#130
ちょっと前半忘れていたネタです。
SIDEカグヤ
ギリギリギリギリギリギリギリギギリギリギリギリ……
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「この光景も、もうそろそろ見納めかあ」
「途中からって感じだったけど、やっぱりもうこの学校の名物だったからなぁ」
『しかしあのお仕置きの才能って特定の相手のみにしかできないとはいえ、結構すごい才能ですよね』
「あだだだだだだだだだだだだだだだ!?」
「ふふふふ、馬鹿兄貴今度は何をしようとしているのかなぁぁぁぁぁぁぁ?」
にこやかな顔だが、青筋を浮かべた状態でネリスがルシスの顔を、内側にとげがびっしりついたガントレットのようなものでアイアンクローをかましている光景を見ながら、カグヤたちは食堂で昼食をとっていた。
ドバドバと何かが流れているのだがもはや見慣れた光景でもあり、名物と化しているので誰も騒ぐことはない。
「おいおい、今度は何をやらかしたんだよルシス?」
「あだだ……ああ、ベスタか?ちょっとばかし殺気学校で授業をすこーーーーーーしサボって街中でナンパを」
ぎりぃっつ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「何をやっているんだこの馬鹿兄貴はぁぁぁぁ!!」
見事に自白したルシスに対して、より一層ネリスの掴む力が上がり、より一層強力なアイアンクローとBなったようであった。
ルシスとネリス…‥‥どちらも元々は留学生としてラフター皇国からやって来た兄妹。
元々は皇子と王女と言う身分でもあり、やってきた理由はすでに元凶が消えているのだが、まだまだ国内の情勢が不安定故にズルズルと卒業式までここで学ぶことに決まってしまい、そしてそのやり取りはすでに学内の名物と化していた。
一応節度ある女好きと自称しているルシスを、妹であるネリスが才能を使用して毎回ひどいお仕置きをしているのだが、このやり取りも卒業後は彼らは国に帰るそうなので、あまり見られなくなることになり、何処か残念なように思えた。
なお、ネリスによるお仕置きが何になるのかは密かに賭け事になっており、今日はアイアンクローでのお仕置きという事で、鞭や金棒と予測していた面々はがっかりしていた。
ちなみに、カグヤはアッパーと考えていたので同じく外れてがっかり気味。
「そう言えばさ、二人とも今の身分はどうなっていたっけ?」
「ああ、皇国内でのごたごたの末に王族は王族籍が消えて、完全な民主制へと移行する方針になったようだぞ」
ラフター皇国でかつてあった政変…‥‥たった一人の女による掌握された暗黒時代。
それが元凶で二人ともこの国へ留学と言う形で避難し、ルシス狙いで追って来た女をここで撃退した。
その事で、皇国内で掌握されていた人たちは正気へもどり、良いようにされていた不満などが爆発して、かなりのごたごたが続いたようである。
そして、こちらも最近になってようやく落ち着いてきたのだが、王族たちはものの見事にはまっていた者たちがおり、国を治めるのにふさわしくないと判断され、王族籍が抜かれるそうな。
「平民になるのだけれども、あたしたち二人は唯一王族の中で抵抗して正気だったからね。それなりの待遇だけは残してもらえるようなのさ」
ルシス(すでに動いていない)を片手でアイアンクローをかましながら、そう言ったネリス。
他の国王やその兄弟は見事に掌握されていた故に、なんの保証もない状態で平民へ落とされる。
けれども、ネリスたちは正気であり、そして掌握していた奴を撃退したのに一役買ったので、こちらはある程度の生活の保障がなされるのだとか。
「ただまぁ、それまでにこの馬鹿兄貴のナンパ癖と言うか、女癖の矯正をしているんだけどねぇ。いまいち効きが悪いというか、どこかにより良い矯正場所ってないもんかね?」
はぁっと溜息をつきながら、つかんでいたルシスをぽいっと放り投げて肩をすくめるネリス。
どさっと床に落ちたルシスはビクンビクンと動いていたが、其のまま動かなくなった。
