#122
ちょっと今回は長いかな?
……王城でのパーティ当日。
開催時間は夕暮れ頃であったが、婚約発表は開催から約30分後のようで、カグヤたちは会場内を時間が来るまでうろついていた。
なお、精霊のフローリアは姿を隠しているようで見当たらないが……発表時に飛び出てくるような気だけはする。
今回のパーティは婚約発表の場という事もあるので、全員正装もしていた。
カグヤの正装は、普通のタキシードだが、使用されている素材は最高品質の物らしく、気温が下がってきた時間帯であろうと、寒さを感じさせない暖かいものであった。
アンナの場合は、魔女のイメージとでもいうべきか、背があいて、なおかつ胸元を隠す漆黒の黒いドレスを身にまとい、かといって完全に真っ黒ではなく、よく見れば細かな光の反射をする糸が縫われているようであり、時折小さく反射する光は、まるで真夜中の星空を着ているような、胸元が隠されて色気を抑制しているはずなのに、余計に強調されているように見えて扇情的な雰囲気を纏っていた。
ミルルは一国の第5王女らしいというか、アンナとは対照的な真っ白な清楚さを感じさせるドレスを纏い、宝石も少々ちりばめて派手過ぎず、かといって地味でもなく、本来の美しさを魅せるかのようなドレスを着こなしていた。
リースの方だが、彼女の場合は銀髪に合うようにしたのか、薄い紫色のドレスであり、こちらは少々窮屈だったせいか胸元が少し空いて、アンナとはまた違った色気が出ている。花模様が刺しゅうされており、さりげない乙女心を表現しているそうだ。
サラはというと、こちらは火炎龍のイメージカラーのような、燃え盛るような真紅のチャイナドレスのような物を着ていた。ぴっちりと着こなし、足が出ているのだがそれはそれでなんか艶めかしい雰囲気を漂わせている。
「やっぱりこういう場ってドキドキしてくるなぁ……」
『大丈夫ですよカグヤ様。こういう場だからこそ、逆に胸を張ればいいんですよ』
こういった会場に不慣れなカグヤだったが、アンナがそのカグヤを励ますようにアドバイスをしてくれたおかげで、少しカグヤの緊張はほぐせた。
今夜のパーティ会場には大勢の貴族などが集まっており、有名どころもあれば、つながりを持とうとして来ている者たちもいるようだ。
そして当然、各貴族が集まっているという事は……
「……やはり来ていましたか、父上に母上」
「はっはっはっは、我が息子の事だからな。当然来るのは当たり前だろう」
「ふふふふ、こういう場に来るのは久しぶりだけど、やっぱり息子の成長を見るのは良いわねぇ」
会場内でカグヤは両親……アーデンベルトとテリアスを見つけ、話しかけると二人ともにこやかにそう笑いながら言った。
どうやら辺境の方にしたシグマ家の当主である父も、その妻である母も一緒に来たようだ。
兄たちはこの場に参加していないようだが、どうやらこの会場に来ている貴族家は当主本人か、次期当主が決定した者たちしか来ていないようなのである。
その為、会場全体を見渡すと若い者たちから威厳ありそうな老いた者達まで老若男女問わずにいるようなのであった。
……ただまぁ、次期当主決定した者たちも、現当主でも睨むような人がいるのをカグヤは感じていた。
「やっぱり気に食わないというか、文句の言うタイミングを待っている人もいるのかな」
「そうよね。私の、シグマ家の息子とはいえ三男。おそらく舐め切っている情報不足の馬鹿もいるのよ。絡まれた場合は、容赦なく潰していいわよ」
カグヤのつぶやきに、テリアスはにこやかに物騒なことをいった。
潰すって……よく見れば、金槌の魂魄獣トーランをテリアスは出し、ちょいちょいっと示す方向を見れば…‥
いやそこ、男の急所ですって。潰すって物理的にという事なのか、それとも将来子供ができないようにという事なのだろうか。
この母の場合……後者の方の可能性が大きくて怖い。
と、同やら時間が来たようでミルルがくいくいっとカグヤの袖を引っ張り、準備されていた部隊の近くにカグヤたちは集まった。
「あー、あー、これより国王陛下が重要な発表を行います!!皆さま、どうぞ注目をしてください!!
