#52
久し振りの~
「久しぶりの神からのメッセージ?」
『はい、休日にかこつけてやってきましたよ』
カグヤが起床した早々、アンナはその報告をカグヤにしたのであった。
アンナが本の姿になって、そのメッセージをページに浮かび上がらせていく。
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……まずは一言、お主本当に何をその世界でしたいのじゃよ?火炎龍を愛人としてよこされるっているのはどういう事じゃ?
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「それはこっちが聞きたいわ!!」
『まぁまぁ、カグヤ様落ち着いて』
しょっぱなからの神からの言葉に、カグヤはついツッコミを入れた。
自分から望んだことではないのにどうしてこうも厄介事が来るのやら……「巻き込まれの才能」のせいもあるのかもしれないが、今回ばかりは巻き込まれとは関係ないとカグヤは叫びたかった。
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コホン、それはまた後にゆっくりと聞くとして、今回は神からの久しぶりの命令というか、ある事を中止させちゃってほしいのじゃよ。いや、中止どころかできない様にしてほしいのじゃ。
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「ん?何かの中止?」
神がこうやって命令してくるという事は、絶対に何かまずいようなことである。
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それがのぅ、世界をまたぐのは負担がかかると言ったとは思うのじゃがな、そのお主のいる世界で『ブァーデリテ聖教国』とやらがどうやら異世界からの召喚をしようとしているらしいのじゃよ。
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「『はぁっ!?』」
神のその言葉に、カグヤとアンナは思わず声を上げた。
……以前にも神から説明をカグヤは受けていたが、通常ある世界からまたある世界へと人が行き来する際に、その負担は世界にかかるらしい。
その負担だけでも下手すりゃ世界が滅びるようなことがあり、異世界召喚などを行われるとその世界の滅びが加速する恐れがあるのである。
というか、実際に滅びるのはあるようだ。
例外は一応あるそうだが、それ以外では世界そのものに負担がかかり、さらには異世界物の常識とも言えるようなチートを持つ様な者達が出たりして滅茶苦茶になりやすい。
その為、こういう異世界召喚を神としては防ぎたいようだが……
「アンナ、『ブァーデリテ聖教国』ってなんだ?」
『確かバーステッド王国とはあまり国交がない国でして、珍しい宗教国ですよ』
ぱらぱらっと、本の姿でページをめくりあげ、アンナはそこにその情報を掲載した。
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『ブァーデリテ聖教国』
・多神教ともいえるこの世界では珍しく、唯一神「ブァーデリテ」という神の存在を祀っている宗教国。なお、実際にそんな名前の神はおらず、だましているともいえる。
・島国であり、バーステッド王国から海上沖南側に位置する小国。
・数年前まではその聖書の通りにつつましく暮らすようにという、その神は存在しないのに教えを守るという比較的穏やかな国であった。
・近年、その国の教皇が代替わりをした際に、その国にいる巫女が信託を受けたとかで現在混乱が生じている。なんでも肉欲色欲に溺れてきているらしい。
・神いわく、「ぶっ潰したほうが良いのじゃよ」
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『まぁ、簡単に言えば腐敗が生じたんですよね。それまではその神がいなくても問題を起こさなかったのでいいのですが、どうやら欲望を出したものがやらかし始めたようですよ』
テンプレ的というか、そんな腐敗が起こるのは人間の性なのだろうか。
「でも、それがどうやって召喚とやらにつながるんだよ?」
改めて見ると、神のメッセージの方に詳しいことが書かれていた。
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あれじゃ、自分の肉欲色欲を満たす存在が国内から消え失せ、ならばいっその事異から美女でも呼んでぐへへへのへと……まぁ、物凄くろくでもない理由じゃよ。
そしてそのろくでもない理由のために、腐りきった者たちは動き始めたようでな。
何と驚くべきことに、召喚用の魔法陣を独学で作り上げてしまったのじゃよ。とはいえ、偶然の産物故にリスクも大きく、少しでも破損して違うところが出てしまえばあっという間に機能は失うがのぅ。
