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サイドストーリー:アンナ・レビュラート 外伝・本譚

ちょっと外伝

【とある夫婦の話】


…とある深い深い森の中に一組の夫婦がいた。


片方は、この世界で力が強すぎたがゆえに孤独だった者。


もう片方は、共に生きていけるような相手がおらず、美しすぎた者。



それぞれが互いに足りない物を補い合い、愛し合っていた。


だが、その夫婦には一つの望みができていた。


自分たちだけではなく、愛しい子供が欲しいと…



ある晩、夫婦はそろって同じ夢を見た。


夢の中には、謎の輝くような存在がいて、その者がどこからかまた別の輝いている塊を妻のお腹に投げ入れたという夢を。



夢から覚め、それから数日後夫婦は知った。


あの夢は、自分たちに子供が授けられたことを示すという事であったと……







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【幼い時の思い出】


「お母さん、お父さんはどこへ行ったの?」


 私はそう尋ねた。


 生まれてからずっと優しかったお父さんが、ある日突然私とお母さんの目の前から姿を消したためだ。


 母は赤くはれた目を拭きながら、そっと私を抱きしめた。


「…お父さんはね、ちょっと疲れたから遠い所へ行ったのよ。私達が簡単に行き来できないような、はるかに遠い遠い場所へ」

「…帰ってこれるの?」

「帰ってこれるわよ…きっと。お父さんの強さは知っているでしょう?この間だって、突然襲ってきたドラゴンの尻尾をつかんで、そのまま空の彼方へと投げ飛ばしたでしょう?」

「そっか!!じゃぁ帰ってこれるね!!」


 その言葉で納得をして、私・・・幼かったアンナ・レビュラートは笑いながらそう言った。



 思えばその時に、私は母に気を使われていたのだと気が付く。


 父はただ遠い場所へ行ったんじゃない。


 人としての終わり…死後の旅路へと向かったんだという事に、私が知ったのはそれからかなり経ってからだった。


 母は、まだ未熟で幼かった私を悲しませないようにそう言ったのだと…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【少女時代:魔法使いの弟子】



『ほぅ…なかなか飲み込むのが早いではないか弟子よ』

「はい!!師匠の技を自分なりに改良したのです!!」


 …森の中にあった家から私はいつしか自立し、旅をしていたその矢先である魔法使いの弟子入りをした。


 その魔法使いであり、師匠は今にして考えると…多分人ではなかった。


 もやもやとした印象で、はっきりとした姿を思い出させず、時折手を何本もとにかくたくさん動員させて魔法の薬を作製していたり、鉄鉱石をかじってミスリルにしたり、水をワインに変えたりしていたのだもの。


……あれ?確実に人間じゃないよね師匠。普通足を30本以上も生やしたりしませんし、目から光線を出して文字を板に焼き付けたりするのは人間じゃないよね?




 まぁ、師匠は女性だったので私に変なことはしてこなかったが…あいや?一回変な薬品を風呂に投下してきた時があったような。まぁ、効果はなかったからいいけど、あれたしか普通の女性に使ったらやばい奴だったような。



『それにしても弟子よ、お前は呑み込みが早い上に、魔法に関しては無限かというような魔力を持って制御できている。もしかしたら師であるこの私を浄化して消し去ることができるかもしれんなぁ』

「あはははは、何を言っているんですか師匠?アンデッドとかならいざ知らず、まだ未熟な私の浄化魔法が師匠に効くはずがないじゃありませんか?」

『それじゃあ何が効くと思うのだ弟子よ?』

「見たところ…台所の裏どころか、どこの世界でもいそうなGですかね?」

『それは効くか効かないかではなく、ほとんどの者たちが苦手なものだぁぁぁぁぁあ!!』


 そう絶叫をした師匠だが、あながち間違っていなかっただろう。あの気持ち悪い奴らは魔法薬にすると案外すごいのが作れるが…使用したくはない。



 にしても、私は色々と不思議な存在であると師匠はよく言っていたっけ。



まるで枯れ果てる事のない泉のような膨大な魔力を持ち、またその魔力を他人へ移せる能力。


一目見ただけでこれが何なのかすぐに理解できる能力。


時折うっかり作ったやばい薬品がかかっても、何もひどい状態にならない不思議な耐性。


そして、時々師匠の背後に立って驚かせるほどの気配の遮断の自由自在。



 ……母親譲りの美しい容姿と言うのはあったらしいけど、師匠いわく母の事はむやみやたらに話さないほうが良いとなぜか言っていた。


 母の名前を聞いたときに怪訝な顔をしていたけど…何だったんだろうか?





