#45
果たしてどうなったのやら・・・・
SIDE火炎龍
カグヤたちがその存在に気が付く数分前、その者・・・・火炎龍は初めてまともに人間たちを上空から見ていた。
(・・・・なんだ、長が口うるさく言ってはいたが、こうしてみると力のないような矮小の存在ではないか)
まだ自分の姿に気が付いていない人間たちを見て、その鈍さに火炎龍はニヤリと口角を上げた。
ここで自身の存在をはっきりと示し、長の言う・・・人間は恐ろしいという発言を撤回させるようなことにしてやろうかと思いついたのである。
まだ自分が年若いと自覚しているとはいえ、その強さは他の火炎龍たちが注目するほどであると自負していた。
そして、ここで一度脅してみようかと嗜虐心が湧いたので・・・・少々雄たけびを上げてみる。
《グギャォォォォォォォォォォォォォォォォォゥ!!》
軽い威嚇のような叫びだというのに、その声を聴いて慌てふためき、中には気絶したりする人間たちを見て、その火炎龍は気分をよくする。
『やはり人間は恐れるような存在ではない』
『軽い咆哮を上げただけでも音を上げるような矮小な存在である』
そう感じ取れて、長の言葉はただの弱い奴が言う物だと思った。
そして、さらに自身の強さの誇示と、人間より絶対強いのだという自慢を込めて景気づけにブレスを吐こうかとその火炎龍は考えた。
高度を下げて、その町中の適当な建物にその火炎龍は狙いを定める。
人間がそこそこ密集していそうな場所であり、その近くにある別の建物も候補であったが・・・・こっちのほうが面白そうだ。
息を吸い込み、この際徹底的にという事で最高火力でのブレスを見せつけてやろうと、外さないようによーく狙って・・・・
《グガァァォォォォォォォォォォォォォ!!》
己の口から解き放たれた超高温の火柱がその建物に直撃し、爆発で煙が吹きあがった。
(あーはっはっはっはっは!!やっぱり大したことなんて・・・・・・ん?)
高揚感で笑い声をあげようとしたところで、火炎龍はふと気が付いた。
自身の先ほどの攻撃・・・・それであの程度の爆発しか起きないのかと。
もっとものすごい爆発になるかと思ったのだが・・・・・・・その答えは、煙がはれてはっきりと見て取れた。
《ぐぉぁっ!?》
直撃したはずの場所・・・・・煙がはれてみれば、何やら巨大な魔法陣なようなものが展開しており、建物には傷一つ入っていなかった。
そして、その魔法陣の力の出どころを見てみれば・・・・そこには、火炎龍であるはずの彼でさえも、美しいと一瞬思えるような妖艶さをたたえた存在がいたのであった。
そしてその背後には何人かの少年少女がいたが、そこで火炎龍は初めて気が付いた。
その少年少女の中にいるたった一人の少年。
けれども、その人物だけは・・・・・野生の勘が告げてきた。『絶対に敵に回してはいけない人物ではないか・・・・』と。
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SIDEカグヤ
「・・・・・あれ?」
「ん?」
「およ?」
「へ?」
先ほどいきなり飛んできたドラゴンのブレスにカグヤたちは飲みこまれたと思っていたが・・・・全くの無傷であった。
物凄い爆発音などがしたにもかかわらず、その熱風や衝撃が全く飛んでこなかったのである。
ブレスが飛んできた方を見れば・・・・・そこには、魔女の姿でいるアンナが何かの魔法を展開して、防いでいたようであった。
『「衝撃反転防壁」・・・・とっさにでしたので細かい調整ができませんでしたが、何とか一発分程度なら完全に防げたようです』
ふぅっと汗を拭くアンナ。
それと同時に、何やら空中に出来ていた巨大な魔法陣が消失した。
「今のは・・・」
『あの火炎龍のブレス攻撃ですね』
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「火炎龍」
この世界にいるモンスターの中で別格の存在であるドラゴンの中でも、炎に適応したドラゴン。
