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閑話 とある長男の出来事

本日2話目!!

ちょっと影薄い兄弟の一人のある一日です。

「……やばい、出来てしまったけどどうすればいいんだろうかこれは」


 領内で与えられて自室にて、シグマ家長男であるエリザベス・フォン・シグマは、今自分で作った薬品を見て、そうつぶやいた。



 学校で各生徒に与えられる寮の自室は、基本的にどのように使っても構わないと校則に記されている、


 「薬剤師の才能」を持ち薬を磨り潰したりできるすり鉢の物質型魂魄獣「コギリーン」を従えるエリザベスの寮室は、あちらこちらに大量の薬草や薬品が置かれ、いつでも調合が可能な状態になっていた。



 そんな中、本日適当な思い付きである薬品をエリザベスは調合していたのだが、才能がある彼にしては珍しくミスを犯し、予定していた薬品とは異なる物を創り上げてしまったのだ。


 才能のおかげでどの様なものなのかはわかるのだが……流石にこれはまずいと思える代物であった。



――――――――――――――――――――――

『100万パワー増加薬』

薬品名の通り、通常時の100万倍の力を得ることができる薬品。ただし副作用として一時的に体と心が3つに分かれてしまう。効果は半日程度で個人差もある。

―――――――――――――――――――――


 通常の100万倍……それは簡単に言えばだれでも怪力になれたり、魔法の威力も桁違いになることができるのを指すのである。


 そして、うかつにこの薬品を世の中に出せば、悪心ある物が悪用しかねない代物でもあった。


 と言うか、どうやってこれができたのだろうか?




「どうしようかなこれ……うかつにしまおうにも何かの拍子で誰かの手に渡るし、処分しようにも何かの生物が飲んで、やばいことになっても困るしな」


 うーんと悩むエリザベス。


 普段ならやばい薬品はほとんど作ることもなく、大概誰かにあげて処理は可能なのである。


 だが、今回のこの薬品は下手な取り扱いが出来ないのだ。



「となれば、いっそ魔法か何かで消し去ってもらったほうが良いかもしれないな」


 ふと、思いついたその案を実行してもらおうと、エリザベスは自室から出て、ある人物のところへ向かった。









「……なるほど、エリザベス兄上の頼みならいいかな」

「そうか、ありがとうカグヤ」


 エリザベスの弟であり、シグマ家の三男で実力も相当あるカグヤの下に、エリザベスは頼みに来ていた。


 先日、どこぞやの淫乱女退治の事もあり、その際に協力してもらったカグヤからしてみれば、己の兄の頼みなら引き受けても良かった。


「しかし、魔法で消し去るのならそれだけ強力な奴を使ったほうが良いのかな」

「ああ、そうしたほうが良いだろう。作った自分で言うのもなんだが、うかつにやれば魔法その物が強化されて被害拡大の可能性があるからな」


 互いに処分方法を話し合い、カグヤの魔法で消滅させることにしたその時であった。


『カグヤ様、お茶を持ってきましたよ―』


 お茶を持ってきたカグヤの魂魄獣であるアンナが部屋に入って来た。


 本の姿を持ち、そして美しい女性の姿になることはエリザベスも知っている。


 とはいえ、弟の魂魄獣なので手出しをすることもなく、綺麗だと思ってはいても、手出しするほどではない。


 そんな彼女が今、人の姿の状態で、お盆の上にお茶を乗せて持ってきたのだが…‥‥ここでなんとなく、嫌な予感をエリザベスは感じた。



こけっ



「「『あ』」」



 何かにつまずいたのか、アンナがこけて体勢を崩す。



 彼女を支えようと、慌ててエリザベスもカグヤも動き、お茶もこぼれないようにキャッチしたのだが……ここでふと彼は気が付いた。


 先ほどまで、持っていた薬品入りの瓶。


 思わず体が動いた際に適当に投げたようで、辺りを見渡すと……



ひゅ~~~~ずぽっつ


「もぐっ!?」

「『あ』」


 上に飛んでいたようで、音が聞こえたカグヤがその方向を向き、彼の口の中に入った。


 そしてふたが取れていたのかそのまま中身を飲んで…‥‥



ボンッツ!!


 爆発したのであった…‥‥











「エリザベス兄上」

「この状態ってさ」

「いつになったら戻るんだ?}

「いや本当にごめんカグヤ……それ半日は効果が続くようだ」

『本当にすいませんカグヤ様……私がこけたばかりに』

「「「ええええええ!?」」」


 目の前で、3人になってしまったカグヤにエリザベスとアンナは土下座した。


 薬の副作用で分裂し、それぞれパワーも桁違いになったようで、下手に動けなくなったようである。


「どうしようかこの状態……俺が他に2人いるのって変な気分だしなぁ」

「ああまったくだ。しかも力の感覚もおかしいし、下手に動けねぇ」

「アンナ、この状態をどうにかできる魔法ってないのか?」

『えーっと、薬品の作用による一時的な意識の分離及び、体細胞の仮想分裂が起きた状態ですから……』

「それってつまり?」

『すみませんカグヤ様。私にもわかりません』

「「「方法がないのかよ!!」」」


 半日ほどで効果は切れるようだが、それまでこの状態のままである。


「しかし見分けがつけにくいなぁ」

「いっその事、赤色白色黄色の服でも着て見分けを付けたほうが良いかもな」

「なんでそのチョイス?……まぁ、俺だから何でそんなことをするのかが分かったが」



 とりあえず、外見もまったく同じもの同士がいるとややこしいので、服の色を変えることで見分けを付けることにした。


「赤い服の俺がカグヤ1かな」

「なら、白い服の俺がカグヤ2だな」

「そして黄色の服の俺がカグヤ3だ」

『……あのカグヤ様、その分け方って適当過ぎませんか?』

「「「まぁ、わかりやすいから良いんじゃないの?」」」



 エリザベスからしてみれば、なにかの法則がありそうな分け方だが、不明である。


 とはいえ、これで見分けがつけやすくなったのはいいことだろう。


「とりあえず、薬品の効き目は半日程度、つまり大体夕方前ごろには皆元のカグヤになるはずだ」

「わかったよエリザベス兄上」

「それまでおとなしくしていたほうが良いんだろう?」

「しかし3人もいる今なら宿題とかも早く終わらせられそうだよな」

「「そういえばそうじゃん!!」」




……弟であるカグヤの前向きさに、エリザベスはほっとした。


 とりあえずカグヤの部屋から出て、自室へと戻るエリザベスであった。







 その後、きちんと夕方前には効果が切れ、カグヤは元の一人に戻った。


 だがしかし、服を分けていた弊害か、戻った際に衣服が合体し、三色のおしゃれな感じに変わっていたのは言うまでもない。

……わかる人にはわかるネタです。チェェェェンジ!!ゲッ〇ァァァァ!!ついふざけてみたくなりました。

カグヤも「才能学習」でエリザベス同様の才能を持っているのですが、専門的な知識で言えば兄の方が上なので、そこは努力の差で負けているのです。

しかし、今回のこの薬品……使いようによっては結構便利だったかも。

次回から新章に入ります!!

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