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本当にろくでもない理由である。
要は国内に美女がいなくなったならば、別の世界から攫って見ればいいと短絡的に考えたのだろう。
それでどういうわけか、本当に異世界から人を呼び出せるような代物を偶然にもそいつらは作り上げたようであった。
おそるべきはその色欲か、それともその愚かさにか。
『ですが、どうやら一部でも破損すれば二度と動かなくなるようですね』
「修理してもか?」
『精密すぎてねじ一本抜けて動けなくなるような機械のようなものだと考えればわかりやすいですかね?あと、直したとしてもそれはそれで魔法陣の性質とかも変質しますし、同じものを完全再現するのは難しいんですよ』
アンナいわく、こういった類の……異世界召喚用の魔法陣とかはその他のモノに比べて物凄くめんどくさいらしい。
『魔法の性質の変化も受けますし、何か壊れでもしたらその力の流れにも狂いが生じて二度と動かなくなる……扱いが怖ろしく面倒なうえに大変ってことです。言うなれば、替えのきかない一発限りのモノですよ』
書き直したとしても、その力の流れとかも異なったりするので取り扱いが非常に厳重になるそうだ。
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そこでじゃ、その異世界召喚をされる前にどうにかしてその魔法陣を一部でもいいから欠損させてくれなのじゃ。そうすれば二度と動かなくなるし、世界への負担も消える……あとは愚か者達に制裁を適度に加えてほしいかのぅ。神として関わり過ぎるのはいけないし、軽くケツ爆竹でもしてやるのじゃよ。
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「軽くないよね?」
『あ~でも世界への負担を考えるとどうでしょうかね。去勢とかもついでにおこなったらちょうどいいかと』
それはそれで恐ろしいことだが、とにもかくにも問題が一つ。
「向かおうにもすぐにつかないよな?」
『ブァーデリテ聖教国』だが、流石に距離が遠い。島国だから海を渡る必要性がある。
休日中に向かえるわけもなく、明らかに時間がかなりかかる距離にあるのだ。
かと言って、学校を休学してまで向かう事もできない。
休学理由が「神に頼まれました」……明らかに変だろう。
「向かう手段がないわけではないけど時間はかかるし、かと言ってこういうことを見過ごせはしないし……」
『……あ、一つだけ休日中に向かえそうな方法がありました』
カグヤが考えていると、ふとアンナが何かを思いついたようである。
「何かあるのか?魔法でばびゅーんっと飛んでいけるとか、転移できるとか?」
『魔法ではないですが、予想では……でもあまり気も進まないというか……』
「?」
歯切れがどこか悪く、目をそらすかのようにアンナはその方法をページに浮かび上がらせた……
4時間後。
「……まさか、本当にブァーデリテ聖教国につくとは思わなかったよ」
『あまり気が進まない手段でしたけどねぇ』
「こういう時こそ、私がいるのでス」
ブァーデリテ聖教国の地を踏むカグヤたちがつぶやく傍らで、エッヘンとサラが胸を張って自信満々に返答をしたのであった。
ここまで来た手段……そう、元火炎龍でもあったサラに乗って飛んできたのである。
姿かたちは変われども、その中身までは完全に変化はしていらず、飛行能力をサラは有していたのだ。
そもそも、ドラゴンのあの巨体が翼だけで飛行できそうもないことは考えられていたが、元から魔法に近いような感覚で飛んでいるらしいとは思いもしなかった。
そして、中身が変化していないのでサラも飛行能力は元の火炎龍だった時のままであり、カグヤたちは彼女に頼んでここに連れてきてもらったのであった。
「一応愛人としていつでも受け入れる用意はできておりますが、従者としても働きまス」
「その受け入れるとかの話は置いてと、まさか本当にここまで来れるとは思わなかったぞ」
『……一応、日帰りの予定ですのでさっさと用事を済ませましょウ。一晩泊ることになればカグヤ様の貞操が危ないですからね』
アンナが何やら不安になるようなことをつぶやいたが、とりあえずカグヤたちはその魔法陣の破壊のために、その陣がある場所へ向かって急ぐのであった……
飛行中の会話
「ところでサラ、俺達が何の目的で行くかまでは聞かなくていいのか?」
「はい、私は愛人としても従者としても動きますからネ。ですから飛行中でもぜひとも」
『……あなた本当は淫獣じゃないですかね?』
カグヤの質問に、もじもじしながら答えるサラにアンナはジト目で逆にその可能性を疑いたくなったのであった。
……最初は犠牲覚悟だったサラだったのに、なんかいつの間にか卑猥な方向になってきたような?どうしてこうなったし。