舞台上で、この国宰相と思わしき人物が告げると同時に、会場中の視線が舞台に集まった。
そして、そこにこのバーステッド王国の国王……ダースヘッドが立った。
「……それではこれより、今夜のパーティでのメイン、我が娘であり、第5王女のミルル・フォン・バーステッドがこのたび、意中の相手を射止めたとして婚約をすることになった。その婚約の正式発表として、この場にミルルと、その相手であるシグマ家の三男であり、なおかつ精霊の加護を受けた少年、カグヤ・フォン・シグマの二人に出てもらおう。ついでにカグヤ殿の他の婚約者でもあるアンナ嬢、リース嬢、サラ嬢も舞台に出てきてくれまえ」
厳かにそう言い、ダースヘッド国王の前へカグヤたちは出た。
膝まづき、それぞれきちんと礼をして皆の姿が会場中の目線の的となる。
「……さてと、カグヤ・フォン・シグマよ。このたび我が娘の告白を受け、そして婚約を約束したようだが、その愛情に偽りはないな?」
カグヤの前に立つダースヘッド国王はそう尋ねて来た。
いつもは胃痛で顔をしかめているそうなのだが、今回はきちんと国王としての威厳ある表情で、ビシッと立っているその様には力強さを感じさせる。
そしてその問いかけに対して、カグヤは口を開く。
「はい、偽りはありません。私に愛を向けてくださる者たちは他にもいますが、きちんと私が好意をもち、責任をとれる相手としています。そして、ミルル第5王女様との婚約も責任を取り、本当に大切にしていきますのでどうかこの婚約を認めてください」
深々とお辞儀をし、才能でもなく、見掛け倒しでもなく、本当に誠心誠意をカグヤは込めてそう告げた。
「なるほど……これまでのそなたの功績を見ても、偽りもなく、本当に誠実な人間として見ることはできよう。なのでこの婚約にわたしからも文句はない。ただ、文句をいいたげな者たちはいるようだが‥‥‥」
そう言いながら、ちらりと周囲を見渡すと確かに文句うぃいたげそうな、不満げな者たちがいるようだ。
「……では会場の者達に問おう。諸君らに、今回の婚約に反対する者はいるかね?」
「「「「はい!!」」」」
・・・・・・ダースヘッド国王の問いかけに対して、返事をする者たちがいた。
「ふむ、ではそう言うのであれば、理由を明確に述べてみよ」
ダースヘッド国王がそういうと、返事をした貴族たちは順番にその理由を話し始めた。
「第5王女様の相手としては、カグヤ殿は身分が低すぎる。シグマ家の三男であり、将来的に当主を継ぐようなことが無い人に、王女様を継がせていいものでしょうか?」
「精霊の加護があるという話だが、その精霊の姿はこの場にはない。それは偽っていることにほからないでしょうか?」
「彼には他にも婚約者がいるようですが、そのような不誠実な男の下に第5王女様を送っていいのでしょうか?」
「僕ちんがふさわしいと思えるのだ」
……一人だけ完全に私利私欲じゃないだろうか?
出てきた理由に対して、カグヤはそう思った。
「ふむ、ではそれらに関しては一つ一つ答えていくとしよう」
理由を聞き終え、ダースヘッド国王はカグヤに目線を向けた。
「まず、身分差に関することだがそれは心配はない」
「なぜでしょうか?彼は三男であり……」
「その事に関してだが、先ほど発表をする前にカグヤ殿の父親であるアーデンベルト殿と話し合った。確かにカグヤ殿は当主とはならないだろう。だがしかし、彼にはこれまでいくつもの功績があるのは理解しているだろうか?」
「?功績があるからと言っても、それが何でしょうか?」
「その功績はな、まず、過去にこの首都を襲撃した火炎龍を相手にして、一歩も引かずに相手を追い返したというのがあるだろう。ドラゴンが暴れるだけでも大変な損害が通常出るのだが、その損害を最小限にしたというのがある。また、つい最近あったデストロイ帝国との会談の際に、会談を台無しにして、そのうえ戦争のきっかけともなりかねなかった怪物の討伐というものもある。その際に副次的に黄金の花畑ができ、その観光収入の一部がこちらにも入ってきているしな」
他にも、学校入学したての頃にあった人さらいの撲滅、ラフター皇国からの下手すればこの国にまで被害を及ぼしそうであった悪女の追放、そして公にはされていないのだが、不正貴族の処分と、帝国との親戚筋にあったリースの救出などがある。
「……それらの功績から、今は学生と言う身分故にまだ完全には与える場所を決めてはないのだが、卒業後に侯爵の爵位を授与することになった。ミルルが妻として嫁ぐときになれば、王家の親戚筋として公爵の位も与えられることが決まっておる」
「「なっつ!?」」
その事実に、身分差で反対していた者と、初耳のカグヤは同時に驚きの声を上げた。
流石に身分的に考えれば子爵辺りかなとはカグヤは考えていたのだが、それより上の爵位が授与されることになったのである。
公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、あとはこの爵位の間には辺境伯爵や仮男爵、最も上とされる大公などの爵位もあるのだが、今回卒業後にカグヤに授与されることになったのは、其の仲でもかなり高位の侯爵の位であった。
