#136
本日2話目!!
悩んでいるときに、なにかこう、ズバッと決められるような道具が欲しいと思う今日この頃である。
SIDEカグヤ
‥‥‥結局、ニューデストロイ帝国はたった2ヶ月ほどであっけなく崩壊した。
この世界の歴史上、3番目に早い国の崩壊だそうだ。
「アンナ、3番目ってことは1番目はどれだけ速かったの?」
『えっとですね、記録上200年ちょっと前にあった国で、たった約1日で崩壊したそうですよ』
「早すぎないかそれ!?」
あまりにも早い過去の事を知りつつ、これからの事後処理は帝国に押し付けたカグヤであった。
あくまで、リースの命の無事のためにやったことであり、訓をカイザリア皇帝の手に取り戻させたのはそのついでのようなものであるからだ。
そして表向きにはグノーウを国家反逆罪で処刑したとして、その後に皇帝の座に舞い戻ったカイザリア皇帝は、帝国の元通りにするための復旧作業にかなり東奔西走したようである。
デストロイ帝国へ国名を元通りにし、いろいろやらかしていた貴族たちは投獄どころか犯罪奴隷として強制労働が課されたり、処刑されたりと忙しいことになったようである。
税率が無茶苦茶にされていたり、不当な扱いが起きていたりと好き放題にやらかされた後始末は大変そうであった。
しかも、ここで問題が起きたのが…‥‥後継者問題。
グノーウは見事に他の兄弟たちを処刑していたようで、次期皇帝の座が空席になってしまったのだ。
一応、カイザリア皇帝には娘の皇女とかもいたのだが、国に残っていたのは同様に処刑され、別の国へ嫁いでいた者はその国での後継者を産んではいたが、帝国の後継者に成れそうな者はいないそうである。
そして、残る血筋を考えると、カイザリアの弟の娘に当たるリースがいるが、彼女はカグヤの婚約者であり、継承権も放棄済みだ。
‥‥‥ここで不幸中の幸いと言うか、カイザリアの正妃や側室が生きていたことであろう。
どうやらグノーウは自分の血筋以外を消すのを目的に模していたようだが、カイザリアと契りを結んだその人たちには手を出していなかったようだ。
少し厳しいかもしれないが、新たな後継者を産んでもらう必要性があるだろう。
『一応、すぐにでも大丈夫なようにそれ用の薬を作りましょうか?』
「頼むアンナ殿!!絶対体がもたないだろうからぜひとも!!」
アンナの提案に、カイザリア皇帝は直ぐに食いつき、なんとか体は持ちそうだが‥‥‥
「アンナ、なんでそんな薬を作ろうと思ったわけ?」
『ああ、実験台コホン、作れる薬の幅を広げようと思っただけですよ』
今、絶対実験台って本音を漏らしたぞ。一国の皇帝を実験台扱いって良いのだろうか…‥‥まぁ、後に聞いた話だとむしろもっと薬をよこすようにと、最近皇帝は正妃や側室にねだられ、尻に敷かれ始めたようだけどね。どんだけの効力だよ‥‥‥
とにもかくにも、デストロイ帝国は何とか以前の状態に落ち着きそうである。
「あとは、卒業式を迎えて、爵位をもらっていくだけか‥‥‥はぁ、結局何でこんな他国の事に巻き込まれたのやら」
『カグヤ様の才能のせいですけど‥‥‥巻き込まれ不十分な気がして、ちょっと消化不良ですね』
「ま、平和になったならいいんだけどね。それに損ばかりじゃないし」
「‥‥‥そうだろうな。あの男がリースの命を狙ったのは気に食わないけど、能力だけなら惜しいし、死んだことにしたから、今後こき使ってやろうか」
ニヤリと笑みを浮かべたカグヤに、皆は苦笑しつつ、今の平和をきちんとかみしめて笑うのであった‥‥‥
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SIDE‥‥‥とある男の一人語り
「‥‥‥」
窓の外の風景を見て、私は積み重ねられた書類に再び向かった。
ここはゼルビス地方、デストロイ帝国の近くにある領地であり、もう少し立てばとある方がこの地方を治めるために来るのである。
その時のために、私はこの地方のすべてを掌握し、整備を進め、状態を把握して伝えるために仕事をしているのである。
その方が来たらお役御免とはならず、その仕事の手助けをさせられる本来の役目に戻る。
再び窓の外を見て、私は書類仕事をしながら思いにふけり始めた…‥‥
あの日、確実に滅びの道へと私はたどり着き、そこで命を散らすはずだった。
情報によると、私が暗殺を仕向けた者にいた、リースとか言う少女。
その者の婚約者が、どうやらとんでもない地雷だったようで、彼によって国は崩壊の道へ辿らされていったのである。
‥‥‥皇帝となった後、私は自然と無意識下で滅びを求め、そして刺激したようだ。
その結果、各貴族たちの中でもまともな人たちは被害がなく、そして私についてきた愚かな者たちには甚大な被害が出て、追い込まれたようであった。
そしてあの日、王城に乗り込まれて、私は笑ったよ。
近くで見れば、ただの街の無さそうな青年。
けれども、感じ取れるのはとんでもない素質を持った者、カグヤ・フォン・シグマ。
