#112
主人公、出番少なめ
SIDEカグヤ
「ふぅ‥‥‥」
ごたごたしたものの、とりあえず目的として秋から冬の間限定で湧き出るという温泉に、カグヤは浸かっていた。
同室になったのだが、とりあえずはまずは癒しをという事で、入浴しに来たのである。
場所は宿泊場所である古城の裏手、いつの間にか建てられていた季節限定の温泉に入るだけの戦闘のような場所であり、男湯と女湯にきちんと分けられていた。
なお、女湯との仕切りは板一枚のようだが、中身にはどうやら鉄板が仕込まれているようで、のぞき対策がなされているらしい。
『ひろ~い!!』
『温泉ですよー!!』
「お、あっちはあっちで入り始めたか」
女湯の方から聞こえてきたアンナたちの声を聞き、静かに入るのが好きなカグヤはそっと仕切りから離れるのであった。
と言うか、勘でなんとなくいたら嫌な予感がしたのもある。
‥‥‥壁を突き破るとか、破壊されるとかはないよね?魔法や魔拳闘士の人がいるとその危険性が怖い。
ただでさえ「巻き込まれの才能」があるから、あっちで剣kが会ってそれに巻き込まれたら最悪であろう。
しかし、この時カグヤは気が付いていなかった。
すでにしっかり巻き込まれていたことに‥‥‥
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SIDE女湯一同
『ふぇぇぇ~、良い湯ですねぇ』
「本女、お前は本の姿とかあるのにそこまで脱力して浸かっていいのか~?」
『こっちが本体の様なものですから別にいいんですよ~。それよりもリースさんの方も脱力しているじゃないですか~』
「ぐぬぬ‥‥‥だが、争おうにも今は無理だなぁ~‥‥‥」
いつもなら争うアンナとリースなのだが、二人とも温泉によって脱力状態で休戦となっていた。
腑抜けているというか、二人とも温泉の気持ちよさで喧嘩する気力を削がれたのである。
この温泉、効能に「喧嘩をいさめる」というのが実はあったのだが‥‥‥一時的とはいえ、互いに平和な感じになったのであった。
「にしても、良い湯かナ。マドラウド山の火口の溶岩風呂に比べると暑さが物足りないガ‥‥‥」
「溶岩風呂って‥‥‥ああそういえば、サラは元々火炎龍でしたわね。溶岩に入っても平気なのでしょうか」
「平気平気。長はもっと熱さを求めて火山巡りをしていたけど…‥‥ついでにその熱を奪うようで、長の後は温度が低くなってぬるかったなァ。今は人の体になっているせいか、感じる感覚はそれに近いようだから溶岩はもう無理だけどネ」
そう寂し気そうに言うサラ。
中身はそのままなのだが、外側がほぼ人間に近くなっているので溶岩に入浴できない可能性があるのだ。
けれども、今更悔やんでもしょうがないので、きっぱりと諦めているのであった。
「それにしても…‥‥やっぱり大きいですわね」
ふと、湯船に浸かる皆の姿を見て、ミルルはつぶやく。
自身の胸元を一瞥し、他の皆の胸囲を見渡す。
「‥‥‥才能に胸囲が大きくなる才能ってありますの?」
『ん?あるはずですね。ですがまぁ、ほぼ人間には目覚めないようですし、そもそも種族や体質、遺伝などがあるのですよ』
ミルルの質問に、アンナは答えた。
その質問の中に込められた悲しいような感情を理解しつつも、無駄に夢を見させて落とすようなことを避けるためである。
ミルルとて、スタイルが悪いわけではない。
全体的に引き締まり、スレンダーと言うか、モデルに近い体形と言ったほうが良いのだろう。
だが、その他の3人の肉体の方が問題であった。
アンナは言わずもがな完璧と言うか、大人の女性と言うか、美しい黄金比と豊満な胸を持ち、
リースは元々男装の完全偽装をしていたはずなのに、何処をどうやってその驚異の胸囲を隠していたのかと問い詰めたくなるほどであり、
サラに至っては元は火炎龍というモンスターなのに何処をどう見ても美しい美女へと、そしてドラゴンだからかDサイズはあろう胸囲を誇っていたのだ。
‥‥‥全員見た後、己の胸を見て、そして再度他の面子の胸を見てミルルはプチっと何かが切れた。
「なんでわたくしにはそこまでないのですわぁぁぁあl!!」
『きゃぁぁあっつ!?ちょっとミルルさ、あふぇゎふぁぁぁぁぁぁっ!』
まずは手近にいたアンナが犠牲となった。
「リースのその胸囲も隠せるものではないですわよね!?それなのにこうやって触るとしっかり本物と分かるのがムカつくのですわぁぁぁぁぁぁ!!」
「あひゃっ!?ちょっと、み、ふわぁぁぁぁぁぁっ!?」
そして、すぐさまリースも犠牲となり‥‥‥
「極めつけはサラ!!貴女は元々ドラゴンなのに薬で人になってそれがあるなんてどうしているのですか!!あれですか!!なんとなくで大きく出来る薬があるのですかぁぁぁぁぁ!!」
