#11
本日2話目!!
今回は主人公の周辺の話かな。
SIDEバーステッド王国:王城
「うぉぅ・・・胃薬を変えようか・・・」
「陛下、新たな胃薬としてはこちらがあります」
バーステッド王国にある国王が住まう王城にて、議会室と呼ばれる国の政治を話し合う場で、国王ダースヘッド・フォン・バーステッドは胃薬を飲んでいた。
本日の会議では、今年度の首都にある学校に入学する貴族の生徒たちのリストを見ていたのだが、その中にシグマ家の者が居たことでまた胃が痛くなったのである。
シグマ家・・・・それは王国にある貴族家でも異質な存在であり、強大な力を持ちながらも特に反目もせず、かと言ってなにかしらの問題を起こさないわけではないので、ダースヘッド国王の胃痛の原因となるのである。
まあ、貴族籍剥奪や他国への追放などを考えようにも、その戦力を考えると他国が狙うのが目に見えており、そう簡単に胃痛の元凶を無くせないのである。
そのせいで、最近は頭皮が寂しくなるような予感がして怖くもあった。
「今度学校へ入学するのは三男のカグヤ・フォン・シグマ・・・・三男故にシグマ家の中では当主になるのが難しいでしょうから、独立して職に就くか、もしくは他国へ渡る可能性がありますな」
ある程度までの詳細情報は、王国にある諜報部隊によって入手されており、現在報告がされていた。
ただ、あくまである程度なのは、シグマ家の情報セキュリティなどが優れているのが明白である。
それでも、情報があるだけでもありがたいことだとその場にいる重鎮たちには思えた。
「所持魂魄獣は神獣型に分類されるようで、普段は本のような姿でいるそうです。そして才能までは詳しく入手できませんでしたが、おそらくは両親のいいとこどりをしているようです」
剣術と魔法の訓練の両方を受けているのを聞き、その場にいた全員は頭を抱えた。
カグヤの父であるアーデンベルト・フォン・シグマは剣の腕ではこの国一番ともされている者であり、今でこそ辺境の方の領主としておとなしくしているようだが、それでも十分な脅威となる。
また、その母であるテリアス・フォン・シグマは、「微笑みの撲殺女帝」の様な物騒な二つ名がつくが、基本的には殲滅級・・・・一国の軍隊を滅ぼせるクラスの魔法を扱え、それはそれで恐ろしいものであった。
・・・ちなみに、過去に国王の兄が求婚し、フラれた怒りに任せて阿保なのか手出しをしようとしたら、山が一つ吹き飛ぶほどの大惨事が起きたことがあった。
その当時の出来事は、偶然の地形変動として何とかもみ消し、やらかしたその兄は王位継承権剥奪及び、最も厳しいと言われる鉱山労働行きとなった。
そして、その3日後には脱走し、現在も行方不明なのだが・・・・・
とにもかくにも、そのような無茶苦茶な両親から生まれた子が普通であるはずがない。
すでに数年ほど前に長男、次男が入学しているようだが、その二人は薬草学とかの方面に力を発揮しているのでまだほっと息をつくことができた。
けれども、その三男が両親のいいとこどり・・・・つまりは剣術や魔法が優れているらしいという事に関して、国王はさらに胃痛を抱える羽目になった。
何の因果か、現在彼に最も効いて愛用している胃薬は、そのシグマ家の長男次男が開発した新薬だったりする。
「性格としてはおとなしい方で、特に素行に問題のもないそうですが、それ故に問題を起こしそうな生徒とぶつかる可能性が高いのです」
「問題を起こしそうな家に関しては、真っ黒な噂もありますが・・・・・下手すりゃ巻き添えを食いますからね」
「ああ、シグマ家の事だからな。うかつにこちらから干渉しようとしたらほぼ確実に痛い目を見るのが分かっている」
「だが。それを分かっていないバカがいたとしても・・・・・冥福を祈るしかないでしょう」
国王の息子や娘の中にも今年に入学を控えている者が居る。
教育に関してはその妻の方で任せたりはしているが・・・・・将来的な王位継承権の争いの可能性も考えると、ここで実の子と言えどもつぶされればそれはそれでいのかもしれない。
けど、やっぱり何かと問題を避けてほしいなと、また痛み始めた胃を抑えながら国王と、その重鎮たちは思うのであった。
いつの時代、どこの世界でも国のトップとその部下たちは大変なのである。
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SIDEアンナ
・・・・馬車で首都に行くまでは2日掛かり、今日は一旦途中にある宿泊施設にてカグヤたちは泊ることになった。
野宿という手段をとることも可能だが、出来るだけ警備とかもしっかりできるような場所で貴族は宿泊をするのである。
警備以外の理由としては、仮に盗賊が出たとしてもシグマ家相手にはぼっこぼこどころか周囲に被害が出かねないというモノがあるのも理由であった。
カグヤとその両親は部屋数の関係上別室で寝ているのだが、カグヤの枕元にアンナは立っていた。
今はカグヤの魂魄獣であるが、元は大魔法使い。念のために周囲に警戒のための魔法を張ったのである。
その魔法で出来た結界は、悪意がある者が入り込もうとすれば気絶させるというモノで、解除を命じるまでは持続する優れたモノであった。
神からのガイド役としての任務もあるので、こうやって安全に暮らせるようにサポートするのも彼女の仕事なのだ。
「ふふふ、ゆっくり寝ていますねカグヤ様は」
人の姿の状態となって、枕元に立ってアンナは寝ているカグヤの頬を撫でた。
その姿は、元の世界にいた自身の身体(全盛期)を再現したモノでもある。
・・・・大魔法使いとして別の世界にいたころは、こうやって人に触れるという事自体はほとんどなかった。
実力があり過ぎたがゆえに近寄りがたく思えた人がいたり、逆にその力を目当てに来るような輩もいたりして、アンナにとっては嫌だったのだ。
まあ元から人とコミュニケーションをとること自体が苦手であったというのもあるが・・・・・・そのため、人生の最後の方ではすでに人里から遠く離れた地で過ごしていた。
いろいろあり、その世界が滅びる時には脱出できたが、紆余曲折を経てこうやって魂魄獣となった人生に、アンナは苦笑を浮かべる。
人づきあいが苦手であったが、今では同じような悩みを前世に持っていたカグヤと一緒なのだ。
同じような人であり、それでいて「天然ジゴロの才能」があるせいかは知らないけど、アンナはカグヤが愛しく思えた。
魂魄獣ゆえにカグヤの魂と共にあり、そばに仕える立場。
できればもっと相談事があるなら相談してほしいなともアンナは思うのであった。
・・・国王って実は結構苦労性だったりする。
自分の責任のようなところもあるが、それでも気の毒さにじみ出るのだ。
世間では結構人気もあるのでいい人なのですがね。その分問題とかも抱え込みやすい。
アンナの姿って、前世の自身の姿の再現の様な感じである。つまり、見た目を変えようと思ったら変えられたりもする。




