#133
別名『閑話:とある狂王』
なんか書いていたら、いつの間にかこうなっていた…‥‥どうしてなのだろうか?
SIDEグノーウ
……ニューデストロイ帝国を建国し、王城内でグノーウは考えていた。
校庭の座に着き、皇帝用の部屋といすを作らせてそこに座って考え込むのが、彼にとっての至福でもあり、そしてその生活を守るための戦力を練る場所でもあった。
「皇帝陛下!!次はどうすればいいのでしょうか?」
と、気が付けば彼の配下の者たちが、次はどうすればいのだろうかとグノーウに尋ねに来ていた。
「そうだな、まずは国民全員にとある税金をかけろ。その日に入る収入のわずか1%、それだけを毎日収めるようとな。でき無くなれば奴隷行きだとついでに通達しておけ」
「たった1%でしょうか?それはものすごく少ないような気もしますが……」
「ああ、そう思わせるのが目的だ」
わずか1%、されど1%。
たったそれだけなら安い物だと皆思うかもしれないが、「毎日」と言う部分がある。
そもそも収入だがその日にはいるわずかな収入だけでも、国民全員の人数を考えれば馬鹿にできない金額となる。
それに、ひと月が約30日、一年が12カ月だと仮定するのであれば、1×30×12=360%。つまり、一年経過したころにはその税を納める国民の収入の3.6倍ほどの金を得ることができるのである。
毎日たったそれだけと思わせておいてかつ、それでいてそれだけの金を得ることができるのは非常に大きい。
ただし、金や女で言うことを聞いている貴族たちに比べて国民の中には賢いものがいるだろう。
いや、比べるのも失礼な話しかとも、今は味方とはいえ、のこのこと自分に従う馬鹿共に思わずグノーウは失笑した。
血のつながりのある者たちを皆殺しにしようと企み、そして今も馬鹿な貴族たちを欲望を満たすことによって従わせるグノーウ自身も、自らを愚かなものとしても認識は一応していた。
ただ、堂々と自分の本性をさらけ出し、皇帝の座についている今この時が、もっとも幸せであるとも彼は考えていた。
自身のすべてをさらけ出すのが、最も至福である…‥そうグノーウが考えたのは、昔のとある出来事であった。
偶然、当時帝国内のあちこちを見回り、その内情を学んでいた彼はある噂を耳にした。
なんでも、夜な夜な裸で謎のおっさんが駆け抜けるという噂である。
そんな頭が湧いたようなやつはいないだろうとグノーウは笑い飛ばしたが、一応自分の目で確かめたのである。
……その結果、彼は自分の考えが間違いで、噂は本当だったのだと知った。
まだまだおの手は未熟であり、このまま皇帝の座に就くようなことができないだろうと、それまで自分が正しいと思っていた価値観を、崩壊させられたのである。
くだらないような理由、夜中を全速力で駆け抜け奇声を上げるおっさんを目の当たりにして、グノーウはそうショックを受けた。
ただ、彼はそのおっさんの姿を見てふと思った。
なぜ、あの変態人物はあんなにも笑顔であり、何かを求めるような行為ができるのだろうかと。
すべてをさらけ出し、月明りでてかる頭を見せつけて、駆け抜けていくその姿。
……そこでグノーウは、思い切ってその不審人物であるおっさんを呼び止めて、尋ねてみたのであった。
なぜ、そのような生き方をできるのだろうか、と。
おっさんの正体とかはどうでもいい。
ただ、なぜそのような生き方ができるのか、物凄く不思議だったのだ。
まともに返答されないかもしれない、そう考えていたが、おっさんはあっさりとそのわけを話してくれた。
「なぜこのような生き方ができるかって?それは己の欲望のままに生きているからである」
「己の欲望のまま?」
おっさんは語りだした。
昔、自分はとある学校の教員であった。ブーテンダーとかいう名前だったような気もするそうだが、そこはよく覚えていないそうだ。
毎日がいつも通りで変化がなく、面白みのない生活を受けていたのだという。
ただ働き、何も目標もないままにしていたそんなある日……転機が訪れた。
自身の記憶もおぼろげだが、なぜか学校の屋上に気が付いたら彼はいたそうだ。
そして、其の時になぜかある快感を覚えたそうなのだ。
そう、体中に何かこう、激震が走るかのような、電撃がほとばしり、天からのお告げのようなそんな感覚を。
再び何度でも味わいたい其の快感を求め、おっさんはすぐさま何もかも捨て去り、疾走した。
野を超え、山を越え、谷を超えて突き進み、おっさんは快楽を求めて走り抜け、次第にだんだん開放感を得ていったのだというのだ。
「そう、何事がきっかけになるのかわからない、それが人生と言う物です。その人生において、自分がやりたいことはないかを定め、それを確たる意志でやり遂げようと努力するからこそ、人は幸せな人生を送ろうとするのです。私の場合はあの痛いような、それでいて気持ちがいいような快楽を求め、その与えてくれた主を探し、再び巡り合うためにこうして世界中を駆け抜けようと誓いました」