「これで身分差は問題ではなくなった。まぁ、そもそもミルルが王族から臣籍へと移行して嫁入りさせるという案件もあったのだが、互いの愛情に嘘偽りないと判断したので、このような処置をとらせてもらったのである。そのため、カグヤ・フォン・シグマは卒業後にシグマ家から出る事にはなるが、分家の一つとしても独立することになるのは決定なのだ」
「で、ですがいくら何でもいきなりそこまでの爵位は!!」
「では逆に問おう。そなたはありとあらゆるものを侵す怪物と正面から挑めるか?あの火炎龍達に立ち向かえるのか?そして勝利を収めることができるであろうか?」
「ぐっつ…‥‥」
ダースヘッドのその問いかけに、文句を言っていた一人は黙った。
積み重ねてきた実績を考えると、明らかにカグヤの方が上だと理解したのだろう。
「そして次に、精霊の加護の事だが…‥‥カグヤ殿、精霊をこの場に呼べるだろうか」
「呼ぶ必要はありません。なぜならすでにこの場で見ていますよね、フローリア」
【ええ、面白そうなのでずっと見ていましたよ】
「「「「!?」」」」
会場中に響いた声に、出席者たちは目を見開き驚く。
そして、カグヤたちにいる舞台の上に、精霊が出現した。
少し間違えて見れば幽霊のようにも思えるのだが、その感じ取れる雰囲気から精霊だと理解できる人はいるだろう。
【初めまして皆さま、我は過去にある国を栄えさせ、そして滅ぼしたともされる、水をつかさどる精霊フローリアです】
この場に合わせた物なのか、水色の透き通るようなドレスの裾をつまみながら、フローリアはお辞儀した。
「な、な、あ…‥‥本当に精霊が」
【ええ、本物ですよ。そしてあの者……カグヤには、我の加護を与えています。真実の愛を見せてくれてもいるし、彼が人の中でも信用に足りる者であると判断いたしましたからね。ああでも、そんな彼を信じずに、精霊なんていない、嘘っぱちだとあなたは言いたいのでしょうかね?】
「いえ!!そこまではいっておりません!!」
にこやかに継げるフローリアに対して、先ほどの加護を詐称していると尋ねた者は、土下座した。
精霊本人から証言され、過去に国を滅ぼしたという言葉にもビビったのであろう。
と言うか、フローリア自身もちょっとS気があるような。踏みつけしようと思う顔はやめてください。
「……さてと、精霊の加護がある事を、その精霊が直接述べたことで明かになった。では不誠実さについてだが、これはわたしから直接言わせてもらおう」
「というと?」
「……いろいろとついでに調べる機会が会って、この場にいる者たちよりもカグヤ殿の方がよっぽど誠実さのある事が分かっているのだ。きちんと責任を取り、愛することをしている。だがしかし、諸君らの中にはそのような事をせず、ただ身分をかさに着て横暴に振るう者たちがいるようだ」
そう言いながら国王が参加者たちを見わたすと、明らかに動揺して顔を背けたり、冷汗をながす人が見られた。
中には、妻を連れてきている人もいたようで、ものすごくギロギロと身内に見られる人もいるようだ。
……後でおそらく、懇切丁寧な話し合いが行われるであろう。
「ま、そういうわけで誠実さについても問題はないと判断した。そもそもそうでなければ、誰が娘を婚約させるであろうか?……そして最後の反論だが、その者は先ほどの精霊出現によって気絶しているようなのでやめておこう」
見て見れば、「僕ちんが」とか言っていた者は白目をむいて立ったまま気絶していた。
……うわぁ、最後の奴だけすっごい情けないじゃん。
「では、文句はないようなのでこれでやめておこう。これ以上あるのであれば、後日決闘を挑むなりして挑戦するがよい。まぁ、まともにするような輩はいないだろうがな」
そう国王はいい、これで婚約発表は終了したようである。
あとは、時間が経って閉会するのを待てばいいのだが……
「では国王陛下、一ついいでしょうか?」
……質問とばかりに、カグヤの母であるテリアスが手を挙げて尋ねた。
「なんであろうか?」
「せっかくですし、決闘を息子に挑むような輩のためにその実力を見せて差し上げたいと思います。ですので、あす、学校の決闘場にて私と夫のペアで、息子のカグヤに本気で模擬戦を挑んでもよろしいでしょうか?」
テリアスのその言葉に、横にいた父のアーデンベルトは驚きの顔をして、カグヤも驚く。
「あの微笑みの撲殺女帝が久し振りに動くだと‥‥!?」
「その相手と戦い、実力を見せつけるという事か」
「うわぁ、流石に相手にはしたくない」
他の貴族たちがざわめき、テリアスの発言に驚く。
「……ではカグヤ殿、良いだろうか?」
国王陛下がそう尋ねると同時に、テリアスから白い手袋が飛んできて、避ける間もなくカグヤに当たってしまった。
……有無を言わさずに、決闘形式で行くつもりのようである。
カグヤは遠い目をして、諦めたように了承するのであった……
……テリアス(魔法最強)&アーデンベルト(剣術最強)のペアと勝負をする羽目になったカグヤ。
実力を見せるためにと言う以前に、受けても受けなくても死亡する未来しか見えない。
その未来を回避するために、全力でカグヤは勝負に挑むしかないのであった。
次回に続く!!
……さてと、カグヤの実力は圧倒的な力を持つ両親と渡り合えるのだろうか?と言うか、渡り合えないとフルボッコの未来しかないのである。




