#27
前回の続きです
SIDEカグヤ
一人の教師人生を狂わせたかもしれない罪悪感がありながらも、其の日の夕方カグヤたちは書きかけの魔法陣がある屋上に潜んでいた。
あのいけない扉を開いてしまったブーテンダー先生は何者かに精神系の魔法で操られていた。
それはつまり、操った者が居るという事で、この魔法陣を書かせた人物と同一な可能性が高いのである。
単独犯であればの話で、もしかしたらまだ他に共犯者もいるのかもしれないが・・・・・
「ところでアンナ、あの先生どうしようか・・・」
『後で何か魔法でどうにかしておきましょうかね?先ほど見たときには全裸で街中を疾走して、その悲鳴を気持ちがいいように見えるすんごい変態と化していましたが・・・』
どうしよう、もう社会的に一人殺しちゃったよ。治った・・・というか、そのいけない扉とやらを閉じても社会的な死は絶対に生き返ることができないであろう。
・・・・気絶させるだけとか、他の魔法でどうにかできたかもしれないけどね。後悔後先に立たず。
と、隠れていると屋上に何者かの影が見えたので、慌てて声と気配をひそめた。
(あれは・・)
見れば、この学校内の生徒らしき人物だけど、夕暮れとはいえまだ明るいからその顔は見える。
ちょっと髪形がまだ若いのにバーコードのような感じで、ニキビだらけというか・・・・どんだけ不健康なんだ?
(あれが誰かわかるかアンナ?)
『カグヤ様、人の名前と顔は覚えておくものですよ。・・・あれって確か他のクラスのブッチーッラ・フォン・ベストです。貴族家の次男坊で、長男は優秀と言われていますね』
(「長男は」ってことは・・・)
なんかすんごい予想がついたのだが・・・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
SIDEブッチーッラ・フォン・ベスト
(くそぅ、なんだってあの教師が全裸で街中を疾走し、叫びにやけながらの光景を見せられるんだ!!)
ブッチーッラ・フォン・ベストは、心の中でそう思わず叫んだ。
・・・なぜ、彼がこの場にいるのか。
それは、この魔法陣を書くようにブーテンダー先生を操った実行犯は彼だったからである。
ブッチーッラには優秀な兄がいた。
その兄が優秀すぎる故に、ブッチーッラはいちいち比較されて、彼のここはひがんでいた。
いや、彼自身もそこまで優秀でもなく、ひがんで当然と言っていいほどの低能だったのもある。
だが、ブッチーッラは自身を優秀な素晴らしい人物だと、貴族故にすごい人物だと傲慢の様な誇りを持っていたため、常に兄をどうにかして亡き者にして、自身を後釜に据えようと、齢10にして兄の殺害をもくろんだのである。
だが、たかが無能な(本人は有能だと思い込んでいる)男に何が出来ようか。
すぐさま殺そうにも、現行犯で見つかればダメだし、彼自身自身の手で下すよりも、誰かの手によって兄がダメになる姿を見たいと思っていた。
そんな中、ある日彼はとある商人から一冊の本を譲り受けた。
いや、偶然と言ってもいい。その商人と出会ったのは、彼が実家にいたときに偶々行き倒れていた青年を見て、わずかにあった良心から、近くで食べ物を売っていたのでそれを買い与えてやっただけである。
そしたらその青年はとある商人らしく、お礼に品物の本を一冊ブッチーッラにお礼として譲り渡した。
最初はただのボロボロの汚らしい本はいらんとブッチーッラは跳ねのけた。
だが、青年が説明を丁寧に彼にもわかりやすくして、その本が何かとてつもなくすごいものを呼び出せるという事を彼らは理解したのである。
けれども、この本に書かれているそのすごいものとやらを呼び出すと、その呼び出すための魔法陣を書いていた人物が生贄になるとも記されていたのである。
そこで、彼は万年窓際族の様なパッとしないブーテンダー先生に、その本に書かれていた禁術ともされていた洗脳の魔法を、バレない様にそっとかけてかけたのであった。
幸いというか、最悪とも言うか、彼に魔法が扱える才能が有ったのでかけることには成功したのだ。
この屋上は休日人が来ることもなく、ならばその時に書くようにと丁寧に設定したのである。
だが、書き終わるまでに時間がかかりそうだったので、それまで彼は街中を目的もなくうろつくことにした。
しかし、予想外すぎることに、もうそろそろ魔法陣を半分以上は書き終えているのかなと思って学校へ向かおうとした矢先に、全裸で街中を駆け抜けるブーテンダー先生を見たのである。
最悪なことに、その進行方向に彼がいて、身長がやや低めな上に、ブーテンダー先生がややかがんで低くして疾走していた物だから、その股間の位置がちょうど彼の頭と重なって・・・・・さすがにものすごくいやな感触と光景を思い出し、ブッチーッラは吐きたくなった。
