#139
久し振りの登場です。
‥‥‥本当に何時から姿を消していたんだろうか。
「‥‥‥久しぶりに会ったけど、ずいぶんやつれてないかお前?」
「あはは‥‥‥こちとら世間の荒波にもまれたからな」
久しぶりに会った友人ベスタの、そのやつれ具合に、カグヤは驚きつつ、ベスタは苦笑いを浮かべた。
現在、カグヤは自宅の応接間にて学生時代の友人であるベスタを招き入れていた。
卒業後、彼は地元の方でどこかの商会で就職したそうである。
とはいっても、商人とかではなく物資の輸送の際の専用護衛としてだ。
‥‥‥お世辞にも商才はないとはいえ、そこそこの強さはあったベスタ。
盗賊とかならなんとか追い返せるほどであり、実力は一応あるのだ。
そこを買われて、商売の際の商品の安全のために、雇われていたそうである。
だがしかし、なんとその雇っていた商会がつい最近潰れ、雇われていたベスタも無職になってしまったそうである。
新たな職を求めて東奔西走したそうだが、何処へ行っても断られ続け、最後のチャンスとして、カグヤのところに雇ってくれるように手紙を出してきたのであった。
「でもまぁ、護衛商売とかそれ以外にも、一応どこかの店にアルバイトするとか、もしくは職人とかの弟子入りするとか手段はあったんじゃないか?」
そのほかの手段を提案するカグヤ。
「その手段も考えたんだよ。でもなぁ…‥実は、そううまいこと行かなかったんだ。いや、行かないというよりもとばっちりの邪魔を食らっているというか‥‥‥」
「はぁ?」
どういうわけなのか、ベスタは話し始めた。
ベスタが雇ってもらっていた今は無き商会。その商会で、ちょっとした面倒ごとに巻き込まれたようなものだというのだ。
なんでも、別の商会と張り合っていたそうだが、ある時その商会のお偉いさんと、その張り合っていた相手のお偉いさんのそれぞれの子供同士が恋仲になったそうである。
それをきっかけに、張り合っていた間柄を友好的なものにしようと、それぞれにこやかに交際を了承したそうである。
互いの商会のお偉いさんの子供同士が結ばれることによって、婚姻関係による友好関係の建築をそれぞれ喜ばしいことに思っていたんだそうだ。
だがしかし、何処の世界にも空気が読めないというか、常識を知らないような輩がいる。
なんと、互いの商会の全く別のお偉いさんの子供と親が、その交際していた二人を、それぞれ惚れこんだそうで無理やり奪い合い、台無しにしてしまったそうなのだ。
「何じゃそりゃ?」
「俺が務めていたデーイル商会のトップの娘と、相手側のブルータス商会のトップの息子。その二人が愛し合い、婚約関係に発展しようとしたところで、それぞれの商会‥‥‥こちら側の上の息子のジョパーンという大馬鹿野郎と、相手側の上の人でナンバー2の権力者であったらしいアーケイチという馬鹿が、それぞれ娘と息子を欲しがっていろいろやらかしたらしい。と言うか、アーケイチって男だぞ?男が男を欲しがったんだぞ?」
「‥‥‥それはなんというか、色々ツッコミを入れたいな」
男色家と言うのだっけか?そういうのはどこの世界にでもいるのかよ。
「でだ、その台無しされまくった挙句に、せっかく互いの商会で惚れ合っていた二人は、それぞれ苦にしてどこかへ一緒に駆け落ちして、行方知れずになっちまったんだ。その後がまた大変で‥‥‥」
互いの商会の友好関係を深めようとしたのに、それぞれのトップに近い者同士の欲望のせいで見事に台無しにされたわけである。
そう言う事で、互いにその元凶を潰そうとしたのだが、相手のアーケイチとかいうのはどこをどうしたのか、元凶の一人だったせいなのに、ブルータス商会のトップが突然失踪し、そのアーケイチがトップになり、そして一方的にデーイル商会を攻め立て、最終的には廃業に追い込んだそうである。
「いろいろと欲望や陰謀の渦に、俺は巻き込まれて無職となったわけよ‥‥‥。しかもな、元デーイル商会の従業員たちの再就職を邪魔してくるんだよ!!どこかで就職されて、そこから反撃されるのを恐れてらしいというからマジでふざけんな!!だから頼むカグヤ!!なんでもいいからせめてここで俺に何か職をくれ!!そうでないとうちの両親がやばい人とお見合いさせに来るんだよおぉぉぉぉ!!」
怒りの声を上げてすぐに、悲痛な鳴き声を上げ、懇願するベスタ。