「そ、そんなことが理由でか」
「ええ、そんなことと言えるでしょう。ですが、他人がどう言おうが人は人、他人は他人です。価値観も違えば好みも、何もかも異なります。ですが、自分にとって何がやりたいのか、何が至福なのか、何を求めているのかを見つける事こそが、全ての原動力となるのです!!!」
全裸で変態的な格好でありながらも、どこか押される気迫に納得するグノーウ。
「あなたもおそらくですが、なにか自分で自分を隠そうとしていませんか?己のすべてをさらけ出す、そしてその先にある物を得ようとするのが人生を楽しむコツです。さぁ、この出会いをきっかけにして、あなたもすべてをさらけ出していきましょう!!」
そう言い残し、おっさんは逃亡した。
今ではその行方を知ろうとも思わないし、また会おうなんてことも思わない。
けれども、そのおっさんの言葉である「すべてをさらけ出す」という事に、グノーウは感化された。
自分はなぜ、たかが噂が真実であっただけでショックを受けていたのだろうか。
あのおっさんこそが、もしかしたら自分を変えるために神から遣わされた使徒なのかもしれないと、考えるようになった。
そして、自分お全てをさらけ出せばいいというあの言葉を思い出し続け、彼は悟った。
自分の本性は、皇帝と言う地位を欲しくて。他者を押しのけ、そして踏みつぶして悦に浸るようなことだと。
何もかも己の糧としてしまい、そのまま一生を過ごすことなのだと。
……その日から、グノーウは皇帝の地位を執着するようになった。
そして今、彼は皇帝の地位を手に入れたのである。
おっさんのように自由に、己をさらけ出し、そして至福を得る。
この至福を潰す可能性のある者は、全て叩き潰してしまえばいい。
もしかしたら、いつか自分は誰かに滅ぼされるかもしれない。
どうせもう自分は好き勝手やっているし、従っている者たちもグノーウの提供する欲望で満たされているだけの愚かな傀儡の存在でもあるからだ。
けれども、それもまた悪くはないだろうとグノーウは思う。
もうこの世にやり残したことはない。
自分は暴走し、全てをさらけ出し、そして何もかも一度は手に入れたのだ。
「さぁ、自分を滅ぼす者がいるのであれば、いつでもこい!!」
そう叫び、グノーウは腕を天に高くつき上げる。
己をさらけ出し、暴れ、血のつながりがある物を亡き者にし、馬鹿な貴族たちを傀儡として帝国を手に入れたグノーウ。
もしかしたら、彼はすでに狂っていたのかもしれない。
そして、心の奥底にある良心が、暴走を止めてほしいと願っていたのかもしれない。
……そんな彼の心境など誰も知るはずもなく、いつしか物凄い地雷を踏み抜いていたグノーウ。
いつのまにか国の経営が難航し、そしてバカ貴族共が騒ぎ立て、グノーウをお詫びとして何処かへ差し出そうとするが、バッサリと切り捨てられ、しかるべきところへ回されていった。
来るであろう滅びを感じ、それでも彼は逃げずにその滅びの時を待った。
部屋の扉が乱暴に開け放たれ、そこから入ってきた者たちをグノーウは見た。
己の血筋以外を滅ぼそうとも考え、暗殺者を仕向けていたはずの前皇帝カイザリア。
彼の弟の娘であり、皇族の血筋をひいた娘リース。
そしてもう一人、今この瞬間にグノーウの傀儡とも言えるような国を終わらせに来た、滅びの使者とでもいうべき人物を見て、思わずグノーウはニヤリと笑みを浮かべた。
「ああ、やはり滅びは来たか」
思わずそうつぶやき、くっくっくっと笑うグノーウ。
……リースのところへ暗殺車を差し向けた時点で、実はグノーウはすでに予測できていた。
彼女には今婚約者がいて、その婚約者と言うのがあのシグマ家の者。
絶対に報復の手が出されるだろうが、それでも彼はどうでも良かった。
己のすべてをさらけ出し、これまでに手に入れた至福を思えば何もかも受け入れられた。
そしてグノーウはその日失脚し、全てを失った。
けれども、何もかも失った割りには彼の顔はものすごく笑顔だったという。
人生の歯車がどこかで狂い、そして滅びも受け入れた狂王と、後の歴史には載っていた。
けれども、どこかで自身の破滅を感じ取っていたが故に、暴走した哀れな道化の王とも載っていた。
どちらが正解なのか、誰もわからない。
グノーウ自身も、その答えを得られなかったであろう。
しかし、一つだけ言えることは、一年もたたずにニューデストロイ帝国は潰され、もとのデストロイ帝国へ戻ったという事だけであった……
次回はきちんと、どのようにニューデストロイ帝国を終わらせていったのかを書きます。
ただ、今回は思わず書いていたらこのような話になってしまったんですよね。
まるで、グノーウ自身が書いてほしいと願っていたかのように……
次回に続く!!
……やっぱこれ閑話だよなぁ?しかも、カグヤがいろいろとやった後の方に書いたほうが適切なような気がする。