普段は人が立ち寄らないような活火山の火口に群れで住んでおり、人と関わりを持つことはほとんどない。
過去にシグマ家の者で大討伐した者が居るらしく、「暴れてうるさかったから」という理由だけであっけなく片付けられたらしい。
そのため、当時大量にとれたドラゴンの鱗やら皮が一時的に貴族の間で流行ったが、現在はそう簡単に倒せるものは例外を除いてほとんどいないため、滅多に流通する物ではなくなってしまった。
全滅を当時のシグマ家の者がさせなかったのは、流石にそこまでやるほどでもなく「いつでもこんな討伐ができるから人から離れておとなしく生きていやがれ」という意味が込められているらしいと、シグマ家の記録に残っている。
口が相当悪かったそうだが、ツンデレとかいう類に入っていたらしい。
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(・・・・最後の文いらんだろ)
そうカグヤはツッコミを心の中でいれた。
「いやいやいや!!あのドラゴンの攻撃を無効化ってどんだけだよ!」
ベスタがアンナに質問を投げかけた。
まあその気持ちはカグヤでもわかる。
熱量や衝撃も相当なもののはずなのに、それが全く伝わらなかったのだからどれだけ優れた防御魔法尚可がよく理解できるのだ。
流石別の世界での大魔法使いを伊達に名乗っては・・・・・
『・・・・まぁ、今の防御魔法ってあの攻撃のちょうど半分だけを受け取ってから、ぴったり反射して打ち消すだけなんですけどね。要は自分で自分の攻撃を打ち消させるだけで、完全に防ぐわけじゃないし、物理攻撃にはまったく対応できていないんですけどね』
欠点もあるようだけど、今の一撃を防げたのは大きい。
見れば、防がれたことに驚愕しているのかだいぶ高度を下げて飛行している火炎龍の顔が引きつっているようであった。
《グオゴォォォォァァァァッツ!!》
「って、今度は炎を纏っての体当たり!?」
ブレスが効かなかったからか、今度は物理攻撃で自ら体当たりしてきた。
しかも、ただの体当たりだけでも相当なものになるだろうに、そこに自身の体に炎を纏っての火だるまでの突進である。
「流石にあれはまずくないか!?」
「炎を纏っている分、飛び散る火の粉で広範囲に来るわ!!」
物凄い勢いで来るので、避ける暇はない。
「火と来たら・・・水か!!『泡大砲』!!」
とっさにカグヤが思いついたのは水魔法。
物凄い量と勢いで泡が噴き出し、火炎龍へ向かっていく。
本来は火災現場に使用される消火用の魔法らしいが、加減抜きの全力なので本来以上の破壊力を持っているように思われる。
運が良ければなんとか消火、ついでに衝撃緩和ができるならよかったが・・・・・
ボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ!!
《グァッツ!?グボガゴボバァァァァァァ!!》
威力が高まり過ぎたせいで、消火どころかものすごい勢いで押し返し、火炎龍を大量の泡が飲みこんでいく。
「・・・ありゃ?」
『あー・・・これ完全に溺れてますね』
予想外すぎて、全員なんと反応すればいいのかわからない。
そのままどんどん大量の泡が押し寄せて、完全に火炎龍の全身を沈めさせて、そのまま地面に大量に貯まりだして・・・
『って、カグヤ様ストップストップ!!これ私たちも巻き添えになりますよ!!』
「げっ!?」
一か所にとどまり切らない泡があふれて、危うく学校まで飲み込みかけたので魔法をカグヤは止めた。
泡の勢いが止まり、火炎龍はその中に埋もれていったのであった・・・・・・・
【悲報】
火炎龍がまさかの大量の泡に溺れる。
本当は普通の鉄砲水の様な感じで迎撃したかったのだが、とっさに出たのが消火用の魔法だったがゆえに起きた悲劇であった。
なお、人体に無害な安全性の確認がされている魔法です。飲み込んだとしても大丈夫でしょう。