「そんなのなイ!!ただ単に人になった時からこのサイズで、みやぁぁぁぁッツ!?」
最後に、サラも手にかけられたのであった…‥‥
「すいません‥‥‥ちょっとコンプレックスで我を忘れていましたわ」
「良いってば‥‥‥でも、出来ればもう少し優しくね‥‥‥」
「し、死ぬかと思っタ‥‥‥痛みではなく、快楽によっテ」
数分後、ミルルの暴走が収まり、一息ついたころには全員ぐったりとしていた。
『ううう‥‥‥そうだ、リースさんの完全偽装の才能で何とかできるのではないでしょうか?』
何とか体の力を戻して、アンナはふと思いついた提案を口に出した。
「おお、なるほど」
「ダメですわね。それは偽装できたとしても所詮偽物。むしろ物凄くむなしくなるのですわ‥‥‥」
その言葉に、全員うっと言葉を詰まらせる。
「‥‥‥はぁ、他の皆のスタイルを見ていると自信を無くしそうですわね」
「具体的にいうト‥‥‥やはりカグヤ様を想ってのことカ?」
「!?」
ミルルのつぶやきを聞いたサラが、直球で尋ねて来た。
「愛人たるもの、その相手となる相手への好意を持つ者をしっかりと見定めヨ!それが、私の叔母が言っていたことであったし、きちんとわかっているのダ。それに、アンナもリースも同じだろウ?」
『は!?』
「っ!?」
他の二人にも飛び火し、いきなりの事で瞬時に皆顔が赤くなった。
と言うか、叔母と言われるとドラゴンの方なんだろうけどそんなことがあるのかと、皆がツッコミを入れようとしたが‥‥‥今の直球の質問にやられて、すぐには声が出せなかった。
皆自覚はあれども、真正面からの言葉には弱かったのだ。
サラも自覚があるのかないのかで言えば、ある方である。
ただし、彼女自身は元が火炎龍。シグマ家と言う脅威を考えなければ自然界の中でもかなりの強者の部類に入る。
その強者ゆえに、余裕をもって己に向き合えるので動揺はしなかったのだ。
サラの質問に対して動揺した3人は、少し考え‥‥‥互いに本音をぽつりと漏らし始めた。
「‥‥‥まぁ、そう言う事になりますわね。元々わたくしはカグヤの力に危惧を抱いて、監視として見張っていたはずが‥‥‥いつの間にか受け入れられ、普通に接しているうちに次第に惹かれていましたわね」
「僕、こほん私の場合は少し違うかな。最初の頃は決闘を思わず挑んだけど、もしかしたらその時に既に惹かれていたのかもしれない。興味を持ち、友人となり、そしてあの時…‥‥家の事情で襲われかけたあの瞬間、助けられて、そして偽装を解除して生活できるようになってから、本当の恋心に気が付いていたのかもしれないな」
ミルルとリースのつぶやきに、うんうんと頷きながら聞くサラ。
その横では、少しだけ真剣な表情でアンナは考え込んでいたが‥‥‥その理由を話すことはなかった。
ただ、それでも互いにこの場で感じ取れたのは、ここにいるみんながカグヤが好きな事である。
いつのまにか惹かれ、次第に恋を抱いていた。
それは皆同じ気持ちのようであった。
「って、カグヤが隣の湯に入っていますけど聞かれていないですわよね?」
ふと、ミルルはその事に気が付いた。
ここは女湯であり、男湯との仕切りがある。
けれども、その仕切りは木の板(内部は鉄板)だけであり、会話が聞こえている可能性があるのだ。
‥‥‥流石に好意があるとはいえ、この話が聞かれていたらと考えるとミルルたちは恥ずかしくなったのだが。
「それじゃ、直接聞いてみましょうカ?」
「「『え?』」」
唯一平常心であったサラがそう言って、
ドッカァァァァン!!
「カグヤ様、今の話が聞こえていたでしょうカ?」
「!?」
「「『!?』」」
‥‥‥まさかの壁を直接破壊して、男湯との仕切りを消し飛ばした。
サラは結構どこか抜けているところがあるのだが、今回はそれが最大限に出たようで直接聞きに行くというのを、この場で実行してしまったのである。
そして、その向こうではカグヤが驚きのあまり目を見開き、しばしの間沈黙があって‥‥‥カグヤは鼻血を吹き出して気絶したのであった。
なぜなら、仕切りが吹っ飛んだと同時に、湯も吹っ飛んだのである。
そして、当たり前と言えば当たり前なのだが、皆纏わぬ姿で肢体をさらしていたのだ。
‥‥‥流石に、健全な男子であったカグヤには少々刺激が強すぎたのである。
かくしてこの日、女湯に悲鳴が響くのと同時に、サラは厳重に皆から叱られるのであった。
‥‥‥「巻き込まれの才能」で、皆の会話に巻き込まれた模様。良い話にしたかったのだが、なぜかラブコメ風ラッキーなんとやらになってしまった。
なお、この時後頭部を強打したのかカグヤは何があったのかは覚えていなかったようである。
‥‥‥着替えをされていたけど、誰によって着替えさせられていたのだろうか?この時、女性陣皆そっぽを向いたそうな。
次回に続く!!