しかも、ブーテンダー先生はその最悪な接触があったにもかかわらずぴんぴんして、むしろ余計に何やら気持ち悪いほど恍惚とした表情になって駆けだしてその場を去ったのであった。
なんにせよ、ここにいるという事は魔法陣を書くのを放棄した可能性があり、彼は慌てて全力疾走でここまで来たのだ。
・・・・だが、歩いたほうが早かった事実に、本人は気がつくこともなかった。
とにもかくにも、ブッチーッラの予想通り魔法陣は書きかけで、あと少しで完成というところなのがわかある。
しかも、最悪なことにその魔法陣の書き方があった本がその場になく、これ以上は描けないのである。
しかし、ここであきらめるようなブッチーッラではなかった。
人がダメなら動物に書かせるのはどうかと彼は閃いたのである。
肝心の魔法陣はもう少しで完成しそうなので、後は自身の想像力で仕上げるだけに近いだろう。
そのため、一旦その考えを実行するために屋上から出ていこうとしたところを・・・・
「はい、容疑者確保の『麻痺』&『ショックボルト』!!」
「なにっつ!?ぷぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
何者かの声が聞こえたのでその方向を向こうとしたところ、いきなり身体が痺れた上に、さらに何か追い打ちをかけられ、ブッチーッラは気絶したのであった・・・・・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
SIDEカグヤ
隙だらけだったし、疑わしかったのでカグヤはアンナに頼んで捕獲で着やすそうな魔法を表示してもらい、それを利用して容疑者であろうブッチーッラを取り押さえた。
「というか、状況証拠から言えば確実に犯人だよな」
『いきなり先制攻撃の奇襲とは・・・・・まあ卑怯臭いですけど別にいいですかね』
やや呆れた声をアンナが挙げたが、カグヤは気にしない。
面倒事であるならば速攻でつぶしてしまえばいい話だからである。
それに、どう考えても長男へのコンプレックスゆえの起こした犯行だとしか思えなかった。
・・・・というか、この魔法があるならブーテンダー先生の時に使えばよかったのかもしれない。
気絶させてから、この容疑者に洗脳の様な魔法を解かさせてとかすればあのような事にはならなかったのではなかろうと。
「自白用の魔法とかってあるか?」
『あるにはありますけど、ここで吐かせても意味がありませんね。こんな輩でも一応貴族家の次男ですし、下手に動かすと面倒な奴になるでしょう。ですから、ここはここをこうして・・・・・』
カグヤの仕業だと気がつかれぬように、アンナはとある手ほどきの仕方を表示し、カグヤに教えたのであった。
・・・・・・休日明け。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「なによこれぇぇぇ!!」
学校に入ろうとした女子生徒たちの悲鳴が、学校の正面玄関からした。
何事かと思ってその場にいた者たちが見てみれば、そこには素っ裸になってなぜかベラベラ自身がやらかしてきたことの自白をするブッチーッラの姿があった。
そう、自分からすべての事をベラベラ言わせるならば、大衆の面前で吐かせてしまえと言う方法をカグヤたちはとったのである。
ちなみに、とっ捕まえた際に声だけしか聞こえていなくて、姿を見せていなかったので誰が犯人化はすぐにわからないだろう。
・・・ブッチーッラは一応貴族の次男という事もあり、すぐにこの事件に対しての調査が行われた。
ただ、かけられていた魔法は全てを自白するタイプのモノで、出まかせなどを言わないようなものであり、正直に話していただけだと調査に携わった魔法を使う者たちは見抜いた。
そのうえ、色々他にもやらかそうとしていた計画などもきれいに自白していたので同情の余地もなく、また教師の洗脳もその歳でやっていたことからも考慮されて、数日後ブッチーッラは実家から勘当されて貴族籍から平民の身分へ落ちた。
そのことが耐えられなかったのか、学校からも去って数日後、元実家の領地の農村に彼が汗水を流して働いている姿があったとかなかったとか。
・・・・ついでに、ブーテンダー先生のことだが、彼は行方不明となった。
裸で恍惚の笑みを浮かべながら全力疾走をする中年オヤジはトラウマになった人が多かったらしく、そのうち「恐怖の素っ裸男」として都市伝説に残ったのだとか。
行方不明になったのは、さらなる快感を得るためだと言われているらしい・・・・・・・
・・ブーテンダー先生、その後どうなったかは現在行方不明。
変態全裸疾走中年男性の行方は、都市伝説になるほどだったとはどれだけの恐怖を与えたのだろうか。
そう考えると、悪魔召喚された方が良かったような気がするのだが・・・・どうなのだろうか?
精神面から言えば悪魔の方がましか?




