サイドストーリー:アンナ・レビュラート 外伝・前夜譚
とある読者の方が下さったアイディアを元に、少々改良を加えたお話です。
・・・いや結構変わっているのかな?
一応許可を得ていますけど、投稿してくださった方どうもすいません。
【ある一人の冒険者の話】
・・・ある国に一人の冒険者がいた。
彼の名前は『アルス・レビュラート』。その世界の冒険者たちの間では知らない者はいないという有名人でもあり、そして孤独な者としても知られていた。
なぜ彼は孤独だったのか?
単純な話だ・・・・・・アルスは個としての強さが他者よりも圧倒的に隔絶していたためである。
ある時は、挑んだものすべてが喰らわれた火口に住まうドラゴンを、彼はたった一人で挑み、首をねじ切って討伐した。
またある時は、数多くの船を沈めた海の怪物クラーケンを、彼はたった一人で釣りあげていかめしにして討伐した。
そしてまたある時は、邪神とも言われた者に対して、自身の獲物を取られたことに対して怒り、神殺しを成し遂げた。
最初、人々は自分たちがこれまであきらめていた相手を、アルスが次々と倒していったことに対して喜んだ。
しかし、次第にその強さに危惧する者や、己の欲望のために利用戦と企む者が増え、彼の周りには彼の事を真に理解してくれるような人がいなくなっていた。
彼はただ、自分の力を皆のために役立つのならと思って行使しただけなのに。
強すぎる力というモノは、人を惹きつけ、そして欲望に狂わせてしまう事もあるのだ。
そうアルスは理解して、自身の安息の血を求めて旅をするようになった。
時折、彼を狙う者たちが追いかけてきたことがあったが・・・・彼にかなう者はおらず、そのうちいなくなった。
そして彼は孤独になった。
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【闇夜の女】
私はなぜ存在しているのだろうか。
この世に生を受けたときから、彼女はその疑問を持っていた。
彼女の名前は『リリス・マリアドール』。様々な国の争いの元になったとも言われ、また傾国の美女とも言われたが、その正体はサキュバス・・・・それも、なぜか彼女は特に力の強い個体であった。
闇夜に紛れ込むような漆黒の下着と見まがうような扇情的な衣服をまとい、それでいてそのサキュバスの性質とは異なるような性格をしていた。
彼女の美しさに誰もが魅了され、彼女と一夜を共にしたいと願う人は大勢いた。
リリスは自身の持つサキュバスとしての本能にあらがえず、求められた相手と一夜を主にし、そして次々とその生命力を奪い取っていった。
そのうち、彼女を討伐しようとする者たちが出てきたが、リリスはその者たちを自身の手腕で撃退、もしくは生命力を吸収し、生きながらえた。
何もかも自身の存在のための糧として、すべてを失っていく喪失感を彼女は味わった。
けれども、何度も何度も何度も離れようとしても「孤独」というものは彼女のそばについて離れなかった。
その孤独にリリスは抗うのだが、結局最後には相手を失い、そして又孤独と共にいることになった。
けれども、彼女はそんな人を失うようなことはしたくなかった。
愛されたかった、もしくは誰かと共にずっと居たかった。
けれども、自身のサキュバスとしての性質上、どうしても一夜を共にすると相手は全てを吸い取られて死んでしまう。
そうだ、自分がいるせいで人を失うのであれば、もう誰もいない場所へ行こう。
自分を見つけられないような深い森の中にでも住まい、そしてそこで生命力を得ることができなくなって、静かに孤独につぶされてこの命を終わらせよう。
そうリリスは考え、人々が決して訪れないような森の奥深くへと入っていった。
けれども彼女は知らなかった。
その森に人が訪れないのは、もっと恐ろしいような存在がいたからに他ならないと。
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【そして「孤独」な者同士は会合する】
深い深い森の中、一人の女性が歩いていた。
誰もが訪れないようなこの森で、彼女は誰にも知られずに朽ち果てようと思っていた。
・・・・けれども、そんな思いがあっても体は生きたいと思っていたのだろうか。
森の最深部で、彼女はあるモンスターに襲われた。
そして、その恐怖感で生命を投げ出そうとしていたはずの彼女は直ぐにその命が惜しくなり、逃げた。
あれほどこの世から消え去りたかったのになぜだろうか。
その疑問を思ったが、彼女はその瞬間根に躓いて足をくじいて逃げられなくなった。
目の前に迫るモンスターの大きな口。
今まさに、喰らわれようとされ、彼女は知らずのうちに「助けて」と言葉を発した時であった。
何処からともなく一人の男性が現れ、そのモンスターをすぐにうち滅ぼした。
「・・・・・なぜ、私を助けたのですか」
彼女は自然とその言葉を発していた。
「なぜ・・・と言われても、助けを求めるような声が聞こえたというそれだけの理由だ」
そう返答されては彼女は何も言えなかった。
自身の死を望んでいたはずなのに、モンスターに襲われる際に、間違いなく生を望んでいたのだから。
その目の前にいた彼もまた、なぜ自分は助けたのかが疑問に思った。
「助けて」
ただその一言で動いてしまったとはいえ、これまでに何度も聞き、そしてそのたびに裏切られもした言葉だ。
けれども、目の前にいる女性の声を彼は見捨てることができず、体が自然と動いてしまったのだ。
彼らは互に沈黙をした後、話を切り出そうとして同時に話し、数度繰り返した果てにようやく互いの身の上話をすることになった。
見ず知らずの赤の他人のはずなのに、なぜか互いに心が許せ、そして惹かれていた。
そしてその夜、互いの本能に彼らは逆らえなかった。
その時が来た瞬間、彼女は拒もうとした。
いわく、自身と一夜を共にすると、必ず死に絶える。
もう自分は誰の生命力も取りたくないし、人と交わりたくはないはずだった。
・・・・けれども、それでもいいなら交わってもいいかもしれないと。
彼はその言葉を聞き、そして笑ってこう答えた。
「大丈夫だろう。自信が強すぎた故に孤独になった男だ。どんなことだろうとも、乗り越えて見せる」と。
彼らはその晩結ばれ、翌日互いに無事に生きていた。
彼らはそこで気がついた。
目の前にいる一夜を共にした相手こそが、自分がさいなまれてきた孤独を癒し、そして結ばれるべき相手だと。
強さゆえに拒まれた男は、その強さに拒まれない相手を手にした。
己の性質故に大勢を息絶えさせた女は、その性質に打ち勝つ相手を手にした。
互いが補い合い、足りないところが無くなり、ようやく彼らは孤独という檻から抜け出せた。
さらにそこに住み着き、彼らはその孤独からさらに離れるかのように子供を授かった。
母の美しさと父の強さを受け継ぎ、彼らにとって最も大切な命であり、家族である。
孤独だった男と女は、最期には幸せを互いに得た。
こうして、後に大魔法使いと言われるアンナ・レビュラートは、その両親に育てられていくのであった・・・・・・・
次回は本編ですけど、なんかこっちメインでも面白そうな気がしてきた。




