閑話 前世の出来事
本日2話目!!
「サイドストーリー:異世界転移クラスメート達 その1」
で出ていた照代の回想の別視点です。
‥‥‥まだカグヤが、前世の月夜輝也だった時の地球でのお話である。
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「暇だなぁ‥‥‥」
休日、月夜は特に意味もなく街中をうろついていた。
ここ最近、まだ春なのに周囲は受験勉強とか言って準備する人が多く、月夜はどことなく他人事のように思えていた。
別に中卒になる気もなく、高校へ進学することは一応決めてはいるものの、何処へ入学しようなどは考えていない。
単に、今の人生に面白みが特になく、風景が灰色のような、何も感じないような感覚しかないのだ。
別に月夜の頭がおかしいとかではない。
これでも成績も上位だし、運動もそこそこはできる方。
ただ、人生にやる気がない。それだけの理由なのである。
けれども、どこか色づくようなことはなかった。
周囲は受験を今のうちから備えていくべきだと言われてはいるのだが、向かう先もわからない。
将来どうなるかもわからず、特にこれと言った目標もなければ…‥‥相談する相手もいないのだ。
そんなわけで、適当に近場をうろついて目的探しの旅でもしようかなと考えていた時だった。
「‥‥や‥‥」
「ん?」
ふと、なにかの拒絶するような声が聞こえ、その場へ月夜は向かった。
路地裏のようであり、危険性も考慮してとりあえずその辺になぜか投棄されていた釘バットと金槌のうち、釘バットの方を選択して気配をできるだけ消して近づく。
すると、路地の突き当りの方で誰かが言い争っていた。
「くっくっっく・・・よう、照代ちゃん。どうにか彼女になってくれねぇか?」
「嫌です。私は誰とも付き合いたくありませんし・・・・」
見てみれば、何処ぞやの大馬鹿ボンボンと名高い男子と、月夜の中学の‥‥‥クラスメイト?である女子がそこにいた。
疑問形なのは、特に周囲に興味がなかったがゆえに覚えていないだけである。
確かクラスメイトに人気のあった、陽昼照代とか言う名前だったかなと、何とか月夜はその名前を思い出していた。
状況を見るに、どうやらあのボンボンが無理やりここへ連れ込んだようだが、当の照代本人に拒絶されているようだ。
念のために、携帯でその様子を撮影してみる。なんかめんどくさそうな予感が月夜にはしたのだ。
そりゃ、普段大馬鹿をやらかしてそろそろ勘当されそうな大馬鹿野郎相手に告白されたとしても、嫌だろう。
だが、その態度をどうやらあの馬鹿ボンボンの脳内お花畑野郎は気に食わなかったようである。
無駄に体格の良い体を怒りに震わせ、拳を振り上げた。
「ああぁぁん!?ふっざけんなこのくそ女!!」
おそらくと言うか、ほぼ確実に言う事を聞かない相手を暴力で屈服させる気だろう。
手をかけた時点で、すでに犯罪であろうし、ちょっとイラっと来たので‥‥‥
ごきぃん!!
「はぁうっ!?」
ちょうど先ほど持ってきた釘バットを、その馬鹿の股間めがけてゴルフのようなスイングでたたきつけた。
ちょっとぐしゃぁって音が聞こえたから、潰れているかもしれないが‥‥‥まぁ、人助けの犠牲と考えればいい。
「・・・何をやっているのかと思えば、何処ぞやの阿保か」
釘バットを適当に投げ捨て、ふとこいつの名前を思い出して月夜はつぶやいた。
そう、このボンボンのフルネームは「亜風 砲麿」。
名前を省略して、漢字も変えて「阿呆」と彼を憎む者たちに呼ばれていたのである。
「て、輝也君!?」
と、月夜の存在に気が付いた照代が声を上げた。
涙目であり、よっぽどこの阿呆の相手で怖かったんだろうなと考えるとどことなく哀れに思える。
‥‥‥後、少しだけどきりと胸が鳴ったように月夜は思えた。
「ど、どうしてここに‥‥‥」
「まあ、偶々なんかやっているなと見かけてな。そこいらにあった声で一発ガツンとやっただけだ。もちろん、こいつの方が100%悪いだろうし、しっかりとそこの監視カメラや、この携帯で撮影をしているからな」
尋ねられ、少し今のドキッとした感じが分からないので、そっぽを向きつつ、ぶっきらぼうに返答する。
嘘は言っていない。ただまぁ、ちょっと釘バットで男の大事なところを潰したのはやり過ぎかなと、少し思えてきたが。
ただし慈悲はない。
「・・・・どうして私を助けてくれたの?」
照代がそう言いながら月夜を見てきた。
その顔は助けてくれた安堵感と、なぜと言う疑問の表情が浮かんでいた。
普段クラスにいても、他の男子たちが声をかけていても、月夜はこれまで照代とまともに顔を合わせたことはなかったからだ。
少し考え、そして月夜は答えた。
「ん?助けようと思ったから助けた。ただそれだけの単純な理由さ」
そう、ただそれだけの簡単な理由。
状況からも助けなくてはいけないだろうし、なによりもあのボンボンは一度ぶっ叩いてみたかったというもある。
‥‥‥けれども、本当にそれだけで動いてしまうものだろうか。
くるりと後ろに向き、月夜はその場を去りながら考えこんだ。
あの時、助けを求めるかのような表情、そしてあの顔と心に聞こえてきそうな声。
それらが訴えかけてきて、無意識のうちに助けたいと月夜自身が思ってしまったのだろう。
ふと、空を見て思い浮かぶのは照代の顔。
考えると、少しだけ胸がドキドキするような気がした。
「‥‥‥まさかな」
たった一度の、この何気ない手助けで自分の心に変化が起きるとは考えにくい。
それに、照代にとってもただ助けてくれた人だけと言う位置づけになるはずで、そう長いこと考えることはないだろう。
そう思うと、なぜだか寂しいようなことに思いつつも、月夜は帰路につく。
念のために、あの馬鹿ボンボンがまたやらかさないようにご丁寧に証拠映像やこれまでの所業などを記録した品々を、彼の親宛に匿名で届けておく。
しばらくたった後、あの馬鹿ボンボンは姿を消した。どうやら親にしごかれまくっているようだが‥‥‥
それからクラス内で、受験が差し迫る中月夜はふと照代のいるところを見た。
他の生徒たちと混じって彼女も勉強をしているようだが、月夜が見ているのに気が付くとお礼のつもりかぺこりと頭を軽く下げてくれた。
どことなくうれしいような気持がして、なんとなく灰色だったような景色が少しだけ色づいたように月夜は思えた。
自覚のない好意、いつかは消えるであろうその思い。
でも、悪くはないなと思いつつ、月夜は受験に向けて自分も勉強をし始めるのであった。
例え何にも興味が持てなくとも、せめてこの色づいた風景を大切にしたいように思えたのだから‥‥‥
‥‥‥自覚のない恋心である。
というか、アンナもとい照代がその後も自身に恋心を持ち続けていたに気が付いていない模様。
正直「恋愛」タグをつけた方が良かったかと悩み中。でも入らないんだよなぁ。
次回から新章です!!と言うか、ようやくその部分での距離が縮まるというか、話が進むというか。
‥‥‥ちなみに、この馬鹿ボンボンはこの話で初めて名前が出たけど、本当は最初の方でテンプレの大馬鹿野郎として出す予定だったんですよね。でもまぁ、設定して見たら色々と屑になりそうだったので、早期にご退場いただきました。流石に胸糞悪すぎる輩を書こうとしたらこっちがこらえきれなくてR18レベルの報復が‥‥‥