#114
今回はいつもより長め。
そして甘めでもある。
深夜、誰もが眠る丑三つ時、カグヤはふと目を覚ました。
暗い室内だが、窓があるのでほんのりと月明りが入ってきている。
そして、暗闇の中でも目が慣れてしまえば‥‥‥そらしたい光景がそこにあった。
「スゥ‥‥‥スゥ‥‥‥」
「‥‥‥スヤァ」
「バッチコーイ、バッチコーイ‥‥‥」
‥‥‥上から順にミルル、リース、サラなのだが、明らかにサラだけ起きていないか?
見てみれば、一応寝てはいるようだ。
ただし、いつの間にかサラだけが寝巻が全部脱げて裸になっているという光景から素早くカグヤは目をそらしてシーツをかけてあげた。
叫ばなかった自分をほめてやりたい。
この周囲を女性陣に囲まれた状況で、このサラの姿を見られてあらぬ疑いをかけられる前にすんだのだから。
なお、この状況で今までどうやって寝ていたのかと言うと、才能を利用して自分に睡眠魔法をかけて強制的に眠りへいざなったのである。
煩悩、理性の危機であるならば最初から感じない状態で寝ればいいと思ったのだ。
‥‥‥しかし、どうやらこの魔法は数時間ほどで起きてしまうようで、今目が覚めたのも魔法が切れたからであろう。
再び魔法を自分にかけようとして、ふとカグヤは気が付いた。
「‥‥‥あれ?アンナは?」
見渡してみたが、アンナの姿がどこにも見当たらない。
と、物音がしたので見てみれば、どうやら部屋の窓が開いているようだ。
「‥‥‥外か?」
そっと彼女たちを起こさないようにベッドから起きて、カグヤは外に出た。
真夜中だが、どうやら今日は満月のようで月明りのおかげで周辺が見やすい。
アンナの足跡らしきものを見つけたので、それを辿ると彼女の影が見えてきた。
古城のすく近くに広がっている黄金の花畑の一角。
そこに彼女は空を見上げてたたずんでいた。
「‥‥‥アンナ、何をしているんだ?」
『ひゃぃっつ!?い、いつの間にカグヤ様がここに?』
後ろからこっそり近づいてカグヤが声をかけると、アンナはびくっとしてカグヤに気が付いた。
‥‥‥何気に今の声が可愛かったような気がする。
落ち着いてから、ちょっと困ったような顔をしつつも、アンナは直ぐに理由を話してくれた。
『ええとですねぇ、月明りが綺麗なのでちょっと外へ出て見ていたんですよ。こういう月夜はなんとなくそういう気持ちになりますからね』
「そういう気持ちって?」
『哀愁ですかね‥‥‥こういう時ってなんとなく寂しくなるというか、思い出すような感じなんですよ』
「思い出すねぇ…‥‥前世とか?」
『まぁ、そう言う事です…‥‥』
アンナはカグヤの魂魄獣になる前は、別の世界で大魔法使いであったことは、出会った当初に既に聞いている事である。
ただ、よくよく考えてみればこれまでアンナの過去について聞いたことがあったのだろうか?
