#134
#133に至るまでの過程かな?
SIDEカグヤ
……カイザリアの亡命の話の後、カグヤは動いた。
己の婚約者の一人であるリースの命にかかわることもであり、カイザリアは……まぁ、ついでである。
一応、ダースヘッド国王にやり過ぎないようにと言う制約はかけられたが……圧倒的武力で攻めるのも性に合わないので、そのあたりはカグヤはわきまえているつもりである。
暗殺者等の危険性を考え、出来るだけカグヤはリースの周囲に気を配るようにし、女湯とか男子禁制の場までは流石に踏み込めないので、婚約者とはいえ一応従者のような役割を持つサラや、アンナにそのあたりは護衛してもらうことにした。
リースとアンナの衝突回数も自然と増加したが、これは犬猿の仲のようなものなので仕方がない。
いや、二人とも互いに相手をどこかで認めているが、己とは合わない部分があるがゆえに、そこで衝突しているだけと言った方が正しいのだろう。
そして案の定、暗殺者のような不審人物たちがホイホイとやって来たのだが、すべて行動に移す前にフローリアが管轄下に置いた諜報部隊の手、もしくはカグヤ自身の手によってすべて捕え、しかるべきところに引き渡したり、その場で事情聴取などによって依頼者の名前などを聞き出し、情報や証拠を集めていく。
……中には、その手腕のもったいなさから逆にスカウトして、将来的にカグヤが貴族として屋敷に住む時にでも表向きは使用人、裏では秘密裏に動く諜報部隊の一員となってもらった。
シグマ家のやり方と同様だが、逆らう事の無いようにきちんとフローリアの方でいろいろと仕掛けているそうだ。精霊の目をごまかすのは相当難しそうだし、裏切られる可能性は低そうである。
まぁ、すぐに殺さずに認めた故か、絶対的忠誠を誓う者も出てきちゃったが……『惹きよせる才能』のせいだろうか?
確かこの才能は忠誠を誓う者を引き付けることが可能であったはずである。
そして、ニューデストロイ帝国とやらに余裕ができてきたころに情報を集めるように諜報部隊の幾人かを向かわせ、ついでにフローリアが自ら確認のためにも向かったようであった。
それから数日ほどで、物凄い山積みの情報が書かれた書類の山ができたのだが…‥‥出来れば、整理とか簡略もできるような人もいれようかと、徹夜で確認したカグヤはそう思った。
「情報を集めて分かったが‥‥‥グノーウってやつの目的がわかりにくいな」
『どういうことですか?』
まとめ直し、目を通しているカグヤのつぶやきに、お茶を持ってきたアンナは疑問を抱いた。
「自分の地位を保証するために、脅かすであろう継承権のある兄弟姉妹や、父親で元皇帝だった人を狙うのはわかる。リースも、その血筋を辿ればカイザリアの弟の娘であり、皇族の血を引いているから一応、継承権を望めばあるから狙うだろうしな。そうはさせないんだけど…‥‥違和感しかないんだよなぁ」
「違和感ってどこが?」
出来るだけ自衛のために、カグヤのそばにいたリースも尋ねる。
「税制度の改革、そして有能であったはずの貴族たちの蟄居命令や領地を外側に遠ざける配置換えをして、開戦派と言うか己の手駒にしているであろう貴族たちを近くに置いたりはしているけど、これじゃあ無茶苦茶なところもあるんだよ」
‥‥‥有能な人を追い出し、無能な人を置くという点がおかしいのだ。
一応、簒奪した皇帝の座とは言え、帝国のトップであるのは間違いない。
気に食わないから処分と言う可能性もあるけど、どんな馬鹿であろうとそんなことをすれば国の崩壊を招く可能性が分からないわけではないだろう。
そもそもこのグノーウ自身の頭が相当な馬鹿ではないのは、皇帝から座を奪うまで彼が本性を隠していたことや、学業での成績も悪くなく、そこそこ信頼も持っていたことからわかることである。
「手駒にして利用した馬鹿は、あとは使い捨ててポイっとしても良さそうなモノなのに、あえてグノーウは全部残して切り捨てない。頭が悪すぎるわけでもなく、本当に自然に…‥‥」
まるで、皇帝の座を手に入れるのが目的であり、それ以外に興味関心が無いようにカグヤは感じ取れた。
「もしかするとグノーウは、あくまで皇帝の座に執着していただけであって、なった以降の目標がないのかもしれないな‥‥‥」
隠していた本性をさらけ出し、自身の地位を確立させ、皇帝になるまでに至ったグノーウ。
だが皇帝になり、ニューデストロイ帝国と変えた以降は、特に暗殺者を仕向けてくる以外は目立った動きもないのだ。
皇帝の座の簒奪に情熱を注ぎ、それ以降は自分の地位を守るだけという事ははっきりと示してはいるが、まるで燃え尽きてしまったかのようにやる気が見られない。
【この状態であれば、ちょっと色々と細工をするだけで民の不満を高めたりして、あっという間に反乱を起こせますけど…‥‥むしろ、それを望んでいるかのようにも思えますね】
フローリアが姿を現し、カグヤが思おうとしたことを、口に出した。
「やりたいことをやって、あとは何も残っていない。血筋を自分だけにしようとする狂王のように見せているけど‥‥‥‥その本質は、何も残らない虚構の王ってか」
こんな人物に、リースが狙われているかと思うと怒りもあったが、その内情を考えると怒りを通り越してむしろ哀れみすらカグヤは感じ取れた。
「人生に生きがいを求め、その生きがいを自分の手で達成し、無くしてしまった哀れな王でもあるのかな…‥‥」
何はともあれ、これ以上放っておくとグノーウよりも、彼から支給される金や女で従っている周りの馬鹿共の方から暴走が始まるようなことは間違いないだろう。
そうなれば様々な悲劇等も起きるし、そのことは防がなければいけない。
とりあえず今は、愚かな事と言うかこちら側に迷惑をより被らされる前にさっさとこの帝国とやらを、静かに終わらせようかとカグヤは動くのであった。
「‥‥‥そういえば、以前湖であった怪物騒動もこの馬鹿たちの仕業でもあるんだよな…‥‥似たようなことが起きる前に、危険物を排除することができないか?」
【そのあたりはすでに手をうっていますので、ご安心を】
ふと思い出したこともあったが、フローリアはすでに対処しているらしい。
とにもかくにも、余計な事をされる前に叩き潰しておかないとな…‥‥
ある意味哀れな王グノーウの、その周りに群がる馬鹿共の暴走を阻止しようと動き出すカグヤ。
とはいえ、武力で押し通すのは性に合わない。
なので、カグヤなりに攻めていくのであった‥‥‥
次回に続く!!
【こぼれ話】
「そういえばグノーウが確認したとかいう噂話、その中に出てきた謎の人物の調査もしていたのか?」
【はい、ついでですのでやっておきました。それによるとその人物はブーテンダーと名乗る元教師なのだとか‥‥‥】
『‥‥‥あれ?なんかものすごく聞き覚えのあるような名前ですねカグヤ様』
「確かこの学校にもいたような…‥‥数年前に行方不明になった教員だったような?」
「『‥‥‥あ』」
そこで二人は思い出す。#26あたりでの事を。
そして、二人とも目をそらし、その事を闇へ葬り去ったのであった‥‥‥自分たちが、もしかしたら今回の原因となった可能性を流石に思いたくなかったからである。




