっと見え……
『何を煩悩働かせているんですかぁぁぁぁあ！！』
バシィィィィィィン！！
「いったぁぁぁぁぁぁぁぁあ！？」
考えていたことを呼んだのか、アンナがどこから取り出してきたハリセンでカグヤは思いっきり叩かれたのであった。
た、ただのハリセンじゃねぇ……魔法でガッチガチに固めた鈍器だ……
「天然ジゴロの才能」……同時発動中。
そもそもこういう陰謀とかがあると、それだけ探られるとまずいようなことをしている貴族とかもいたりして、一斉摘発のチャンスもあるんだよね。
友人を狙われたカグヤからすれば、叩き潰したいんだけど……物理で行くか、間接的に行くか。悩ましいところである。