詳しく知ることもなく、いつしか家族のようにずっと一緒だったから気にしていなかったのだが‥‥‥
「‥‥‥せっかくのいい機会だ。どうせ秋の夜長とも言うし、少し語り合おうか。あ、部屋に戻ってな」
『ここではダメなんですか?』
「流石に寒い」
今は秋であり、夜中は冷える。
今頃寒さに気が付いて震えてきたカグヤの様子を見て、アンナは納得したのであった。
部屋に戻ると、まだ皆はベッドで熟睡しているようであった。
彼女達を起こさないようにしつつ、窓際の方に机といすを運び、そこに腰を掛けるカグヤとアンナ。
「それじゃあ、月明りの中で互いに昔について語り合おうかな」
『ええ、そうしましょう』
‥‥‥月明かりが窓から差し込む中、二人は互いの前世について語り合う。
アンナは大魔法使いの時の師匠との出会いや、両親との悲しい別れ、面倒ごとを持ち掛けてきた国に対していろいろ手をまわして報復したことを語り、カグヤは、前世の月夜輝也の時にあった、印象深い出来事などを語る。
「‥‥‥で、その当時は周りが今一つ面白みに欠けていて、灰色の景色のような感じだったかな」
『周囲に興味を持てないどころか、将来もよくわからないような感じでしたか』
「そう言う事だ…‥‥でもまぁ、其の時に一度ある出会いがあったんだっけ」
ふと、思い出したある出来事をカグヤは語った。
「ある日、何も宛もなくさまよっていたら阿呆とか呼ばれる馬鹿ボンボンがいてさ、そいつに絡まれている女子を見つけてさ、その子はクラス内でも結構な人気者だったんだろうけど‥‥‥気まぐれと言うか、制裁を加えて助けたんだよな。今にして思えば、あの一撃は男としてはひどかったかもしれないけどさ‥‥‥」
『‥‥‥釘バットで急所を狙ったことですか?あれは流石に見たら引きましたけどね。助けてくれてうれしかったですね、あの時は』
「そうそう、その他の選択肢もあったと言えばあったんだけど‥‥‥ん?」
そこでふとカグヤは疑問を抱いた。
「‥‥‥アンナ、何で俺が『釘バットで攻撃したこと』を知っているんだ?」
今こうやって互いに前世の事を語り合ってはいるのだが、その詳しい詳細までは話していなかったはずである。
それなのに、その事実を知っているというのはどういうことなのだろうか?
あの当時、その場にいたのはカグヤ(月夜)と、馬鹿ボンボン、そしてあの・・・・・・
『‥‥‥だって、見ましたからね。陽昼照代だった私はね』
カグヤの疑問に答えるかのように、微笑みながらアンナはそう告げた。
「よ、陽昼‥‥‥照代!?」
その返答に、カグヤは目を見開いて驚く。
前世にいたクラスメイトでもあり、そしてその時に見て初めて世界が綺麗に色づいたように見えるきっかけになった少女‥‥‥それが彼女なのだ。
ただ、記憶に残っている事とすればあの転移させられた当日、彼女もクラスにいて‥‥‥カグヤ、当時は月夜であった自身を除いたあのクラスメイト全員での転移に呑まれたはずでる。
『ええ、本人ですからね。今世は「アンナ」、前世は「アンナ・レビュラート」、そしてその前世の前世が‥‥‥「陽昼照代」、それが私なのです』
アンナは語った。
あの転移の後、自分が‥‥‥照代だった自身がどう生きてきたのかと。
案の定というか、ろくでもない人たちの中に転移させられ、クラスメイト達を置いて逃げだし、そしてその世界の魔王の下で一時的に身を寄せて隠していたことを。
転移の際に与えられていた能力が、照代自身は無事でも他の皆が耐え切れない不可となったのか、皆爆発四散して亡き者になったことを。
そして自身は平気であったが、その世界から出ようと思い、魔王の手助けを得て何とかその世界から転移したことを。
『‥‥‥そして、そこでカグヤ様、いえ、月夜さんが出会ったという神に私は会いました。ちょうど入れ違いのような形であり、たどり着いたときにはすでに転生されていたのです』
照代は願った。
自分も同じところへ転生、もしくは転移させてほしいと。
ある思いが彼女の中にあり、其のためにも同じ世界への道を望んだのである。
しかし、別の世界の者がその世界に入ろうとすることは世界そのものに負担をかけてしまう。
そもそも月夜の例自体が特殊なモノであり、照代は力不足で転移や転送させようにも不可能だと告げられた。