『はぁ、それにしても弟子よ』

「何でしようか師匠?」

『いやこういうのも下世話なような気がするが…このまま魔法使いとしての修行に青春をささげるのか?』

「どういうことですか?」

『あいや、弟子もその容姿なら男の二人や三人…それ以上の相手が寄ってきそうだしな。その中に好意の男子はおらんのか?』


 物凄いニマニマした顔で師匠が言ってきたので、ちょっとイラっと来て師匠のにやけている20以上ある目玉の一つに蜜柑汁をかけて黙らせたけど‥‥言われてみれば、そんなことに私は興味がなかった。



「…何ででしょうかね?絶対に好きな相手はいるのでしょうが…こう、あやふやな様な」

『目がぁぁぁぁ!?目がぁぁぁぁ!?』

「あ、師匠。そっちに転がると…」


ドカァァァァァァァン!!


「…失敗作の爆薬があったんですよね。ちょっと綺麗な花火を魔法で作ってみたいなと思って、まずは現物からと意気込んで買っていたのですが」


 綺麗に打ち上げられて、真っ黒焦げになった師匠は文字通り天に召されかけた。


 うん、ちょっとやり過ぎたようで、その後に少々お仕置きを受けた。でも、生きている時点で相当な化け物のような気がする…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【少女時代終わりの時】


「お母さん!!帰って来たよ!!」


 師匠から魔法使いとして一人前として認められたその翌日に、私は懐かしの実家に駆け込んだ。


 毎年手紙を送って、返事が来たお母さん。


 


 魔法使いとして一人前になったその喜びを直接伝えたくて、母の部屋へと飛び込んだその時…



「…お母さん?」

「‥……あらあら、帰って来たのねアンナ」


 そこにいたのは、もうほとんど消えかかっているかのような母の姿であった。


「お母さん!?どうしたのその体!?」


 だんだん体が薄れていき、もうこの世から消えていくかのような母の状態に私は驚愕し、どうにかしなきゃと思っていた。



 けれども、母は動こうとした私をその消えゆく身体でそっと抱きしめて、何もしなくていいとそうささやいた。


「…アンナ、こうなることはもうわかっていたんだよ」

「どういうことなの!?まだ何もしていないのになんで諦めているかのような感じになっているの!?」

「それはね…私の寿命、いや、存在するためのエネルギーが無くなったのさ」

「存在するための…エネルギー?」




……母が語りだしたことに、私は驚いた。


 母はリリスというサキュバスであり、その存在としてはお父さんがどうしても必要不可欠だったらしい。


 サキュバスは人の精気を吸い取って生きながらえる種族…そして、生涯を共にする者ができたときにその運命は決まってしまう。


 相手がいなくなった時から、サキュバスは消えゆく運命にあったのだ。


 その生きるためのエネルギーを、生涯の相手からしか取れなくなり、そしていなくなればその補給手段が無くなってしまうと。




「あなたのお父さん…今でも愛している夫がいなくなったその時から、私がこうして消えることになるのはわかっていた。けれども、その時に取り残されていくアンナが不安だったのよ」


 母は世界中から狙われるほどの美貌の持ち主であり、その子供が下手すれば狙われる可能性があったことを危惧したのだという。



 そして、私がきちんと自立し、誰にも負けないぐらいしっかりと成長するまでは根性で生きながらえて見届けてきたというのだ。



 そして、私が一人前の魔法使いとなったその瞬間、母の身体は限界を…いや、限界なんてとうに超えていたのだろう。


 それでも、私が不安で、最期のこの時まで必死に待っていたそうだ。



「お母さん…私を一人にしないでよ!!何で黙っていたの!!」


 母がこうなるとわかっていれば、こうなる前にどうにかなるような方法を私は探していただろう。


 けれども、母は私のその叫びを聞きながらも、昔と変わらない優しいほほえみを返した。



「いいのよ…もうどうにもならない、それがサキュバスの運命。けどね、アンナは私の子供でもこの性質つは流石にないのよ。受け取ったのは、私の美しさだけ。……子供を残して逝くことに、私は罪悪感がないわけではないわ。欲しいと思って育てた…あの人との愛しい子供、アンナ。こうして残して逝くのは悲しいことだけれども、私はいつまでもあなたのそばで見守ってあげる。母として、立派に育ってくれたあなたが…誇らしく、大事な大事な宝物よ」


 そういうと、母の姿は見る見るうちに消えていった。




-----------私の後を追わないで。あなたが生きていることが、私達にとっては大事な事なのだから。



 消えゆく間際に、そう母と…父の声が重なって聞こえたような気がした。




…幸いというか、私はサキュバスの特性をほとんど受け継いでいなかったようで、母ほど不自由な特性に悩まされることはなかったようである。


 ただ、人としての時間は持たなかったようで、ある程度まで成長してから…いつしか体の時が止まっていた。


 母を失った悲しみは大きかったが、私は後を追わずに生き続けた。


 魔法の研究にのめり込み、時たま国からの要請もあって適度に受けたり断ったり…



…でも、なぜだろうか。不思議とこの世界では誰とも一緒になろうと気は起きなかった。


 まるで、忘れられないような想いが魂に刻まれているかのように………

真ん中の師匠でいろいろ悲しみを和らげています。

その師匠については…またどこかで出るかなぁ?

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