いや、彼は卒業後に爵位をもらってゼルビス地方へ行くのだから、ゼルビスが名につくのだったか。
とにもかくにも、彼の愛しい婚約者の命を狙った男として、おそらくその場で私は命を散らすだろうと覚悟を決めていたのだが‥‥‥‥どうも、私の様子を見て気が変わったらしい。
皇帝の座に執着はしてはいるものの、どこかうつろで、生きている価値が無いように思われる私の滅亡願望に、彼は気が付いたようだった。
私自身無意識下、いや、どこかで感じているからこそ、望んだ滅亡への道。
それを、カグヤと言う青年は見抜いたようである。
「‥‥‥なるほど、そう言う事か」
そう思わずつぶやいた彼の言葉には、意識においてなくても、私がやったことについて理解ができてしまったから同情するような気持が合ったように感じ取れた。
‥‥‥もし、私があのまま皇帝の座を無理やり簒奪しなければ、隠れていた帝国の不穏分子はそのままで、いつの日にか爆発し、牙をむいていたかもしれない可能性。
もし、私が兄弟たちを暗殺し、亡き者にしてしまわなければ、第2、第3の私のようなものが出たかもしれない可能性と、より悲惨な悲劇があったかもしれない可能性。
それらの可能性を無意識のうちに、私はどうやら考えていたようで、この私を筆頭にしてやらかすことで、私が皇帝の座から降りた後に、事後処理でそれらの事を払拭してより良い国へと向かわせることも、考えていたのかもしれない。
‥‥‥それに、私がそう考えていた可能性についての証拠となるのは、カイザリアとリースの完全な証拠も残さない暗殺を企てていなかったこともあるだろう。
父カイザリアを城内を制圧する前に暗殺し、密かに皇帝の座に私が就くこともできた。
リースに関しては、父の弟の娘ということで、皇位継承権も放棄していただろうし、そもそもあったのかもわからないので放っておくこともできたはずである。
その事をしなかったのは…‥‥私の心にあった、国のためにと言う心が、そうさせたのだろう。
そして、己を滅亡にいかせ、犠牲としようと考えていたのかもしれない。
すべては推測、この私自身ですらも、良く把握できていなかった自分。
そんな私を、カグヤと言う青年は見抜いたようだ。
そして現在、その能力を惜しまれて私はカグヤ殿の配下の者として、第2の人生を歩む選択肢を選ばされた。
顔も身体つきもすべて、シグマ家からの医者だとか魔女の薬だとかによって変えられ…‥‥ああ、あの過程は色々ぐちゃぁだのとやばかったが、グノーウは死んだことにされ、私は今、ジョハンヌという人物になって、カグヤ殿に仕える身となった。
未だにリース様への暗殺を許されていない故に、永久的な無報酬の頭脳労働をさせられることになったが、そのことに関しては文句はないだろう。
いや、もしかしたら私が生きてカグヤ様に尽くさせること自体が、罰なのかもしれない。
けれども、それでもいいだろう。
私は皇帝となった後、人生に意味を見出せなくなり、死んだも同然だった。
だが、グノーウとしての私は死んで、新たにジョハンヌとして生きることによって、再び生きる意味を私は見出したのだ。
ああ、カグヤ様。私はあなたに忠誠を誓いましょう。生きる望みもなかったこの私に、新たな人生を与えてくれたことに感謝をし、そして貴方様が治める全てを繁栄させ、幸せを得られるようにこのジョハンヌは全力を尽くさせていただきます。
個の領地の経営もやりがいのありそうな仕事ですし、新たな人生の生きがいを本当に与えてくださり、ありがとうございます。
そうジョハンヌは思いながら、書類仕事を進ませ、そしてこの地方の可能性を見出し、将来的な発展のための努力を続けていくのであった。
‥‥‥かつて、ニューデストロイ帝国を創り出し、治め、そして滅びた皇帝グノーウ。
彼は公式では、国家反逆罪やその他もろもろの余罪によって処刑され、その一生を終えたとされている。
だがしかし、別説として彼は生まれ変わって、とある人物の下に仕え、忠誠を誓い、発展を手助けした忠臣になったともされている。領地経営にやりがいを持ち、時には助言や苦言を呈し、忠臣の例としてもあげられることがあったそうだ。
その真実は明らかにはされていないが、真実がどうであれ彼はどちらにせよ、人生を精いっぱい生きたことには変わりがないとされているのであった。
次回、ようやく卒業式である。はっきりって長かったというか、この話を挟む必要があったのか、考えた自分にツッコミを入れたくなった。
『惹きよせる才能』‥‥‥もしかしたら、これも今回働いていた可能性があるしなぁ。
なんにせよ、ようやくこの物語もだいぶ進んできたのである。
次回へ続く!!
‥‥‥ちなみに、ジョハンヌに施されたのは人には言えないレベルの施術や処方薬です。人を改造して別人に仕立て上げるのにシグマ家の技術力が試されました。なお、魔女の薬と言うのは体の造形が楽にできるように‥‥‥おっと、グロイ内容なのでカットです。