だが、諦めない姿勢を見た神は照代にチャンスを与えた。
『別の世界に‥‥‥記憶すらなくした状態で、転生し、そこで力をつけて戻って来ることです。記憶がないのであればその世界でそのまま過ごせばいい。だけれども、想いが無くならずにきちんと力をつけて戻ってくることができれば……チャンスはもらえたそうです』
そして、照代はアンナ・レビュラートとして別の世界へ転生し、そしてそこで力を付けた。
最初の頃は記憶もなく、ただほんのりと誰かの事を思うだけであったそうだ。
ただ、己が何者かの探求心や、師匠の死によって引き継いだ研究などから‥‥‥
『その私がいた世界が崩壊する数年ほど前に、ようやく私は全てを思い出したのです。そして、世界崩壊の際に転移して‥‥‥神の下へ再びたどり着き、こうして今は月夜、いえ、今はカグヤ様の魂魄獣として過ごしてきたのですよ‥‥‥』
語り終え、ふぅっと息を吐くアンナ。
その顔は、今まで隠してきたことすべてさらけ出したようであり、どこか美しくも、そしてはかなげにもカグヤは見えた。
「だったら、なぜ今まで話してこなかったんだ?」
『‥‥‥どうせ、照代であった私の印象はカグヤ様にとどまっていないと思っていました。それに、告白すらしておらず、ただのストーカーみたいな後ろめたさがありましたからね‥‥‥』
「ストーカって‥‥‥ん?告白?」
アンナの話に苦笑いをしつつ、ふとカグヤはその言葉に気が付いた。
『‥‥‥もうこの際隠す意味もありません。全てを話した今、あの日、いえ、あの世界で出来なかった言葉があります』
そう言うと、すっとアンナはカグヤの顔に近づく。
そして耳元に口を寄せて‥‥‥
『助けてくれた、あの日、本当にうれしかったです。そして、その時から私はあなたの事が…‥‥好きでした。だから‥‥‥』
そうささやいたかと思った次の瞬間、すばやくアンナは動き、
―――――――――――ちゅっ
「‥‥‥!?」
すばやくカグヤの口をアンナは己の唇で奪った。
ほんの一瞬、けれどもどこか長く感じられる様な深い深い口づけ。
『‥‥‥ふぅ』
「‥‥‥」
口が離れ、互いに見つめ合うカグヤとアンナ。
「えっと‥‥‥アンナ?」
『ふふふ、ファーストキスはいただきました。これは一生を捧げる心からの、私の誓いです』
いまだに感触が残る口を押えて動揺するカグヤに、アンナは妖艶な笑みを浮かべた。
いや、その笑みは何処か‥‥‥気が付けば、前世の照代の笑顔に似ているのかもしれないとカグヤは思ったのだが‥‥‥
『それとも、まだ足りませんでしたか?』
「っ!?」
再びアンナが口づけをしようと顔を近づけてきた。
よく見れば頬が赤くなっており、興奮しているようでそのせいかどこか歯止めが利かなくなっている可能性がある。
とはいえ、余りの出来事すぎて動揺が収まらず、身体が硬直してカグヤは動けなかった。
そして、もう一度行きそうなその時。
「「「スト―――――――ップ!!」」」
「『!?』」
二人の顔の間に、3つの腕が振り下ろされて二度目は防がれた。
「『へ?』」
ふと気が付けば…‥‥そこには、いつの間にかミルル、リース、サラの3人が起きて立っていた。
「何を勝手にやっているんでですのアンナさん!!」
「抜け駆けはずるいぞ!!」
「こっちだっていろいろあるの二ーーーーーー!!」
三者三様、それぞれぷんぷんと怒りつつもその顔は赤い。
「もしかしてだけど…‥‥3人ともずっと見ていたの?」
恐る恐るその可能性に気が付き、カグヤが質問すると3人ともぐるっとカグヤの方に振り向いた。
「そうですわよ!!カグヤたちがそこで二人で最初から語り合っているときからですわ!!」
ミルルの言葉で、最初からみられていたことにカグヤとアンナは気が付いた。
二人とも転生者であることは、話しても信じてもらえないだろうと思って隠していたのだが、全部バレたようなものである。
「大体こそこそやって笑いあっているときから見ていましたわ!!」
「互いに思ってはいるようだけど、僕らこほん私たちもカグヤの事が好きなんだよ!!」
「愛人希望とはいえ、その感情を抱いたので責任取って欲しイ!!」
ミルル、リース、サラのその言葉にカグヤは気が付かされる。