…‥‥一応、死んではおらず、才能によってすぐに回復するで問題はない。
「矯正場所ね……そう言うのってあるのかな?」
『要は煩悩をぶっ飛ばせればいいんですよね?』
「お?何かいい案があるのか」
『ええ、滝に打たせるというのはどうでしょうか?』
「それはもうやったぞ。滝は滝でも濃硫酸の滝だったがな」
「「『それはアウトでしょ!?』」」
明らかにやばい滝に、その場にいた全員はツッコミをネリスに入れたのであった。
濃硫酸……溶けるんですが。と言うか、その荒行を受けてもなお生きているルシスの生命力がすごいぞ…‥‥
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SIDEデストロイ帝国
「『拝啓 ダースヘッド国王へ』っと…‥‥」
デストロイ帝国の王城の執務室にて、皇帝カイザリアは文通の友であるダースヘッド国王への手紙を書いていた。
魔道具などによって瞬時に連絡を取り合うこともできるようにもなっているのだが、こうやって手書きで書いた分によってより親しみやすく出来るように、気を使っているのである。
互いに国のトップであり、そして同じ苦労人という事で親近感もあって、二人は既に親友となっていた。
国同士の対立と言うことで戦争の危険性もあったが、今は互いの友好関係を強化しているので危険性も低くなり、また戦争を煽ろうとしたバカ貴族たちも一掃しているので良好関係が築けているのだ。
そんな中、今カイザリアが書いているのは徐々に目立ってきた、己の息子たちの皇位継承争いについての相談であった。
カイザリアには正妃や側室などがそこそこおり、それなりの数の皇子たちを持っている。
そしてだんだん成長していくにつれて皇帝になろうという願望を持つ者が増え、いつしか皇位継承争いが起きていたのである。
とはいえ、暗殺とかはない。
…‥‥なんというか、どうも兄弟間で殺し合うドロドロを避けるためにある程度の教育をしていたのが功を奏したようで、どれだけ自分が優れているのか、民から好かれているのか、などと言ったことで競いあってくれているようだ。
皇子に付いて、甘い汁を啜ろうと企んだ奴らも、戦争を煽ろうとした貴族たちの中にいたのでついでに一掃しており、それなりに健全な皇位継承争いとなっているようだった。
ただ、そこで問題になって来たのが逆にカイザリアが決めがたくなってしまったことである。
今は誰もが良い子のようで、優れているのかどうかを競い合っているようなもので済んでいるのだが、ここで誰かを選んで、残ったものがどうなるかを考えると…‥‥頭が痛い。
公爵家として立ち上げる者も出るだろうが、努力を否定されたようで反乱やぐれる者たちが出るのがカイザリアにとっては怖いのである。
そこで、そのあたりをどうすればいいのだろうかとカイザリアはダースヘッド国王に相談することにしたのであった。
ダースヘッド国王のところでは、王位継承どころか押し付け合いになっているので、それぞれがすでに進むべき道を考えているのは間違いないはず。
そのように息子たちを誘導できぬかどうかを、質問することによってその悩みを解消しようかとカイザリアは考えたのだ。
手紙を書き終え、郵便を出す場所へ届けたカイザリア。
あとは返事が来るのを待つだけだったのだが……‥‥ここでカイザリアは気が付いていなかった。
表面上は、いい皇子が多いのかもしれない。
けれども、その中には本性を隠している者がいたことに彼は気が付かなかったのだ。
それこそが、彼の人生最大の大失敗とでもいうべきなのだろうか?
とにもかくにも、その事にカイザリアは気が付かなかった。
そして、隠された本性をむき出しした者が出てきたのは、手紙を出した3日後であった。
その日、帝国は大きな政変を迎えることになったのである……
カイザリアは気が付かなかった。
己の息子である皇子たちの中に、恐ろしい本性を持っていた者がいたことに。
気が付いたときには、もうすでに遅かった……
次回に続く!!
……フラグ?