要は、元従業員たちの反撃が怖いブルータス商会は、そのデーイル商会で務めていた人たちの就職をあの手この手で妨害しているそうである。
「‥‥‥まぁ、なんでもいいと言うなら、付けそうな職はあるかな。幸いと言うか、今うちの領地発展しているがゆえに人手が足りないところもあるわけだし‥‥‥」
ベスタの言葉を聞き、一応その言葉に偽りがないかカグヤは確かめる。
「本当に、この俺の下の方で就職したいんだな?」
「なんでもいいから就職したい。そうじゃないと、うちの両親が本当にもうやってはいけないような人と見合いを進めてくるんだよ」
本気で必死そうなベスタの目を見て、その心は確かであるとカグヤは感じた。
‥‥‥その、物凄く嫌がっているお見合いの相手とかも気になるが。
「じゃ、採用ってことで。なんでもいいとお前は言ったよな?」
「ああ‥‥‥って、なんか軽くないか?」
あっさりと受け入れたカグヤに、ベスタは何処か拍子抜けしたようだ。
ま、理由はあるんだよね。
「フローリア!」
【はいはい、其の話を聞いていましたよ】
カグヤが呼ぶと、何処からともなく精霊フローリアが現れた。
「と言うわけでだ、こいつをお前の方で面倒見て欲しい」
【ええ、我の諜報部隊の一員としては、少々地獄コホン、訓練をしなければ難しいところがありそうですが、カグヤの友人となると、一応まぁ伸びしろはありそうですし、なんとかなるでしょう】
「え‥‥‥?」
どことなく、不穏な空気を感じ取ったようで顔を引きつらせるベスタ。
「まぁ、ベスタ。お前さっき『なんでもいい』ともう言質とられたよな?こっちの諜報部隊にくれば、その商会への仕返しもある程度はしてやるし、週休二日、有給有りのボーナスも有りの、普段の訓練以外はアットホームな職場だ」
「いますっごい不安になるような説明なかったか!?」
「とにもかくにも、がんばれよ」
【鍛えるのは我ですが‥‥‥ま、いいでしょう。それではベスタさん、どうぞ諜報部隊へ!】
「え、ちょっつ!?うわっつ力意外と強っつ!?」
そのまま引きずられていくベスタ。
友のその姿を見て、とりあえず応援を心からしておくカグヤであった。
「‥‥‥にしても、そういう商会の争いごとがあったという事は、こちらに飛んでくる可能性もあるな」
元デーイル商会の従業員を狙い、邪魔をしているらしいブルータス商会。
‥‥‥今、カグヤの領地は発展しており、様々な商会が目を付ける場所でもある。
その中に紛れ込んでいてもおかしくはなく、話を聞く限り他にも何かがありそうだとカグヤは思う。
その為、諜報舞台を差し向ける指示を出しておくのであった‥‥‥
なお、3日後辺りでベスタはやつれが治り、健康体となったようだが、目が少し死んでいた。
「‥‥‥何があった?」
「ああカグヤ、お前の職場は最高だったよ。ああ、なんて日々の飯がうまくて、毎日がこうも健康に過ごせるのが幸せだと理解させてくれるのだろうか…‥‥」
「‥‥‥フローリア、お前ベスタに、いや諜報部隊で何をやっているんだ?」
【ん?ああベスタさんはとりあえず実力をつけてもらうために、通常訓練とは違う短期集中コースを行ってもらっているんですよ。少なくとも、これを乗り越えれば深夜こっそり暗殺も、そして適当に5人組ませて戦隊物にして各地へ悪を討伐させに逝くこともできますね】
「言葉がどこかおかしいんだけど。そして諜報部隊をお前はどうしたいんだよ…‥‥」
フローリアのその言葉に、カグヤは少し諜報部隊の実情を知らせるようにしたのであった。
下手すると全員人外レベルにされるかもしれない‥‥いや、もう遅いか?
領地に手を出されないように調べるカグヤ。
そんな中、ベスタに絡んでいた商会の方でも動きがあるようである。
果たして、友のために動くのだろうか?
次回に続く!!
【ついでに、ベスタさんのは短期集中コースで、他の方々は通常訓練ですが、一定期間免除もしているんですよ】
「と言うとあれか、年に数回のテストをするなどして、そこで優秀な成績であれば免除を続けたり、したり、良好でなければ訓練がまたある感じか」
【ええ、その通りです。月1度のテスト(抜き打ち)で大丈夫であれば、訓練を免除したりして、負担を減らしているんです。でも、逆にダメダメであれば‥‥‥まぁ、少しサンバの川とかいうのを渡ってもらう位の再訓練を施すのです】
「三途の川の間違いじゃ…‥いやまて!?それ逝っているよね!?」