この3人もまた、アンナ同様にカグヤの事を…‥‥想っていたのだと。
そして、今内を口にしたのかに気が付いた3人、いやサラは平常心のままのようであったが、ミルルとリースはボンっと音を立てて顔が一瞬で赤くなり、今頃羞恥心が襲い掛かって来たようである。
「とにもかくにも、わたくしもカグヤの事がいつの間にか好きになっていたのですわ!!」
羞恥心を振り払うかのように素早くそう言い、ミルルは‥‥‥‥
「むぐつ!?」
カグヤの唇を奪い、その同様で口が離れて動けないカグヤに今度は‥‥‥
「僕、いいえ私もあの馬鹿親父から助けられたその時からお前の事が好きだよカグヤ!!」
「むぐぉっ!?」
リースが襲い掛かってまたまた奪い、そして極めつけに、
「愛人希望でしたが‥‥‥あの時、電撃で殺されかけたときに助けられ、その強さと優しさに本当に心から好きになりましタ」
「もがぉぉぉっつ!?」
トドメと言わんばかりに、サラが口づけをして…‥‥
「ぷはぁ!!‥‥‥えっと、その、皆が俺の‥‥‥」
「「「『好きなんですよ!!』」」」
何とか息を吸って整理しようとしたとたん、ここで結束を組んだのか今度は4人そろって次々と襲い掛かられ、そのままカグヤは顔が熱くなりながら、許容量オーバーで湯気が出そうなほどになり、そのまま気絶したのであった。
激しすぎたというか、いきなりすぎたというか、真正面から来られて心にどんどん攻撃されたというか…‥‥シグマ家での鍛錬とか意味もなく、籠絡どころかゆでだこ状態にされたのである‥‥‥
――――――――――――――――――――――――――――――――――
SIDE???
‥‥‥その存在はあっけに取られていた。
今目の前で見せつけられた怒涛の光景についつい見入ってしまい、与えるはずだった試練を与える間もなく、その肝心の人物が気絶したからである。
正直言って、その存在にとってもいきなりのこの告白ラッシュは予想外だったのである。
好意を持っているようであり、その愛は本物なのか問いかけたかったのだが‥‥‥こうして見せつけられると、試練をするまでもなく本物であるという事がよくわかった。
ふっと思わず笑みがこぼれ、その存在は与えようと思っていた試練を放棄し、与えないことにした。
こうしてみると、本当に今気絶した男が、周囲から惹かせ、そして愛されていたのが理解できるのだ。
かつて、この城で行われた婚約破棄現場での、その存在にとって親友であった人物の涙を思い出す。
あの親友は、本当に好きだった相手に裏切られ、そして悲しみから抜け出せなくなった。
そんな裏切るような輩を許せるわけもなく、その存在は裏切り者の国を滅ぼした。
結果として、関係ない人まで巻き込んだことも悔やみ眠っていたのだが‥‥‥今の目の前の人物であれば大丈夫だろうと、その存在は思う。
あのとき以上の愛を感じ、そして信頼に足る人物であると思えたからだ。
そうでなければ‥‥‥その人物を好む一人が、世界を超えてまで告白することが無かっただろうから。
(ん?)
ふと、その存在はある事に気が付いた。
告白されまくっての口を奪われまくってので気絶した者の気配が、少し変化したことを。
かつての親友を除いては、誰にも惹かれることが無かったその存在すらも惹き寄せる禍のような、その気配。
もしかしたら、今ので何かの才能に目覚めたのだろうかと思いつつ、そっとその存在は朝になるのを待つことにした。
その時に姿を彼らの前に表して、自身が思ったことを告げようと思ったから。
そして、真実の愛がある彼らに対して祝福を与えようかと思ったから‥‥‥
‥‥‥これってさ、カグヤは鈍感と言うよりもヘタレもしくは恋愛下手のような気がしてきたのだが気のせいだろうか?
何にせよ、怒涛の告白ラッシュによって精神的に許容量を超えて気絶したカグヤ。
そして、告白をして思いを伝えたアンナ、ミルル、リース、サラ。
さて、どうなるのかは次回に続く!!
‥‥‥書いている側が悶えそうになったので、少々気絶ネタと言う物をぶち込みました。本当なら一線を越えさせたいと思ったけど、いきなりは流石にまずいので持ち越しです。と言うか、このままノクターン突入されても困るしね。




